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第3章 死者の都
底なる玉 3
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<アマテラス>ブリッジの中央に、豊かな髪を宙に漂わせ、静かに佇む少女の姿が、青白い発光の中に浮き上がっていた。
少女は瞼を薄く開き、その両手の指先は、何かを感じとろうとするかのように、下方へとまっすぐに伸ばされている。
インナーノーツは「亜夢」という少女の容貌は記憶にある。その像が亜夢の姿である事は、皆すぐに認識できていた。
同時に、ブリッジを包み込む海中にいるかのような雰囲気が、亜夢の心象世界の中で、後に『メルジーネ』と呼ぶようになった存在に、船を掌握された際の記憶を呼び起こす。<アマテラス>を機能停止にまで追い込んだ、亜夢の魂に潜んでいた「エレメンタル」……ツインソウルを持つという亜夢の、一方の魂となっている存在。それが、直人を通して<アマテラス>に何らかの作用をもたらしているのか?
カミラとアランは、藤川の示した直人との"リンク説"が確かであることを認めざるを得ない。
直人が振り返り、ホログラムの方を見やると、その気配を感じたのか、亜夢の姿をした少女の方もゆっくりと瞳を開いて応えた。
「亜夢……アム……ネリア……」
「アムネリア?」ティムは、直人の呟きの中に聞きなれない名前を耳にする。
ホログラムの"アムネリア"と呼ばれた存在は静かに頷くと、再び目を閉じる。
「……なにが…あっ……じょ……きょうは……」
"アムネリア"と呼ばれた存在の影響か、通信機能にも幾分回復が見られる。何とか、東だとわかる人物像が、モニター越しに呼びかけてくる。
「……時空歪曲場が、波動収束フィールド内で再構成……正規化されている?……これなら」言いながら、咄嗟にアランが通信再チューニングにとりかかると、通信映像と音声の乱れが、何とか判別できるレベルまで回復した。
「チーフ!所長!」「……通信回復!?……なんだ?……ホログラムか?」
不鮮明な映像ながらも<アマテラス>ブリッジ中央に現れたホログラムが、亜夢の姿をした『メルジーネ』である事は、東にも察しがついた。同じ映像は<イワクラ>でミッションを見守る藤川らにも届いている。
間もなく、IMCの卓上パネルと、<イワクラ>ブリッジのホログラム投影機にも同様の映像が、転送されてくる。通信状況のせいであろう、転送されたホログラムは、映像の端々を千々に乱れていたが、その人物像は概ね把握できた。
「『メルジーネ』……」「亜夢そっくり……あのコのあの『メルジーネ』の魂が<アマテラス>に?」藤川の呟きに、貴美子は確認を求めずにはいられない。
「うむ……」
「……『メルジーネ』?……いったい何が起こっていると……」
<イワクラ>オペレーションブリッジの後方で事態を見守っていたムサーイドが、問いかけながら進み出る。
貴美子がムサーイドの声に反応し顔を上げた時、彼は不意によろけると、頭に手を添えながら、近くのコンソールにもたれかかった。
「ムサーイドさん!」貴美子はムサーイドの方へ駆け寄ると、よろける彼の腕をとる。
「……だっ大丈夫。少し疲れが出たようです」
義眼の作りは精巧だ。間近でもそれとは気付かれない。
「部屋の方でお休みになっていても……」「いえ……私も……ミッションを最後まで見届けたい」
その様子を見ていた齋藤は、すぐに簡易椅子を用意するとムサーイドに着席を促した。
「……ありがとう……」
着席し、身体を落ち着かせると、ムサーイドは再び口を開く。
「ドクター。先ほどからの『メルジーネ』とは、一体……」
他のIN-PSID代表団も疑問を同じくしていた。
「うむ……折を見て詳しく話すべきとは思うが……我々がインナーミッションで遭遇した『エレメンタル』だ。どういうわけか、水らしき表象が顕著に現れるのでこう呼んでいる」
『エレメンタル』すなわち、PSI情報素子がインナースペースで人の認識として意味を成す最小概念、『PSIクラスター』の複合コンプレックス体。これらの名称定義に関しては、事前に代表団とも共有している。
インナースペースという抽象世界を人間の認識を持って理解する為には、結局のところ『ロゴス』の力を借りざるを得ない。インナースペースから得た知見を言語化し、共有していく事。これもまた、IN-PSIDの重要な仕事の一つだった。
「"彼女"がいったい何者なのか、まだ解明できていないが……少なくとも」
藤川は再び<イワクラ>ブリッジに転送されたホログラムに目を凝らす。
「今は、我々に味方してくれているようだ」
「エレメンタル……『メルジーネ』」高負荷のカメラ転送モードから解放されたムサーイドの義眼が『メルジーネ』の姿を具に捉えようと、細やかに焦点を絞り込んでいた。
茅原が巻き上げる白煙は気管を圧迫し、間近に迫った炎の壁が浅黒い肌をチリチリと刺し回す。
迫る火壁に追い立てられ後ずさる。
石に当たった足の痛みに振り向くと、背後には、夜闇を呑み込む淵が拡がっていた。
……大珠よ……我らが魂よ……
胸元で握り続けていた青緑の大珠は、迫る焔に照らされ、煤と汗に塗れた己の顔を朧げに映り込ませている。
…………
……御神火様……
……………
……………解せぬ…………
…………なにゆえ……なにゆえに……
……悪しきは、あの者達ではありませぬか!?……
……なにゆえ私を焼かむと欲する……
……なにゆえ……あの者らを焼かぬ!!……
……なにゆえ……我らを……
少女は瞼を薄く開き、その両手の指先は、何かを感じとろうとするかのように、下方へとまっすぐに伸ばされている。
インナーノーツは「亜夢」という少女の容貌は記憶にある。その像が亜夢の姿である事は、皆すぐに認識できていた。
同時に、ブリッジを包み込む海中にいるかのような雰囲気が、亜夢の心象世界の中で、後に『メルジーネ』と呼ぶようになった存在に、船を掌握された際の記憶を呼び起こす。<アマテラス>を機能停止にまで追い込んだ、亜夢の魂に潜んでいた「エレメンタル」……ツインソウルを持つという亜夢の、一方の魂となっている存在。それが、直人を通して<アマテラス>に何らかの作用をもたらしているのか?
