異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第6章―研究会

街を散策#4

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――俺は思った以上に外出に飢えていたらしい。
体はともかく精神は大人だし、外に出られなくても今まで不満を感じたことはあまりなかったけど……実際に街に出ると、屋敷の中よりも圧倒的に刺激的であり、俺は年甲斐もなくはしゃぎまくってしまった。
もう屋台の食べ物を買って食べるだけでも楽しいし、前世にはなかったものを見つける度に興奮してしまった。

そんな感じで人通りの多い通りを通ったら――俺は気が付いたら迷子になっていた。
この日は首都で何らかのイベントをやっていたらしく、いつも以上に人通りが多かった中で、ほんの一瞬珍しいものに気を取られたその隙に、俺は人の波にのまれてしまったのだ。
背も低く体力のない俺は人の波に逆らうことができず、ようやく立ち止まれた時には一人で全然知らない場所に来てしまっていたのだった。

いい歳した大人が……迷子って……。

自分の失態に予想以上にショックを受けた俺は、歩き過ぎて疲れてしまったというのもあり、とりあえず休もうと道の端っこで座り込んだ。
自分の情けなさと疲れでその場で溜息を吐いていると、目の前に影がかかった。

なんだろうかと顔を上げると、知らない男二人が立っていた。

「君、どうしたの?こんなところで座って」
「うわ~、近くで見るとめっちゃ可愛いじゃん」
「えっ……」

俺に声を掛けてきた男二人はにやにや、という表現が一番合っているであろう表情をしていた。
そこで俺は気付いた。――ヤバい。俺、今、フード被ってないじゃん。
人ごみにのまれた弾みでフードが外れていたのに今気付いた。

「本当にめっちゃ可愛いな。髪短いけど」
「オレショート全然オッケー」
「俺はロングの方が好きだけどな~。でもこんだけ可愛けりゃイケるわ」

会話から察するに、俺はどうやら女と思われているみたいだった。
今の俺、結構女顔だからな……体も全然筋肉とかついてないし、コートを着てるのもあって体型的にも女に見えるのかもしれない。

「あ、あの……すいません、僕、男です……」

恐る恐る言うと、男二人は一瞬固まった後、俺を嘗め回すように見てきた。

「……ええ~?本当に?」
「嘘だろ?だってどう見ても女じゃん」
「本当に男です……」

男だと言っているのにいまいち信じられていない。俺はそれに少なからずショックを受けた。……帰ったらもう少し体、鍛えよう……
でもこれでこの二人も諦めて何処かへ行ってくれるだろう。
――そう思っていた俺は甘かった。

「……やっぱり信じられないなぁ~。本当に男?」
「オレら追い払うために嘘ついてんじゃねーの?」

――何故そうなる!?
彼らはどうしても俺を女だと思いたいらしい。逆に俺はどんだけ女顔なんだよ。

「う、嘘じゃないです!本当に男なんで……」
「ふーん。じゃあ嘘じゃないってこと、見せてもらおっかな~」
「……え?」
「おい、お前やんの?男だったらどうすんだよ」
「女ならそれでいいし、男ならそれはそれでそそる」
「うえ~、お前の趣味やっぱ良くわかんねぇ~」

男の一人がポケットから手のひらくらいの大きさの水晶を取り出したかと思ったら、俺の方に手を伸ばしてきた。

「それ使うん?」
「男だったら逃げられちゃうかもしれないじゃん」
「そこまでしてえのかよ」
「だってめっちゃ好みなんだもんこの子の顔」

男がそう言ったとき、水晶が光りだした。その瞬間頭がぐわんと揺れた。同時に体が全く動かせなくなる。

「……っ!?」
「もったいねー。拘束魔法の魔法具だろそれ~。結構高いのに使っちゃって良かったのかよ」
「何のために普段マジメにしてると思ってんだ。このためだろ~」
「ははっ、言えてる」

どうやら体が動かせなくなったのは魔法の所為らしい。男の持っていた水晶は魔法が封じ込められた魔法具だったようだ。

「さてじゃあ早速連れて……」
「おい待て、何か様子おかしくね?」

魔法をかけられたことによるマナの所為で、俺は全身の倦怠感に襲われていた。さらに頭がガンガンと痛み出して息もしづらくなり、意識が朦朧としてきた。
全身の症状に耐えられず、横向きに倒れこんだ。

「え、何だ……?」
魔法具それ、不良品だったんじゃ……」
「は!?んなわけね……」

男の台詞は最後まで紡がれることは無かった。
何かの力により男たちの体が吹っ飛ばされたからである。

「拘束魔法具の不正入手に使用、さらには強姦未遂。いい歳した大人がすべきことじゃないですね」

意識が朦朧としていた俺は、その人の姿は良く見えなかったが――その声で誰が来たのかわかった。

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