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兄と弟#2
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「……おい、二宮」
そいつはオレのところに来るなり、愛想のかけらもない声色で話しかけてきた。
振り向くとそこに居たのは予想通り、北大路治良だった。
奴は、最早オレの最大の敵となりつつある男である。
「アイツはどうした」
「アイツって誰ですかー?」
「……」
北大路治良が何を聞きたいのかなんてわかってるけど、ムカつくからあえてすぐには答えない。
すると北大路治良はため息を吐きながら言った。
「シュウだよ……、今日は休みか」
そう言われた瞬間、ぷつんと切れた。
「お前!柊のことを気安く呼んでんじゃねえよ!!『シュウ』って呼んでいいのはオレだけなんだからな!!」
「……あいつがそう呼んでいいっつったんだぞ」
「だとしても駄目!!」
どういうわけか柊司と『友達』になっていた北大路治良。
それ以来、こいつはオレの敵だ。
柊司に近づく輩は全員排除したい。でも、柊司もこいつが気に入っていて、何かと気にかける。
でもそれは、北大路治良の方も同じらしい。
こうやって、柊司が休んだ日は必ずオレのところに来て、様子を聞きに来るのだ。
「今日は頭痛が酷くて休みだよ。『友達』なら、それくらい連絡貰えてんじゃないの?」
「……連絡が来なかったから聞きに来てるんだろう」
「ふーん、来てないんだぁ。じゃああんたらの関係も大したことないね~。本当に『友達』なのかなぁ?」
「……」
そう言ったら、北大路治良は微妙に悔しそうな表情になった。
……本当は、柊司も北大路治良に連絡をしたかったに違いない。
だけど頭が痛いときはスマホの画面も見ることができないので、連絡ができなかっただけだ。
だから今の返答は完全に八つ当たりである。
「……そうか、ありがとう。邪魔したな」
だけど北大路治良は、オレの八つ当たりにも怒らず、そう言い残し去っていった。
……こういうところも、ムカつくんだよ!アイツ!
北大路治良が去っても収まらないムカムカを感じながら弁当を出すと、横からおずおずと声をかけられた。
「……す、すごいね……、二宮君って……」
「え?」
声をかけてきたのは、隣の席のクラスメイトだった。確か、田沢って名前だったような気がする。
「あの北大路治良と、あんな風に話せるなんてさ……」
「別に、大したことじゃないよ」
「そんな……すごいよ、本当に……。北大路家の人間に逆らえることがもうすでに……」
心なしか怯えているようにも見える田沢君は、さらに続けた。
「北大路一族ってだけで、ここら辺の人間は皆逆らえないのに。その嫡男の北大路治良にあんな風に言えるのは、本当にすごいことだよ」
「……オレ、ここら辺の人間じゃないしねぇ」
地元がこっちじゃないオレにとっては、北大路がどうたらとか、全然気にすることじゃない。
それに、北大路治良は案外普通の人間だ。
柊司に対する態度とか見てたら、怖いも何も感じない。
「でもこの学校って、北大路一族の経営してる学校で、北大路一族の生徒も多いからさ……」
「……ああ。そうなんだっけね」
北斗学園は、北大路の分家である北斗家が代々経営している学校だ。
それに、北斗家だけでなく、ここら辺にある、名字に『北』が付く家は、ほとんどが北大路家の分家だという。
だから、現生徒会長である北條亮介も、柊司のクラスの委員長である北峯昇も、さらにはこの学校の保健医である篠北正樹先生も北大路一族だ。
そのあまりにも大きい一族の規模から、ここら辺の連中は皆、北大路一族には逆らえないようだ。
部外者からしたら、本当面倒極まりない一族だな。
その理由もあるから、北大路治良のことを柊司にあまり近付けたくない。
でも、柊司の初めての『友達』を排除することもできない。
