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第3章 死者の都
底なる玉 2
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「電磁結界の状況は!?」如月の鬼顔も焦りの色を隠せない。
「まだ、何とか!」「もっているうちに、急いでくれよ!」
特異点を作り出している"何か"が、完全に現象化したら、結界もひとたまりもない事は容易に予測できる。<イワクラ>ブリッジは、騒然となって現状確認と<アマテラス>の帰還サポートに全力を挙げていた。
結界耐久予測時間のカウントダウンと、<アマテラス>の帰還時空間経路調整の進捗が、<イワクラ>オペレーションブリッジの中央モニターで競い合い、ブリッジに集う一同の意識を釘付けにしている。
その片隅に表示された<アマテラス>との通信モニターが、少しずつ乱れ始めていた事に関しては、誰も気に留めていない。
『PSI精製水処理区画』の扉、及び『水織川研究所』エントランスのインナースペース領域部に打ち込まれた多元量子マーカーは、暴風雨に抗う草花のように、特異点が多次元に渡って作り出す変動に耐え忍んでいた。だが、マーカーの希薄なPSIバリアは、この猛威に十分な耐性を与えてはくれない。PSI バリアごと握りつぶされるかのようにひしゃげ、砕け散ると、インナースペースの闇の中へと吸い込まれていく。
「……なっ!?時空間転移、緊急停止!!」
「はっ!?アラン、どういう事!?」カミラが叫ぶと同時に通信モニターの映像が乱れ、砂嵐に埋められていく。東が何かを必至に叫んでいるが、声も映像も意味を成していない。
「多元量子マーカー信号ロスト!!座標算出できない!」「何ですって!?通常検出で誘導ビーコンは掴めないの!?」「この状況で!?無理言うな!」
「アラン!!」カミラが眉を釣り上げたのも束の間、キャプテンシートのマルチパネルに映し出した波動収束フィールドモニターがけたたましくアラームをかき鳴らす。
「収束反応!?直撃コース!!ティム!!」「チィ!!間にあわねぇ!」
「シールド!!早く!!」
時空歪曲場の中心に呑み込まれつつある巨木の頭から何かが急速に立ち昇る。蛇の頭部のようなものを形作る、黒々とした雲状の何かが、<アマテラス>の船体に喰らい付くのと、煌めく羽衣が<アマテラス>の船体を包み込むのはほぼ同時だった。
ブリッジにギシギシとした振動と、船体の各所が鈍く潰れるような音が響き渡る。
「まずい!もう限界だ!!」先の『レギオン』との攻防で、シールド増槽の残量は既に10%を切っていた。
「バリアは?」「とうに最大出力だ!シールドが消えたら防ぎようがない!」
<アマテラス>の船体表面に、彼女の船首から渦を巻くように取り憑き、締め潰さんばかりの力。それに抗うも、次第に損耗していくシールドが、煌めきとなった星屑を激しく撒き散らす。
アランが監視するシールド用PSI精製水増槽の残量が無慈悲なカウントダウンを淡々と刻んでいた。
「くっそおおおお!!」ティムはヤケクソになって舵を右へ左へと振り回す。
カミラは奥歯を噛み締めたまま暗黒の靄とシールドの残滓の煌めくモニターを睨め付ける。
「シールド……消失する!」「ここまでか!」
船体の外殻が割れ、ブリッジが掻き乱される。
インナーノーツは反射的に身をかがめ、目をつぶってその時に備えた……
……なおと……
…………なおと!……
暗闇の中から呼ぶ声がする。直人は咄嗟に目を開くと、直感的にPSI-Linkシステムモジュールに手をかざす。その声を探って意識を深く潜らせた。
……!!……アムネリア!?……アムネリアなのか!?……
……大丈夫……貴方を守る……
…………それが……"我の"願い……
<アマテラス>の表面に残った僅かばかりのシールドが、さざめく波を立て、傷ついた彼女の身体を優しく包み込んでいく。そのうちに、シールドは、次第に厚みを増し、次第に彼女を締め付けていた重圧を押し返していった。
「……な、何が起こっているの?」事態の変化に気がついたカミラは、身体を起こしモニターを見回す。
「シールドが……回復?いや、違う……増槽は空……なんだ、これは?」すぐさま状況確認に取り掛かるアランにも、全く説明ができない。
「……」ティムは呆気に取られたまま正面のモニターの光景に見入る。
「……きれい……」横になったまま天井のモニターを見上げるサニは、モニターを覆う黒々としたものを洗い流していく、清浄なる光の水流に安らぎを感じていた。
<アマテラス>の四枚の翼から、黒雲の戒めを破って波飛沫が力強く蹴り出してはためき、触れられた"それ"は、蛇か何かの触手のような塊の姿を顕し、のけ反り、縮み、硬直したりと無秩序な動きを見せながらたまらないとばかりに、<アマテラス>から次第に離れると、忽ち異空間変異場の中へと姿を消す。
カミラとティムは、呆然となってモニターの光景を見守っている。
「……PSIパルス反応……同調率99%!?」アランは、PSI-Linkシステムが強い力を持った何かと同調しているのに気付き、咄嗟にデータベース照合を始めた。
「『メルジーネ』……」データベースが、照合結果を返したのは、直人が口を開いたのと同時だった。
「力を貸してくれている……"もう一人の亜夢"が」
直人は振り向きもせず、ひたすらPSI-Linkシステムとの同調に集中したまま、言葉を漏らす。皆が直人の言葉に息を呑む。
そうしている間に、ブリッジ中央のマルチ投影ホログラムが、何かに感応して起動し、次第に人のような立体映像を作り出していた。
『我は……貴方と共に……』
