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第6章―研究会
街を散策#3
しおりを挟む俺達は実験器具を馬車に積んでアカデミーへ運び終えると、早速首都の中心街へ向かった。
中心街まで馬車を出してくれたのはアルフレッドだった。どこで聞いたのか、俺が街へ出かけることを聞きつけ来てくれたらしい。
「アル兄さま、ありがとうございます……でも、お休みの日にわざわざごめんなさい」
「これくらい構わない。街に行くのに馬車で酔ったら、散策も楽しめないだろうと思ったからな」
アルフレッドは、自分の運転であれば俺が酔わないと知って気を利かせてくれたようだ。
「お前達、ミハルを頼むぞ」
「はい、公子様」
「お任せください」
さらにアルフレッドは護衛にと、自分が小隊長をやっているブラックウェル騎士団の小隊から騎士の人を二人、俺たちの護衛にと付けてくれた。
「じゃあ、楽しんで」
「あ……、アル兄さまも行きませんか?も、もし暇なら……」
俺はそのまま去ろうとしたアルフレッドを引き留めた。
折角この前の校外学習でわだかまりも解けたし、もし暇なら一緒に回れたらと思ったのだ。
「誘いは嬉しいが、今日はこの後別の用があって……すまない」
「あ、いいんです!用事があるなら仕方ないですよ」
「……今度、暇なときに一緒に行こう」
「……はい!」
去り際にそう言って微笑んでくれたアルフレッドに俺は嬉しい気持ちになった。
「良かったね、ミハル。お兄さんと仲直り出来て」
「うん!」
俺達のやり取りを見ていたダニエルに言われ、俺は笑って頷いた。
「それじゃあ行こうか」
そして俺はダニエル達と一緒に初めての街へ繰り出した。
***
「うわ~、人沢山いるね!」
首都の中心街はやはり人が沢山居た。
店には勿論、道端出ている露店に並ぶ人たち、広場で大道芸や楽器の演奏を披露している人を囲む人たちも居た。
この世界に転生して初めてまともに見る街の風景に、俺は年甲斐もなく興奮した。
「ミハル、はしゃぐのはいいけど離れないでよ?」
「わかってるよ!……あ、あのひと……、」
呆れたようなダニエルの声に生返事を返しながら、俺は視界に捉えた人影を見てさらにテンションを上げた。
明らかに人間よりも尖った耳を持った人。その横には明らかに背の小さな人も居た。
「ねえ、あの人ってエルフ?その横の人はドワーフ?」
「ん?ああ、そうだね」
「わー!ホントに居るんだね!エルフとドワーフ!!初めて見られたよ!!」
こっそりと隣のダニエルに聞いてみれば、やはり予想通りだった。
この世界にも居るとは話には聞いていたけど、今までまともに街に出たことは無かったから実際に見たのは初めてだった。
普通に人間に混ざって歩いてる姿を見られて俺は興奮した。エルフにはエルフの、ドワーフにはドワーフの国がそれぞれあるようだけどブリアント帝国にも普通に居るんだな。
嬉しくて手を叩いて喜んでいると、何やら泣きそうな顔をしたレナルドと目が合った。
「あれ?レナルド?どうしたの?」
「……ミハル、今までエルフもドワーフも見たことなかったのか……?」
「え、うん。ブラックウェル邸にはエルフの人もドワーフの人も居なかったし……」
「そっか……」
何故か涙を拭う仕草をするレナルドに首を傾げると、ダニエルやブラン先輩も複雑そうな顔をしていた。
「あ、あれ?何かあった?」
「良かったですね……。外に出られるようになって」
「ブラン先輩?」
「これからはエルフもドワーフもいくらでも見られるし、街もいくらだって行けるから!いつだって付き合うからね、ミハル!」
「ダニエル?うん、ありがとう……?」
三人に何故か暖かい目で見られて俺は気付いた。
……もしかして俺、今、滅茶苦茶可哀想な子になってた……?
「な、なんかごめん……」
「いいんだよ、ほら次行こう?あっちに首都で一番有名な広場あるから」
「え、行く!」
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