まさにジレンマというやつだった。
――今はまだこのままで。
でも、もし、柊の身になにか起こるようなことがあれば。
オレは容赦しない。
柊にはもう、苦しんでほしくないから。
――昔、父方の実家で暮らしていた時のことだ。
父方の祖母は、厳しい人だった。
柊司は、今よりも体調を崩すことが多かったのだが、そんな柊司にも祖母は容赦がなかった。
それどころか、男のくせに軟弱だと言われたりする始末。
そんなこともあってか、いつしか柊司は体調が悪くても隠すようになってしまった。
極限になるまで隠して、そのせいで悪化させてしまうこともよくあった。
それに、柊司が隠すのは体調不良だけじゃなかった。
精神的につらいことや苦しいことも簡単に言わなくなってしまった。
そんな柊司の状態を見かねた父さんが、実家から出たことにより、祖母からの圧力はなくなって、体調不良を隠すことは前に比べたら減ったけど。
精神的なつらさなんかは、やっぱり言ってくれない。
父方の実家に居た頃も、祖母からの圧力にかなり苦しめられていたはずなのに、父さんにもオレにも言ってくれなかった。
だから、今だって心配だ。
北大路治良と付き合うことで、柊司がまた精神的に苦しめられたりしないか。
そして、それを隠してしまったりしないか。
こういうとき、弟じゃなかったらよかったのに、と思う。
弟だから、って理由で柊司は、オレに対して遠慮することが多い。
弟とか関係ないのに。
たった一人だけの片割れなんだから、もっと頼ってほしいのに。
もしオレたちが、血がつながってなかったら。
全く血のつながりのない、恋人になれたりしたら、もっと頼ってくれるのかな?
「……は~……。柊の恋人になりたいなぁ」
「――ほーほー、君はお兄さんの恋人になりたいんだね~?」
「うん……でも、実際は双子だし……。柊にとってはオレは弟だから、全然眼中にないんだよ」
「諦めちゃ駄目だよ!どんな関係にだってチャンスはあるんだから!」
「そうかな……ん?」
違和感を感じふと横を見ると、隣の席にいつの間にか生徒会会計が座っていた。
そいつはオレのところに来るなり、愛想のかけらもない声色で話しかけてきた。
振り向くとそこに居たのは予想通り、北大路治良だった。
奴は、最早オレの最大の敵となりつつある男である。
「アイツはどうした」
「アイツって誰ですかー?」
「……」
北大路治良が何を聞きたいのかなんてわかってるけど、ムカつくからあえてすぐには答えない。
すると北大路治良はため息を吐きながら言った。
「シュウだよ……、今日は休みか」
そう言われた瞬間、ぷつんと切れた。
「お前!柊のことを気安く呼んでんじゃねえよ!!『シュウ』って呼んでいいのはオレだけなんだからな!!」
「……あいつがそう呼んでいいっつったんだぞ」
「だとしても駄目!!」
どういうわけか柊司と『友達』になっていた北大路治良。
それ以来、こいつはオレの敵だ。
柊司に近づく輩は全員排除したい。でも、柊司もこいつが気に入っていて、何かと気にかける。
でもそれは、北大路治良の方も同じらしい。
こうやって、柊司が休んだ日は必ずオレのところに来て、様子を聞きに来るのだ。
「今日は頭痛が酷くて休みだよ。『友達』なら、それくらい連絡貰えてんじゃないの?」
「……連絡が来なかったから聞きに来てるんだろう」
「ふーん、来てないんだぁ。じゃああんたらの関係も大したことないね~。本当に『友達』なのかなぁ?」
「……」
そう言ったら、北大路治良は微妙に悔しそうな表情になった。
……本当は、柊司も北大路治良に連絡をしたかったに違いない。
だけど頭が痛いときはスマホの画面も見ることができないので、連絡ができなかっただけだ。
だから今の返答は完全に八つ当たりである。
「……そうか、ありがとう。邪魔したな」
だけど北大路治良は、オレの八つ当たりにも怒らず、そう言い残し去っていった。
……こういうところも、ムカつくんだよ!アイツ!
