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第6章―研究会
街を散策#5
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「ブラン、せんぱ……」
「申し訳ありませんミハル様。来るのが遅くなりました」
ブラン先輩が俺の身体を抱き上げて、俺に何かを渡してくれた瞬間、身体が一気に楽になったように感じた。
「今渡したのはマナを充填する前の魔法具です。マナが吸収されると思いますので落ち着くまで持っていてください」
「せんぱい……あの……どうして……」
「後でご説明します。まずはあの不届き者二名を拘束しますので」
ブラン先輩が吹っ飛ばされた男二人の方へ向かって右手を向けると、男二人は光る鎖のようなもので拘束された。
あれは魔法だろうか。先輩は魔法が使えたのか……。
「すみませんが衛兵を呼んでいただけますか?あの不届き者を突き出したいので」
次にブラン先輩は道行く人にそう言った。通行人は快く引き受けてくれ、数分後衛兵が到着すると俺に絡んできた二人はあっという間に連れていかれた。
「ブラン先輩……魔法……使えたんですね」
「……はい。今まで言わずに申し訳ありません」
「いえ……助かりました。本当にありがとうございました……」
いい歳して迷子になった挙句に、強姦されそうになったところを助けてもらったのに先輩を責めるなんてできるわけがない。
「どうやって僕の居場所、わかったんですか……?」
「探索魔法です。ですがミハル様はマナを全く持っていないので、捜索が難航してしまいました。もう少し早く見つけられれば良かったんですが……」
ブラン先輩はそう言ってまた謝った。
謝ることじゃないのに……むしろ見つけてくれてありがたかった。
にしてもやっぱり魔法は凄いな。探し人も見つけられるとは。でも、マナがないと見つけられないってどういう意味だろう。
「マナがないと探索できないんですか?」
「魔法を使える使えないにかかわらず、生き物はその身にマナを宿していて、探索魔法はそのマナを介して見つけるものなんですが、ミハル様は全くマナを宿していないので、貴方の周りに漂うマナから間接的に探すしかなく……それで見つけ出すのに時間がかかってしまいました」
マナって魔法が使えなくても普通は持ってるものだったのか……知らなかった。
でも俺はそのマナを全く宿してないってことは……。
「もしかして僕のマナ不適合症って、それが原因だったり……?」
「……その可能性は高いと思います。普通の人は身に宿すマナが空気中のマナを中和する役割を果たしますが、貴方の場合はそれがないためマナの中和が出来ないんだと思います」
「へえ……」
先輩によれば、マナは元々、どの生物にとっても毒らしい。そのマナを、俺がマナを弾くアイテムで防いでるところを、普通の人は自分の持つマナで防げるってことか。
俺はようやく自分の病気の原因がわかった気がしてなんだかすっきりした。
でも俺はすっきりしたけど、ブラン先輩はなんだか複雑そうな表情をしていた。
「貴方のような全くマナを宿していない人は……ほぼ居ません。だから後天的にマナを宿す方法は誰も知らないしそもそも試さない。――つまり、貴方がマナ不適合症を本当の意味で克服することは現状できないということです」
「ああ……確かにそうですね」
「……それだけですか?」
「え?」
「貴方は今、これからも一生病気に苦しめられることになると言われたようなものですよ。それなのに……それだけですか?」
これからも一生苦しめられると言われたのに思ったより俺の感想が薄かったから、ブラン先輩は疑問に思ったようだ。
俺は笑って答えた。
「確かに、それは残念だなぁって思いますけど……元々治す方法はないって言われてましたし。でもマナを防ぐアイテムのお陰で昔より全然生きやすくなりましたしね。とりあえず死なないならそれでいいかな~って思います」
俺はそもそも、数年前はあと数年の命だと言われていた身だ。でも父やダニエルや色んな人たちのお陰で、俺は命を拾った。
