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兄と弟#4
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「なんだ?」
「なんでデート権を行使しようとしたくせに、取り下げたんですか?柊司に何をするつもりだったんですか」
「それは……」
ずっと疑問だった。
デート権には強制力はないので、行使しなければ意味がない。
会長が柊司を捕まえたのが偶然だとしても、それならそれでデート権なんて行使しなきゃいい話だった。
何か、目的でもない限りは。
つまり、会長には、何か目的があったのだ。柊司に対して。
会長は、少しの間言葉に詰まっていたが――やがて観念したかのように口を開いた。
「……治良――北大路治良と、二宮柊司がどういう関係なのか、確認したかったんだ」
「……え?」
予想外の名前が出てきて、オレは目を丸くした。
「……どういうことですか?」
「お前は外部生だから知らないかもしれないが……俺も北大路の人間だ。名字を見ればわかると思うが」
「……それは知ってますけど」
「そうか。なら話は早い。俺は、北大路本家に仕える者として……次期北大路家当主候補である治良と、二宮柊司の関係を把握しておく必要があったんだ。だから新歓でのデート権を利用して、話す機会を設けるつもりだった」
「……仕える?会長は、本家を継ぐ権利はないんですか?」
「ああ。北條家は北大路本家を補佐するために存在している家だからな」
会長によると、北大路本家を継ぐのは本家の嫡男とは限らないらしい。
数多くある北大路分家の中でも、より本家に近い血筋の家の男子から、能力などを審査して、最終的に一人を選ぶという制度になっているが、会長の実家である北條家だけは例外で、北條家の人間は北大路本家の補佐役として固定されているのだという。
北大路家ってのは、思った以上に巨大で組織的に管理されている家のようだ。
それで、その補佐役である会長の家は、本家の後継者の審査役も担っているらしい。
だから、後継者候補の一人である北大路治良と突如仲が良くなった柊司のことも、審査の一環として探ろうとしていた。
これが新歓のデート騒動のあらましだったのだ。
「それじゃ、後でデートを取り下げたのは……」
「二宮柊司に直接会って探る必要がなくなったので取り下げたんだ」
「探る必要がなくなったって……どういうことです?誰かから別に情報提供があったってことですか?」
「……ああ、そうだ。……治良本人から、どういう関係か聞いた。だから必要がなくなった」
「……!」
北大路治良が、自分で言ったのか。
「北大路治良は……、柊のこと、なんて言ったんですか?」
「……『大事にしたい奴』、だと言っていたな」
……なんだよ、それ……
不良で、しかも面倒で厄介な家の人間のくせに……
柊のこと、『大事』になんてできんのかよ……
でも、さっき部屋で休んでる柊に対しての、北大路治良の態度……
確かにあれは、『大事』に想う人間に対しての態度だった。
そして、そんな北大路治良に対する柊の、嬉しそうな声。
――それを目の当たりにしたとき、オレは……初めて、『敵わない』って思ってしまったんだ。
「大丈夫か?」
「!」
ぽん、と頭に手をのせられる感覚で我に返った。
顔を上げると、会長がその端正な眉を顰めてオレを見ていた。
「大丈夫……ではないですね……はは」
「……」
ここらが潮時なのか。
ずっと、柊司――兄に対して、弟以上の想いを抱いてきたけど。
その想いに対して、ついに終止符を打つ時が来たのか。
「……あー……なんだ、その~……お前のその想いは、無駄にはならんと思うぞ?」
「……え?」
急に何を言ってるんだと首を傾げると、会長も「ん?」と首を傾げた。
「お前って、二宮柊司が好きだったんじゃないのか?」
「え、まあ……確かにそうですけど……なんでそれ知ってるんですか」
そう言うと、会長はあきらかに「しまった」という顔になった。
「……悠馬……うちの会計が、隙あらばべらべらと学園内の色恋事情を俺に話してくるもんだから……知るつもりはなかったんだが、知ってしまったんだ……すまん」
「……」
……あの会計……勝手に人の色恋事情を別の人間に話すなよ……
今日、相談しに行かなくてよかった……。さらに赤裸々に語られるところだった……
「あ、アイツもなりふり構わずべらべら喋ってるわけじゃないぞ?アイツにとっては俺が萌え語りするのに一番丁度いいらしいんだ……」
「萌え語りってなんですか……」
「……アイツの趣味嗜好はちょっと変わってるんだ、すまん」
どうやら生徒会会計と会長は幼馴染らしくて、幼い頃からずっとこんな関係なんだそうだ。
……会長がちょっと気の毒になった。
「と、とにかく……お前が二宮柊司を想っていた気持ちは、無駄にはならんと俺は思う。だから、あまり落ち込むな」
「……どう無駄にならないんですか?」
「え?えーと、それはだな……その~……」
「……フ、フフッ……へったくそな慰めですね」
「……し、仕方ないだろう!俺は悠馬と違って、こういう相談は受けたことないんだ!」
ついには開き直った会長に、オレは笑いが止まらなかった。
「……フッ、まあ、そこまで笑えるのならば大丈夫だろう」
「あ……」
会長は、そう言って不敵な笑みを浮かべた。……成程、今のが会長なりの励まし方だったんだな……
その会長は腕時計を見て、少し焦ったように言った。
「そろそろ戻らないと本当にまずい。すまないがもう行くぞ。ではな、気を付けて帰れよ」
「あ、はい……会長も気をつけて」
会長はオレの言葉に応えるように右手を挙げ、ゴミ箱を抱えて去っていった。