北大路治良が去っても収まらないムカムカを感じながら弁当を出すと、横からおずおずと声をかけられた。
「……す、すごいね……、二宮君って……」
「え?」
声をかけてきたのは、隣の席のクラスメイトだった。確か、田沢って名前だったような気がする。
「あの北大路治良と、あんな風に話せるなんてさ……」
「別に、大したことじゃないよ」
「そんな……すごいよ、本当に……。北大路家の人間に逆らえることがもうすでに……」
心なしか怯えているようにも見える田沢君は、さらに続けた。
「北大路一族ってだけで、ここら辺の人間は皆逆らえないのに。その嫡男の北大路治良にあんな風に言えるのは、本当にすごいことだよ」
「……オレ、ここら辺の人間じゃないしねぇ」
地元がこっちじゃないオレにとっては、北大路がどうたらとか、全然気にすることじゃない。
それに、北大路治良は案外普通の人間だ。
柊司に対する態度とか見てたら、怖いも何も感じない。
「でもこの学校って、北大路一族の経営してる学校で、北大路一族の生徒も多いからさ……」
「……ああ。そうなんだっけね」
北斗学園は、北大路の分家である北斗家が代々経営している学校だ。
それに、北斗家だけでなく、ここら辺にある、名字に『北』が付く家は、ほとんどが北大路家の分家だという。
だから、現生徒会長である北條亮介も、柊司のクラスの委員長である北峯昇も、さらにはこの学校の保健医である篠北正樹先生も北大路一族だ。
そのあまりにも大きい一族の規模から、ここら辺の連中は皆、北大路一族には逆らえないようだ。
部外者からしたら、本当面倒極まりない一族だな。
その理由もあるから、北大路治良のことを柊司にあまり近付けたくない。
でも、柊司の初めての『友達』を排除することもできない。
まさにジレンマというやつだった。
――今はまだこのままで。
でも、もし、柊の身になにか起こるようなことがあれば。
オレは容赦しない。
柊にはもう、苦しんでほしくないから。
――昔、父方の実家で暮らしていた時のことだ。
父方の祖母は、厳しい人だった。
柊司は、今よりも体調を崩すことが多かったのだが、そんな柊司にも祖母は容赦がなかった。
それどころか、男のくせに軟弱だと言われたりする始末。
そんなこともあってか、いつしか柊司は体調が悪くても隠すようになってしまった。
極限になるまで隠して、そのせいで悪化させてしまうこともよくあった。
それに、柊司が隠すのは体調不良だけじゃなかった。
精神的につらいことや苦しいことも簡単に言わなくなってしまった。
そんな柊司の状態を見かねた父さんが、実家から出たことにより、祖母からの圧力はなくなって、体調不良を隠すことは前に比べたら減ったけど。
精神的なつらさなんかは、やっぱり言ってくれない。
父方の実家に居た頃も、祖母からの圧力にかなり苦しめられていたはずなのに、父さんにもオレにも言ってくれなかった。
だから、今だって心配だ。
北大路治良と付き合うことで、柊司がまた精神的に苦しめられたりしないか。
そして、それを隠してしまったりしないか。
こういうとき、弟じゃなかったらよかったのに、と思う。
弟だから、って理由で柊司は、オレに対して遠慮することが多い。
弟とか関係ないのに。
たった一人だけの片割れなんだから、もっと頼ってほしいのに。
もしオレたちが、血がつながってなかったら。
全く血のつながりのない、恋人になれたりしたら、もっと頼ってくれるのかな?
「……は~……。柊の恋人になりたいなぁ」
「――ほーほー、君はお兄さんの恋人になりたいんだね~?」
「うん……でも、実際は双子だし……。柊にとってはオレは弟だから、全然眼中にないんだよ」
「諦めちゃ駄目だよ!どんな関係にだってチャンスはあるんだから!」
「そうかな……ん?」
違和感を感じふと横を見ると、隣の席にいつの間にか生徒会会計が座っていた。
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