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兄と弟#3

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「……あんた、何時から居たの」
「つい先ほどだよ~。君が急にアンニュイな感じになっていたから、気になって座っちゃった。ごめんね?」

むふふ、と若干気持ち悪く笑った生徒会会計は、ずいっと距離を詰めてきた。

「で、君はお兄さんの恋人になりたいんでしょ?その胸中、もっとオレに聞かせてよ!!」
「……は?いやなんであんたに言わないといけないわけ」
「こういうのって、人に話した方が軽くなるし、整理できたりするでしょ~?ね、ね!話してごらんよ!」

何故か鼻息の荒い生徒会会計に若干引きつつも、オレは前、この生徒会会計に恋愛相談をすると成功するという話を聞いたのを思い出した。

「……いや、流石にここではちょっと恥ずかしいんですけど」
「あ、そうか、確かにそうだよね~。ここ教室だもんね?じゃあ、今日の放課後、寮のオレの部屋に来て!たっぷり受け止めてあげるからさ!」
「はあ……」

そして会計は、ルンルンと今にもスキップしそうな感じで教室から出て行った。
……変な奴。


そのあとは特に何も起こることなく、放課後となった。
本来ならここで部活の放課後練習へと向かうが、柊司の調子が悪い時のオレは全然やる気がないとわかっている顧問から、今日は出なくていいと言ってもらえたのでそのまま寮へと戻ってきた。

会計の部屋に行く約束をしているが、まず一旦柊司の様子を見に行くべく、寮の自分の部屋の扉の前に来た時、部屋の中から声が聞こえた。

「……シュウ、平気か」
「うん……だいじょうぶ……頭痛いだけだから」
「そうか……無理はするなよ」
「うん……ありがとう」

部屋から聞こえてきた柊司の声は、頭の痛みで辛そうだけど、それでも嬉しそうだった。
それを聞いたオレは、部屋に押し入ろうとしたのをやめた。そしてそのままその場を離れた。

オレは会計と話をする気分にもなれず、結局寮を出て、高等科の敷地内を充てもなく歩いた。
朝から降っていた雨はいつの間にか上がっていたけど、オレの気持ちは天気とは裏腹に、沈む一方だった。

……わかってたけど、わかってたけどさ。
北大路治良が、柊司にとって特別な存在になってることは。

でも、悔しい……

今まで、一番柊司の側に居たのは、オレだ。
一番好きなのも、オレだって自負がある。
でも、柊司にとっては、オレはただの弟。
わかってても、つらい……

この、双子っていう、近いのに遠い関係がつらい。

あてもなく歩いた先の人気のない建物の裏手に座り込んだ。

――そんな傷心状態のオレの心をさらに波立たせるものが現れた。

「……ん?お前は……」

現れたのは、生徒会会長――北條亮介だった。

「お前は……、二宮祥吾だな。二宮柊司の弟の」
「……そうですけど……」

会長は何故かオレのことを知っていた。直接会ったことはないはずなのに。

「どうしてこんなところに居る?こっちはゴミ捨て場しかないが……」
「別に……散歩してただけですけど」

どうしてこんなところに居るって、こっちの台詞なんですけど。と思いつつ会長を見たら、彼が『生徒会室』というラベルの貼られたゴミ箱を手に持っているのに気付いた。
……この人、生徒会長のくせにゴミ捨てさせられてんのかよ。

ゴミ箱を凝視したら、会長はハッとなってゴミ箱を体の後ろに隠した。
いや、今更隠しても意味ないだろ……

「……会長でも、ゴミ捨てに来るんですね?てっきり他の役員とかにやらせてんのかと……」
「い、今、他の役員は全員生徒会室に居ないんだ。だから仕方なく俺が捨てにきただけなんだ!」
「別に言い訳しなくてもいいじゃないですか」

金持ち学校の生徒会長はそういう雑用とか絶対にしないと思ってたから、ちょっと好感度は上がったぞ。

「ま、まあいい。それより……お前に、伝えてほしいことがあるんだが」
「は?誰に?何を?」
「二宮柊司に、この前の新歓会でのデート権行使の件について、謝罪したいんだ」
「……!」

その言葉でオレは思い出した。
この男が、この前開催された新入生歓迎会で、柊司のことを俵担ぎして運んだ挙句にデート権まで行使しようとしたことを。
後にデートは会長の方から取り下げられたけど、そのことで柊司が一時期、会長の親衛隊からいやがらせを受けた。
柊司がいやがらせを受けていたという事実は到底許せるものじゃなくて、それを知ったときにオレは会長へ直談判しようとしたけど、これ以上事を荒立てたくないと言った柊司の意思を尊重して、オレもそれ以上の追及をやめた。
結局そのあとは、会長からも親衛隊からも謝罪も何もないまま時が過ぎていたけど……

「俺の軽はずみな行動が、お前の兄に迷惑をかけた。それを謝罪したかった。すまなかった」
「……それ、オレに言われても困るんですけど?」

謝罪したいという気持ちが会長にあったことについては驚いたが、それを本人じゃなくオレに伝えるっていうのはおかしいんじゃないのか。
そう言うと会長はばつが悪そうに眼を逸らした。

「俺もできることなら、二宮柊司に直接会って謝罪したいんだが……俺が直接二宮柊司に会ったら、また角が立つんじゃないかと思ったからな……」
「……まあ、それは確かにそうですね」

行動を常にいろいろな人間から見られている生徒会長は、自由に動ける立場にない。
いくら謝罪するためとはいえ、また直接柊司に会って、それを親衛隊にでも見られたら、以前の二の舞になる。

「だがここは人気がないからな……偶然とはいえ、お前に出会えて、謝罪の気持ちを伝えられてよかった。ではな。そろそろ戻らないといけないからこれで……」
「あ!待ってください!一つ聞きたいんですけど!」

話を終えて去ろうとした会長を呼び止めた。

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