その去り際は、確かに学校で一番人気になるのもわかる格好良さだった。
……ゴミ箱さえなければ。
***
「なんでデート権を行使しようとしたくせに、取り下げたんですか?柊司に何をするつもりだったんですか」
「それは……」
ずっと疑問だった。
デート権には強制力はないので、行使しなければ意味がない。
会長が柊司を捕まえたのが偶然だとしても、それならそれでデート権なんて行使しなきゃいい話だった。
何か、目的でもない限りは。
つまり、会長には、何か目的があったのだ。柊司に対して。
会長は、少しの間言葉に詰まっていたが――やがて観念したかのように口を開いた。
「……治良――北大路治良と、二宮柊司がどういう関係なのか、確認したかったんだ」
「……え?」
予想外の名前が出てきて、オレは目を丸くした。
「……どういうことですか?」
「お前は外部生だから知らないかもしれないが……俺も北大路の人間だ。名字を見ればわかると思うが」
「……それは知ってますけど」
「そうか。なら話は早い。俺は、北大路本家に仕える者として……次期北大路家当主候補である治良と、二宮柊司の関係を把握しておく必要があったんだ。だから新歓でのデート権を利用して、話す機会を設けるつもりだった」
「……仕える?会長は、本家を継ぐ権利はないんですか?」
「ああ。北條家は北大路本家を補佐するために存在している家だからな」
会長によると、北大路本家を継ぐのは本家の嫡男とは限らないらしい。
数多くある北大路分家の中でも、より本家に近い血筋の家の男子から、能力などを審査して、最終的に一人を選ぶという制度になっているが、会長の実家である北條家だけは例外で、北條家の人間は北大路本家の補佐役として固定されているのだという。
北大路家ってのは、思った以上に巨大で組織的に管理されている家のようだ。
それで、その補佐役である会長の家は、本家の後継者の審査役も担っているらしい。
だから、後継者候補の一人である北大路治良と突如仲が良くなった柊司のことも、審査の一環として探ろうとしていた。
これが新歓のデート騒動のあらましだったのだ。
「それじゃ、後でデートを取り下げたのは……」
「二宮柊司に直接会って探る必要がなくなったので取り下げたんだ」
「探る必要がなくなったって……どういうことです?誰かから別に情報提供があったってことですか?」
「……ああ、そうだ。……治良本人から、どういう関係か聞いた。だから必要がなくなった」
「……!」
北大路治良が、自分で言ったのか。
「北大路治良は……、柊のこと、なんて言ったんですか?」
「……『大事にしたい奴』、だと言っていたな」
……なんだよ、それ……
不良で、しかも面倒で厄介な家の人間のくせに……
柊のこと、『大事』になんてできんのかよ……
でも、さっき部屋で休んでる柊に対しての、北大路治良の態度……
確かにあれは、『大事』に想う人間に対しての態度だった。
そして、そんな北大路治良に対する柊の、嬉しそうな声。
――それを目の当たりにしたとき、オレは……初めて、『敵わない』って思ってしまったんだ。
「大丈夫か?」
「!」
ぽん、と頭に手をのせられる感覚で我に返った。
顔を上げると、会長がその端正な眉を顰めてオレを見ていた。
「大丈夫……ではないですね……はは」
「……」
ここらが潮時なのか。
ずっと、柊司――兄に対して、弟以上の想いを抱いてきたけど。
その想いに対して、ついに終止符を打つ時が来たのか。
「……あー……なんだ、その~……お前のその想いは、無駄にはならんと思うぞ?」
「……え?」
急に何を言ってるんだと首を傾げると、会長も「ん?」と首を傾げた。
「お前って、二宮柊司が好きだったんじゃないのか?」
「え、まあ……確かにそうですけど……なんでそれ知ってるんですか」
そう言うと、会長はあきらかに「しまった」という顔になった。
「……悠馬……うちの会計が、隙あらばべらべらと学園内の色恋事情を俺に話してくるもんだから……知るつもりはなかったんだが、知ってしまったんだ……すまん」
「……」
……あの会計……勝手に人の色恋事情を別の人間に話すなよ……
今日、相談しに行かなくてよかった……。さらに赤裸々に語られるところだった……
「あ、アイツもなりふり構わずべらべら喋ってるわけじゃないぞ?アイツにとっては俺が萌え語りするのに一番丁度いいらしいんだ……」
「萌え語りってなんですか……」
「……アイツの趣味嗜好はちょっと変わってるんだ、すまん」
どうやら生徒会会計と会長は幼馴染らしくて、幼い頃からずっとこんな関係なんだそうだ。
……会長がちょっと気の毒になった。
「と、とにかく……お前が二宮柊司を想っていた気持ちは、無駄にはならんと俺は思う。だから、あまり落ち込むな」
「……どう無駄にならないんですか?」
「え?えーと、それはだな……その~……」
「……フ、フフッ……へったくそな慰めですね」
「……し、仕方ないだろう!俺は悠馬と違って、こういう相談は受けたことないんだ!」
ついには開き直った会長に、オレは笑いが止まらなかった。
「……フッ、まあ、そこまで笑えるのならば大丈夫だろう」
「あ……」
会長は、そう言って不敵な笑みを浮かべた。……成程、今のが会長なりの励まし方だったんだな……
その会長は腕時計を見て、少し焦ったように言った。
「そろそろ戻らないと本当にまずい。すまないがもう行くぞ。ではな、気を付けて帰れよ」
「あ、はい……会長も気をつけて」
会長はオレの言葉に応えるように右手を挙げ、ゴミ箱を抱えて去っていった。
その去り際は、確かに学校で一番人気になるのもわかる格好良さだった。
……ゴミ箱さえなければ。
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