ホログラムが像を結ぶのと同時に、音声変換された穢れなき言霊がブリッジに奏でられる。
『……なおと……』
「まだ、何とか!」「もっているうちに、急いでくれよ!」
特異点を作り出している"何か"が、完全に現象化したら、結界もひとたまりもない事は容易に予測できる。<イワクラ>ブリッジは、騒然となって現状確認と<アマテラス>の帰還サポートに全力を挙げていた。
結界耐久予測時間のカウントダウンと、<アマテラス>の帰還時空間経路調整の進捗が、<イワクラ>オペレーションブリッジの中央モニターで競い合い、ブリッジに集う一同の意識を釘付けにしている。
その片隅に表示された<アマテラス>との通信モニターが、少しずつ乱れ始めていた事に関しては、誰も気に留めていない。
『PSI精製水処理区画』の扉、及び『水織川研究所』エントランスのインナースペース領域部に打ち込まれた多元量子マーカーは、暴風雨に抗う草花のように、特異点が多次元に渡って作り出す変動に耐え忍んでいた。だが、マーカーの希薄なPSIバリアは、この猛威に十分な耐性を与えてはくれない。PSI バリアごと握りつぶされるかのようにひしゃげ、砕け散ると、インナースペースの闇の中へと吸い込まれていく。
「……なっ!?時空間転移、緊急停止!!」
「はっ!?アラン、どういう事!?」カミラが叫ぶと同時に通信モニターの映像が乱れ、砂嵐に埋められていく。東が何かを必至に叫んでいるが、声も映像も意味を成していない。
「多元量子マーカー信号ロスト!!座標算出できない!」「何ですって!?通常検出で誘導ビーコンは掴めないの!?」「この状況で!?無理言うな!」
「アラン!!」カミラが眉を釣り上げたのも束の間、キャプテンシートのマルチパネルに映し出した波動収束フィールドモニターがけたたましくアラームをかき鳴らす。
「収束反応!?直撃コース!!ティム!!」「チィ!!間にあわねぇ!」
「シールド!!早く!!」
時空歪曲場の中心に呑み込まれつつある巨木の頭から何かが急速に立ち昇る。蛇の頭部のようなものを形作る、黒々とした雲状の何かが、<アマテラス>の船体に喰らい付くのと、煌めく羽衣が<アマテラス>の船体を包み込むのはほぼ同時だった。
ブリッジにギシギシとした振動と、船体の各所が鈍く潰れるような音が響き渡る。
「まずい!もう限界だ!!」先の『レギオン』との攻防で、シールド増槽の残量は既に10%を切っていた。
「バリアは?」「とうに最大出力だ!シールドが消えたら防ぎようがない!」
<アマテラス>の船体表面に、彼女の船首から渦を巻くように取り憑き、締め潰さんばかりの力。それに抗うも、次第に損耗していくシールドが、煌めきとなった星屑を激しく撒き散らす。
アランが監視するシールド用PSI精製水増槽の残量が無慈悲なカウントダウンを淡々と刻んでいた。
「くっそおおおお!!」ティムはヤケクソになって舵を右へ左へと振り回す。
カミラは奥歯を噛み締めたまま暗黒の靄とシールドの残滓の煌めくモニターを睨め付ける。
「シールド……消失する!」「ここまでか!」
船体の外殻が割れ、ブリッジが掻き乱される。
インナーノーツは反射的に身をかがめ、目をつぶってその時に備えた……
……なおと……
…………なおと!……
暗闇の中から呼ぶ声がする。直人は咄嗟に目を開くと、直感的にPSI-Linkシステムモジュールに手をかざす。その声を探って意識を深く潜らせた。
……!!……アムネリア!?……アムネリアなのか!?……
……大丈夫……貴方を守る……
…………それが……"我の"願い……
<アマテラス>の表面に残った僅かばかりのシールドが、さざめく波を立て、傷ついた彼女の身体を優しく包み込んでいく。そのうちに、シールドは、次第に厚みを増し、次第に彼女を締め付けていた重圧を押し返していった。
「……な、何が起こっているの?」事態の変化に気がついたカミラは、身体を起こしモニターを見回す。
「シールドが……回復?いや、違う……増槽は空……なんだ、これは?」すぐさま状況確認に取り掛かるアランにも、全く説明ができない。
「……」ティムは呆気に取られたまま正面のモニターの光景に見入る。
「……きれい……」横になったまま天井のモニターを見上げるサニは、モニターを覆う黒々としたものを洗い流していく、清浄なる光の水流に安らぎを感じていた。
<アマテラス>の四枚の翼から、黒雲の戒めを破って波飛沫が力強く蹴り出してはためき、触れられた"それ"は、蛇か何かの触手のような塊の姿を顕し、のけ反り、縮み、硬直したりと無秩序な動きを見せながらたまらないとばかりに、<アマテラス>から次第に離れると、忽ち異空間変異場の中へと姿を消す。
カミラとティムは、呆然となってモニターの光景を見守っている。
「……PSIパルス反応……同調率99%!?」アランは、PSI-Linkシステムが強い力を持った何かと同調しているのに気付き、咄嗟にデータベース照合を始めた。
「『メルジーネ』……」データベースが、照合結果を返したのは、直人が口を開いたのと同時だった。
「力を貸してくれている……"もう一人の亜夢"が」
直人は振り向きもせず、ひたすらPSI-Linkシステムとの同調に集中したまま、言葉を漏らす。皆が直人の言葉に息を呑む。
そうしている間に、ブリッジ中央のマルチ投影ホログラムが、何かに感応して起動し、次第に人のような立体映像を作り出していた。
『我は……貴方と共に……』
ホログラムが像を結ぶのと同時に、音声変換された穢れなき言霊がブリッジに奏でられる。
『……なおと……』
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