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第2章 魔界幻想

幻夢は囁く 2

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「右舷後方、座標5-4-1に波動収束反応確認! 『PSIクラスター』数、四!」
 
「トランサーディコイ射出準備!」「……」
 
「どうした、ナオ⁉︎ 復唱!」「ト……トランサーディコイ射出準備!」
 
「誘導座標1-2-1 速力二〇! ってぇ!」「トランサーディコイ発射!」
 
 カミラの発令に、直人がトランサーディコイを射出すると同時に、『PSIクラスター』(波動収束体)が、後方から前方の方へと遠ざかっていく航跡が、<アマテラス>ブリッジ右舷側のモニターに描かれていく。だが、少し遅れて、右舷を掠めた衝撃波が、ブリッジに響いた。
 
「右舷後方ウイング、『PSIクラスター』と接触! PSIバリア〇.五パーセント消耗、損害なし」アランは、淡々と被害状況を報告する。
 
「ナオ、また発射タイミングが遅れてる! もっと集中して!」「……す、すみません」
 
 カミラは、短く直人に注意を促すと、ブリッジ前方モニターに視線を戻す。ディコイに誘導された反応群が、一箇所に集まっていくのが見える。
 
「よし、追い込んだ! ティム、目標を追跡!」「了解!」
 
 目標の追跡に入る<アマテラス>。突如、警告アラームが鳴り響く。
 
「前方! 新たに収束反応! 収束率七十七パーセント!」
 
 一箇所に集まった『PSIクラスター』は、その収束場にたちまち捕らえられる。そこには、『PSIクラスター』を吸収した、巨大なエネルギー乱流が、急速に立ち上り始めた。
 
「来たわね……」カミラは、鋭い眼差しで前方のモニターに映し出された、そのエネルギーの渦を睨める。そのモニターに、通信ウィンドウが立ち上がり、IMCに詰めた東がブリッジを覗き込む。
 
「インナーノーツ。メインプログラムの準備ができた。亜夢のミッションで遭遇した、『メルジーネ』のデータから構成した、模擬『エレメンタル』だ」
 
 東の説明に伴い、エネルギー乱流は、次第にメルジーネの形容を創り出す。
 
「今回の訓練の目的は、ようやく搭載が完了した、船首装備『PSI波動共振場輻射機』……通称『PSI 波動砲』のテスト、及び調整データの取得にある」
 
 訓練目的、及び新装備『PSI 波動砲』に関する説明は、訓練開始前のブリーフィングで予め説明済みだが、東はインナーノーツに再認識を促すべく、繰り返し説明をする。
 
 インナーミッションの主な処理対象となる波動収束体(インナーミッションにより、その存在に対する知見が深まり、IN-PSIDはこれを『PSIクラスター』と呼称を改め、その性質、特性を再定義しつつある)は、様々な存在情報(この世における分子に比定される)の集合体であり、固有波長=PSIパルスを持つ。『PSI 波動砲』は、このPSI パルスと同位相の空間振動場(PSIバリアを偏向させる)を、アマテラス船首の二基の突起スリット間に形成し、二機の<アマテラス>主機関より発生させたPSI素子圧縮弾をその振動場に解放、船首前方でターゲットと同周波数を有するエネルギー弾に変容させ、ターゲットに打ち込む事で、さながら共振破壊のような効果を得る。
 
 ターゲットは次元波動共振を引き起こすことにより、波動収束フィールドに実体化した一部から、存在する次元全てに連鎖反応を起こし、理論上、最小の情報単位にまで分解するという。その効果は、ターゲットとのシンクロ(波動フィールド収束率)により決まる、共振率しだいではあるが、不滅とされる魂にも、分裂や変容を促す恐れがあるため、対人ミッションでの使用は、限りなく制限せざるを得ない。しかし、亜夢のミッションから『サラマンダー』、『メルジーネ』のようなインナースペース深奥の集合無意識域からの限りないエネルギー供給によって生み出される存在『PSIクラスター・コンプレックス:通称エレメンタル』と渡り合う必要が認識された以上、『PSI波動砲』は、それらに対抗しうる切り札として位置付けられ、当初の計画を後ろ倒ししつつも、強化改良が加えられ、ようやく実装へと漕ぎ着けたのであった。
 
「インナースペースの変動状況からも、今後益々、厳しい局面が予想される。『PSI波動砲』は、使いようによっては強力な武器になるはずだ」声を張る東の傍らから、藤川が補足する。「反面、扱いも難しい。使い所を見極め、ターゲットとの同調を的確に抑えなければ、諸刃の剣ともなりかねない。訓練とは言え、細心の注意をもって当たってくれ」
 
「おい、ティム!」
 
『PSI波動砲』のテストで、IMC入りしていたアルベルトが、藤川の肩越しに口を挟んで来た。
 
「『PSI 波動砲』の最終ターゲティングは直人に委ねるが、射線上に捉えるまでは、お前の仕事だ。その間、機関は砲へのエネルギー充填の為、出力が制限される。その事を頭に叩き込んでおくようにな!」
 
「心得てますって、おやっさん」ティムは、軽い口調で返しながら、「きっちりアシストするぜ、ナオ」と、直人に目配せする。
 
「……」「? ……ナオ?」
 
「……あ……あぁ……」ティムの声が届いていなかったのか、直人はそぞろな返事を返す。ティムは、何処となく虚ろな直人の瞳を、怪訝そうに窺った。
 
「それでは開始するぞ。アイリーン!」
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