異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

文字の大きさ
上 下
60 / 80
間章2―すべてのはじまり

幸せの後は#1

しおりを挟む
今世の俺の母は四大公爵家の一つ、リリーホワイト家の令嬢だった。リリーホワイトは魔法使いが所属し魔法具などを製造・販売する「魔塔」を所有する家の一つだった。
元々リリーホワイト家が先に魔法使いを集めて「魔塔」を立ち上げたのだが、魔法が一般的になるに従い他の貴族でも「魔塔」を立ち上げ始めたようだ。
今「魔塔」は魔法具を扱う、前世で言えば会社のような立ち位置のようだ。

だがリリーホワイトが現在も規模としては最大の「魔塔」を所有していることは間違いなく、リリーホワイトの財政は非常に潤っており、皇族への影響力も、皇帝派筆頭のレッドグレイヴ家程ではないが持っているようだった。
そして母は皇帝派側への牽制の意味で、第二皇妃として皇帝に嫁ぐことになったのだが、母はどうやら体があまり丈夫ではなかったらしく、元々子供も本来は望める体ではなかった。

そんな体の弱い母が第二皇妃として嫁ぐことになったのはそれが大きい。本来は身体も丈夫な彼女の姉が嫁ぐはずだったのだが、彼女は他国に嫁ぐことになり結果お鉢が母に回ってきたのだ。
この一連の流れは、母であれば皇位継承に肉薄出来る子は生まれないから安心だということで、現皇帝派側の勢力が裏で仕組んだことだったようだ。

だから母は、予想外に生まれてきてしまった俺に対し、自分のところに来てくれて嬉しい、と言いつつも、何処か複雑な表情をしていたのだった。
母は俺が否が応でも権力争いの渦中に巻き込まれることになるのがわかっていたからだ。

最も、生まれたばかりの俺はそんな思惑が渦巻いていたことなんて知らない。
母が俺を守ってくれていたからだ。だから俺は三歳までは比較的平和に過ごしていた。

状況が変わったのは三歳になった頃だ。

――母が亡くなった。
元々俺を産んだことで体調を崩し気味になっていた彼女は、俺を一人残すことを気にしながらも静かに息を引き取った。

たった三年だったとはいえ、彼女と過ごした三年間は俺にとっては大切な思い出になった。
前世では親の愛らしい愛はもらえなかったから、彼女からの愛はとても新鮮でありかけがえのないものになった。

そして俺は、その愛を失ったと共に――平穏だった日々も失った。


母の喪が明けた後、初めて俺は皇宮内の――第一皇妃主催のお茶会に招待された。

「私のことを母親だと思ってくれて構わないわよ」

一見優し気な表情を浮かべてそう言った第一皇妃は、その表情の裏にどす黒い感情を渦巻かせていたことに、当時の俺は気付かなかった。

――第一皇妃。皇帝派筆頭、レッドグレイヴ家の令嬢。
そして誰よりもその心に野望と欲望を渦巻かせている女。
彼女はその野望を叶えるためには手段を選ばない女だった。

奴は俺に振る舞ったお茶菓子にのみ、毒を仕込んでいた。当然毒になんの耐性もない当時の俺は、それで死にかけた。
しかし、明らかにあの女が仕組んだことなのは間違いないのに、あの女が矢面に上がることはなかった。
犯人として仕立て上げられたのは、お茶菓子を運んだ平民出身のメイドだった。

それで俺はまざまざと自覚させられた。
――この皇宮という場所においては、権力がすべてなのだということを。

明らかに白であることでも、権力によって黒にできる。
それが、俺が今いるこの皇宮という場所だった。

第一皇妃というだけでも既にそこまでの権力を持っているのにも関わらず、欲望深いあの女はまだその上を望んでいた。
――皇帝の母という座だ。
彼女の唯一の息子、セザールを皇帝にして、この国の権力の頂点を手に入れようとしていた。

俺が生まれるまでは、彼女のその野望は予定調和も同然だった。
だが俺が予想外に生まれたことにより、それは崩れた。

だから彼女は何度も俺を殺そうとしてきた。食事に毒が仕込まれるのは当たり前。暗殺者も事故に見せかけて殺しにくるのも日常茶飯事。

明らかに前世よりもハードな今世の人生に、俺は殺されかける度にこのまま死んでしまいたいという思いに駆られた。
だが、その度に美陽のことを思い出した。
美陽に会うまでは、死ぬわけにはいかないと。

俺は母の元従者――現在の俺の従者となった男に、皇帝になるべく公務をしろと言われるのをうまくかわしながら美陽を見つけ出すために皇宮内の資料を漁った。
だが美陽の情報はなかった。何故見つからなかったのかといえば、ブラックウェル側が皇宮へ届け出なかったからだった。
今世の美陽は身体が弱かったから彼の体調が安定するまで皇宮へは伝えなかったんだろう。

だが当時の俺は、美陽の情報がないということはつまり、美陽は転生できていないということだと思った。

神に願ってまで、美陽と人生をやり直すつもりだったのにその彼が居ないのでは、一体俺は何のためにこんな苦しい思いまでして皇宮なんて場所に居るんだと、自分の存在意義がわからなくなった。

生きる意味がわからなくなった俺は何もする気が起きず、ただ息をするだけの日々を送った。この頃の俺は本当に死んだも同然だったと思う。
そんな俺を生に繋ぎ止めたのは母に付いていた従者だった。

「イツキ様。生きることを諦めないでください」
「……」
「私は貴方を死なせるわけにはいかないのです。貴方が日の当たる場所で生き続けること。それが貴方の母君の望みでしたから」

たった三年だけだったが、俺に親の無償の愛をくれた母。最期まで俺の行く末を心配していた母。
その母の望みを無下には出来ない、と俺は思った。

――そしてその後すぐに、美陽の行方が判明し俺は生きる気力を完全に取り戻した。

6歳時の皇帝への謁見の為に美陽が皇宮までやってきたことを聞き、美陽の存在を認識した俺は、すぐに彼の元へ会いに行った。
しかも父が今世の美陽に無体を働いたと聞いて、ますます動かないわけにはいかなかった。
結局、ブラックウェル公爵夫君に阻まれたことによりミハルに会うことはできなかったが――ミハルがこの世界で生きていることを確認できただけでも十分だった。

しかし、それまで全く自主的に動こうとしなかった俺が急に自分からブラックウェル家へ謝罪と見舞いに向かったことを不審に思った者が居た。

――セザールだ。
奴は珍しく従者もつけずに、ブラックウェル邸から帰宮した俺の下へ現れた。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
6歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...