カミラとアランは、藤川の示した直人との"リンク説"が確かであることを認めざるを得ない。
直人が振り返り、ホログラムの方を見やると、その気配を感じたのか、亜夢の姿をした少女の方もゆっくりと瞳を開いて応えた。
「亜夢……アム……ネリア……」
「アムネリア?」ティムは、直人の呟きの中に聞きなれない名前を耳にする。
ホログラムの"アムネリア"と呼ばれた存在は静かに頷くと、再び目を閉じる。
「……なにが…あっ……じょ……きょうは……」
"アムネリア"と呼ばれた存在の影響か、通信機能にも幾分回復が見られる。何とか、東だとわかる人物像が、モニター越しに呼びかけてくる。
「……時空歪曲場が、波動収束フィールド内で再構成……正規化されている?……これなら」言いながら、咄嗟にアランが通信再チューニングにとりかかると、通信映像と音声の乱れが、何とか判別できるレベルまで回復した。
「チーフ!所長!」「……通信回復!?……なんだ?……ホログラムか?」
不鮮明な映像ながらも<アマテラス>ブリッジ中央に現れたホログラムが、亜夢の姿をした『メルジーネ』である事は、東にも察しがついた。同じ映像は<イワクラ>でミッションを見守る藤川らにも届いている。
間もなく、IMCの卓上パネルと、<イワクラ>ブリッジのホログラム投影機にも同様の映像が、転送されてくる。通信状況のせいであろう、転送されたホログラムは、映像の端々を千々に乱れていたが、その人物像は概ね把握できた。
「『メルジーネ』……」「亜夢そっくり……あのコのあの『メルジーネ』の魂が<アマテラス>に?」藤川の呟きに、貴美子は確認を求めずにはいられない。
「うむ……」
「……『メルジーネ』?……いったい何が起こっていると……」
<イワクラ>オペレーションブリッジの後方で事態を見守っていたムサーイドが、問いかけながら進み出る。
貴美子がムサーイドの声に反応し顔を上げた時、彼は不意によろけると、頭に手を添えながら、近くのコンソールにもたれかかった。
「ムサーイドさん!」貴美子はムサーイドの方へ駆け寄ると、よろける彼の腕をとる。
「……だっ大丈夫。少し疲れが出たようです」
義眼の作りは精巧だ。間近でもそれとは気付かれない。
「部屋の方でお休みになっていても……」「いえ……私も……ミッションを最後まで見届けたい」
その様子を見ていた齋藤は、すぐに簡易椅子を用意するとムサーイドに着席を促した。
「……ありがとう……」
着席し、身体を落ち着かせると、ムサーイドは再び口を開く。
「ドクター。先ほどからの『メルジーネ』とは、一体……」
他のIN-PSID代表団も疑問を同じくしていた。
「うむ……折を見て詳しく話すべきとは思うが……我々がインナーミッションで遭遇した『エレメンタル』だ。どういうわけか、水らしき表象が顕著に現れるのでこう呼んでいる」
『エレメンタル』すなわち、PSI情報素子がインナースペースで人の認識として意味を成す最小概念、『PSIクラスター』の複合コンプレックス体。これらの名称定義に関しては、事前に代表団とも共有している。
インナースペースという抽象世界を人間の認識を持って理解する為には、結局のところ『ロゴス』の力を借りざるを得ない。インナースペースから得た知見を言語化し、共有していく事。これもまた、IN-PSIDの重要な仕事の一つだった。
「"彼女"がいったい何者なのか、まだ解明できていないが……少なくとも」
藤川は再び<イワクラ>ブリッジに転送されたホログラムに目を凝らす。
「今は、我々に味方してくれているようだ」
「エレメンタル……『メルジーネ』」高負荷のカメラ転送モードから解放されたムサーイドの義眼が『メルジーネ』の姿を具に捉えようと、細やかに焦点を絞り込んでいた。
茅原が巻き上げる白煙は気管を圧迫し、間近に迫った炎の壁が浅黒い肌をチリチリと刺し回す。
迫る火壁に追い立てられ後ずさる。
石に当たった足の痛みに振り向くと、背後には、夜闇を呑み込む淵が拡がっていた。
……大珠よ……我らが魂よ……
胸元で握り続けていた青緑の大珠は、迫る焔に照らされ、煤と汗に塗れた己の顔を朧げに映り込ませている。
…………
……御神火様……
……………
……………解せぬ…………
…………なにゆえ……なにゆえに……
……悪しきは、あの者達ではありませぬか!?……
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……なにゆえ……あの者らを焼かぬ!!……
……なにゆえ……我らを……
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