一生治らないのはまあ残念ではあるけど、死なないのであればそれでいい。
――生きて、俺の命を拾ってくれた人たちに少しでも恩返しがしていけるのなら、俺はそれだけで十分なのだ。
そう笑って言うと、ブラン先輩は一瞬目を見開いた後、柔らかく微笑んだ。
「……成程。貴方に対して多くの人が力添えをしようとする意味がよくわかりました」
「え?」
「そろそろ行きましょう。ここはあまり治安が良くないところなので長居すると面倒ですから」
「……ここ、治安悪いところだったんですか?」
「そうですね。所謂援助交際の待合スポットとして有名です」
「えんじょ……、成程……だからか……」
俺があの男二人組に声をかけられた理由がわかった。
そんなところで座ってたから、声かけられ待ちだと思われたんだな……。
げんなりしていたらブラン先輩に抱き上げられた。
「え、あの!僕もう歩けます!」
「まだマナの影響が抜けきっていないでしょう?ダニエル様とレナルド様との待合場所もここから遠いので、運びますよ」
「いや、だけど!」
「はい、行きますよ」
抵抗むなしく俺はそのままブラン先輩に運ばれた。なんかダニエルにも前同じようなことされたような……。
先輩に抱えられたままダニエル達のところに帰る途中、俺はふと気になったことがあったので先輩へ聞いてみた。
「ところで先輩は、マナのこととか色々詳しいんですね。アカデミーの授業でも出てこなかったのに」
「……偶々知る機会があったので知っていただけですよ」
そう言ってにこりと笑った先輩の顔には明らかな拒絶が見られたので俺はそれ以上の追及はやめた。
魔法使いであったことを隠していたりと、彼にはまだ色々と秘密がありそうだと思ったが、何も聞かなかった。
俺も前世のこととか誰にも言ったことはないし、人に言わないで隠していることは、大なり小なり誰しも持っているものだと思ったので。
そしてダニエルとレナルドの待つ場所に戻った俺は二人に滅茶苦茶怒られたのだった。
「いくら珍しいからって、よそ見して歩かない!」
「はい、すみませんでした……」
最近ダニエルが第二のお母さんみたいに思えてくる今日この頃だった。
「申し訳ありませんミハル様。来るのが遅くなりました」
ブラン先輩が俺の身体を抱き上げて、俺に何かを渡してくれた瞬間、身体が一気に楽になったように感じた。
「今渡したのはマナを充填する前の魔法具です。マナが吸収されると思いますので落ち着くまで持っていてください」
「せんぱい……あの……どうして……」
「後でご説明します。まずはあの不届き者二名を拘束しますので」
ブラン先輩が吹っ飛ばされた男二人の方へ向かって右手を向けると、男二人は光る鎖のようなもので拘束された。
あれは魔法だろうか。先輩は魔法が使えたのか……。
「すみませんが衛兵を呼んでいただけますか?あの不届き者を突き出したいので」
次にブラン先輩は道行く人にそう言った。通行人は快く引き受けてくれ、数分後衛兵が到着すると俺に絡んできた二人はあっという間に連れていかれた。
「ブラン先輩……魔法……使えたんですね」
「……はい。今まで言わずに申し訳ありません」
「いえ……助かりました。本当にありがとうございました……」
いい歳して迷子になった挙句に、強姦されそうになったところを助けてもらったのに先輩を責めるなんてできるわけがない。
「どうやって僕の居場所、わかったんですか……?」
「探索魔法です。ですがミハル様はマナを全く持っていないので、捜索が難航してしまいました。もう少し早く見つけられれば良かったんですが……」
ブラン先輩はそう言ってまた謝った。
謝ることじゃないのに……むしろ見つけてくれてありがたかった。
にしてもやっぱり魔法は凄いな。探し人も見つけられるとは。でも、マナがないと見つけられないってどういう意味だろう。
「マナがないと探索できないんですか?」
「魔法を使える使えないにかかわらず、生き物はその身にマナを宿していて、探索魔法はそのマナを介して見つけるものなんですが、ミハル様は全くマナを宿していないので、貴方の周りに漂うマナから間接的に探すしかなく……それで見つけ出すのに時間がかかってしまいました」
