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間章2―すべてのはじまり
二人だけの幸せ#4
しおりを挟む――気付いたら、何も無い白い空間にいた。
「どこだ、ここは……」
辺りを見回しても何も無く、何故俺はこんなところに居るのかと思い、その後すぐに俺はここに来る前のことを思い出した。
帰宅途中、空から降ってきた謎の物体にぶつかって死んだことを。
「――気が付きましたか」
すると背後から違う者の声がした。
振り向くとそこには、まるで彫刻のように整った容姿をした女性がそこに居た。
「……誰だ?」
「私は貴方が生きていた世界を管理している神です」
「神だと……?」
「まずは貴方にお詫びします」
神だと言うその女性は何故俺がここに居るのかについて語り始めた。
あの空から降ってきた謎の物体は俺が今いる天界から誤って落ちてしまったもので、本来俺はあの場で死ぬはずではなかったこと。
天界を統べる者として、その詫びをするために俺の魂をここに連れてきたのだと語った。
それを聞いた俺は、一気に怒りが込み上げた。
「ふざけるな……!なら俺を早く生き返らせろ!俺は美陽のところに帰らないといけないんだよ!」
「いいえ、それは出来ません。貴方の肉体は既に生命活動を停止しています。その生命活動を復活させることは不可逆的行いのため不可能です」
「じゃあなんで俺をこんなところに連れてきた!ただ詫びる為だけに連れてきたのか!?」
「元の世界に生き返ることは不可能ですが、別の世界に転生するのであれば可能です。今回はそれを提案するため貴方の魂を天界へ連れてきました」
「別の世界、だと……?」
困惑する俺を余所に、神はさらに続けた。
「別の世界に転生いただき、さらに今回の件の詫びとして貴方の願いを何でも一つ叶えましょう」
「……どうしても転生する以外ないのか」
「貴方の死は運命外でしたので、元の世界の輪廻には還れません。ですから別世界への転生以外となると、天界に居ていただく他ありません」
神は淡々とそう言った。姿はまさに神と呼ぶに相応しい美貌であったが、こうして話している間も全く一つも変化しない表情に、目の前の存在が超常的存在なのだということをまざまざと感じられた。
別の世界に転生する以外選択肢がないのであれば、俺が願うことは一つだった。
「それなら、美陽――俺の恋人も、俺の転生する世界に一緒に転生させてくれ」
「……」
俺の願いを聞いた神はそこで初めて、眉を僅かに寄せた。――どうやら表情筋が完全に死滅しているわけではないらしい。
「……出来ないのか?」
「……いいえ。本当にその願いで良いのですか」
「俺は美陽と一生側にいるって約束したんだ。でも、それが果たせないなら……別の世界でやり直すしかないだろう」
何より美陽をあんな世界に一人、置いて逝くわけにはいかなかった。
「理由は理解しました。しかしその場合、お伝えすることがあります」
「なんだ」
「貴方の恋人も共に転生したとして、転生先で必ずしも再会できるとは限りません。貴方も貴方の恋人も、転生先の世界の運命の流れに組み込まれるからです」
「……どういうことだ」
「貴方と貴方の恋人が出会う運命ではない場合、再会は出来ないという事です。さらにはどういった立場になるかも転生してからでないとわかりません。立場によっては、現在の人生よりも厳しい人生を歩むことになる可能性もあります。それでも貴方の恋人も転生させますか?」
「……」
つまり、場合によっては美陽が苦しむ可能性もあるということか。それは嫌だ。
だが、そうだとしても俺は――美陽と離れたくない。
俺だけ違う世界に転生したら、もう二度と会えない。
それならやはり一緒の世界に転生したほうがまた会える可能性が高い。
もし、運命が俺達の再会を阻むなら――そんな運命は破ってやる。
「それはわかった。でも……それでも俺は、美陽と共に居たい。新しい人生で今度こそ約束を最期まで果たしたい」
「そうですか。理解しました。それが貴方の望みならば叶えます」
神は淡々と言った。やはりその表情には何の感情も乗っていなかった。
「それではそろそろ転生させていただきますがよろしいですか」
「ああ」
「――では、良い人生を」
神が俺の方へ手を伸ばすと眩い光がその手から溢れ、俺の視界はあっという間に真っ白に染まった。
***
次に目を開けたとき、視界に飛び込んできたのは母親の胸だった。丁度授乳中であったらしい。
状況が状況なのでつい固まってしまうと、母親は俺の顔を伺うように見てきた。
――母親は月の光を切り取ったかのようなプラチナブロンドの髪に、琥珀色の瞳をした端麗な女性だった。
「あら……イツキ、どうしたの?もうお腹いっぱいかしら」
母親が俺の名前を呼んだので少し驚いた。名前が前世と同じとは思っていなかったからだ。名前に関しては神は何も言っていなかったが、俺が受け入れやすいよう配慮をしてくれたんだろうか。
そんなことを思いながら母親を見つめていると、母は何を思ったのか、琥珀色の瞳を潤ませ始めた。
「貴方が私のところに来てくれて、私は嬉しい。でも……貴方にはこれから苦労をかけてしまうわね」
「エリザベス様」
苦労とは何のことだろうか、と思っていると、急に母親とは別の声がした。どうやらもう一人人間が母親のいるベッドの天蓋の外に居たらしい。視界が狭いので気が付かなかった。
「心配なさらないでください。――貴女の代わりに、私がイツキ皇子を必ずや皇帝にしてみせますから。他の皇子や皇女にだって負けない、素晴らしい皇帝にしてみせます」
「……そうね。お願いね……」
母親の側に居たらしい従者と、母親の会話を聞きながら俺は戸惑っていた。
俺、まさか、どこかの国の皇子に転生したのか?しかも皇帝にするって。
もうそのワードだけで今後の波乱の道が予感されて俺は顔を引き攣らせた。
――美陽……俺、お前に無事に会えるのかな……。
母親の腕の中で、俺は早くも不安に苛まれていた。
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