マナって魔法が使えなくても普通は持ってるものだったのか……知らなかった。
でも俺はそのマナを全く宿してないってことは……。
「もしかして僕のマナ不適合症って、それが原因だったり……?」
「……その可能性は高いと思います。普通の人は身に宿すマナが空気中のマナを中和する役割を果たしますが、貴方の場合はそれがないためマナの中和が出来ないんだと思います」
「へえ……」
先輩によれば、マナは元々、どの生物にとっても毒らしい。そのマナを、俺がマナを弾くアイテムで防いでるところを、普通の人は自分の持つマナで防げるってことか。
俺はようやく自分の病気の原因がわかった気がしてなんだかすっきりした。
でも俺はすっきりしたけど、ブラン先輩はなんだか複雑そうな表情をしていた。
「貴方のような全くマナを宿していない人は……ほぼ居ません。だから後天的にマナを宿す方法は誰も知らないしそもそも試さない。――つまり、貴方がマナ不適合症を本当の意味で克服することは現状できないということです」
「ああ……確かにそうですね」
「……それだけですか?」
「え?」
「貴方は今、これからも一生病気に苦しめられることになると言われたようなものですよ。それなのに……それだけですか?」
これからも一生苦しめられると言われたのに思ったより俺の感想が薄かったから、ブラン先輩は疑問に思ったようだ。
俺は笑って答えた。
「確かに、それは残念だなぁって思いますけど……元々治す方法はないって言われてましたし。でもマナを防ぐアイテムのお陰で昔より全然生きやすくなりましたしね。とりあえず死なないならそれでいいかな~って思います」
俺はそもそも、数年前はあと数年の命だと言われていた身だ。でも父やダニエルや色んな人たちのお陰で、俺は命を拾った。
一生治らないのはまあ残念ではあるけど、死なないのであればそれでいい。
――生きて、俺の命を拾ってくれた人たちに少しでも恩返しがしていけるのなら、俺はそれだけで十分なのだ。
そう笑って言うと、ブラン先輩は一瞬目を見開いた後、柔らかく微笑んだ。
「……成程。貴方に対して多くの人が力添えをしようとする意味がよくわかりました」
「え?」
「そろそろ行きましょう。ここはあまり治安が良くないところなので長居すると面倒ですから」
「……ここ、治安悪いところだったんですか?」
「そうですね。所謂援助交際の待合スポットとして有名です」
「えんじょ……、成程……だからか……」
俺があの男二人組に声をかけられた理由がわかった。
そんなところで座ってたから、声かけられ待ちだと思われたんだな……。
げんなりしていたらブラン先輩に抱き上げられた。
「え、あの!僕もう歩けます!」
「まだマナの影響が抜けきっていないでしょう?ダニエル様とレナルド様との待合場所もここから遠いので、運びますよ」
「いや、だけど!」
「はい、行きますよ」
抵抗むなしく俺はそのままブラン先輩に運ばれた。なんかダニエルにも前同じようなことされたような……。
先輩に抱えられたままダニエル達のところに帰る途中、俺はふと気になったことがあったので先輩へ聞いてみた。
「ところで先輩は、マナのこととか色々詳しいんですね。アカデミーの授業でも出てこなかったのに」
「……偶々知る機会があったので知っていただけですよ」
そう言ってにこりと笑った先輩の顔には明らかな拒絶が見られたので俺はそれ以上の追及はやめた。
魔法使いであったことを隠していたりと、彼にはまだ色々と秘密がありそうだと思ったが、何も聞かなかった。
俺も前世のこととか誰にも言ったことはないし、人に言わないで隠していることは、大なり小なり誰しも持っているものだと思ったので。
そしてダニエルとレナルドの待つ場所に戻った俺は二人に滅茶苦茶怒られたのだった。
「いくら珍しいからって、よそ見して歩かない!」
「はい、すみませんでした……」
最近ダニエルが第二のお母さんみたいに思えてくる今日この頃だった。
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