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Together Forever
No,2
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あたしは今年のクリスマスは、去年作り出した【レヴィの神子の、クリスマスリース】と【ホットワイン】をバザーで売り出す予定だった。あたしの付加価値はあの【皇国の守護女神の奇跡】によって高まる一方で。今年はレヴィの神殿はもとより、ベルナルディーノの神殿からもバザー会場に使って欲しいとの依頼があったのだ。あたしはこれ幸いと【奇跡の神子】人気に乗っかる事にした。陛下と一緒に守ってゆく神聖ブリュール皇国全体の孤児院運営の為なのだから力も入ろうと言うものだ。
今年はあたしの例の友人達も協力してくれて、なかなかカラフルで洒落たクリスマスリースを作る事が出来たと自負してる。だからクリスマス・バザーを楽しみにしていたのに、ヴィオは予め根回ししていたようでバザーの前日からの三日間、みんなは快く気持ち良く送り出してくれたのだった。何て事をしてくれるのだと云う怒りは、お墓参りを実現させてもらえた事で雲散霧消してしまって。クリスマス・デートの件は、ヴィオの囁きによって陥落させられてしまったのだった。
「…七都姫…私だけの女神…“奇跡の神子”の座から降りて
クリスマスの間だけでも、私の妻として独占させてくれ…」
と。
※ ※ ※
四丁目の有名な時計塔を中心とする大通り。
名立たる有名ブランド店が立ち並び、クリスマス・イルミネーションに彩られて。
行きかう人々は、みんな幸せそうでリア充に見えてしまう。
腕を組んで歩いている夫をチラリと見上げてしまう。
今日はヴィオは“幻視”の魔法を使っている。
あの銀髪の人外の美貌のままだったら目立って仕方がない。
この雑踏に紛れてしまう黒い髪の一般的な日本人の容貌だ。
ただあたしの我儘で、水色の瞳はそのままにしてもらった(照)。
カシミヤコートの下は相変わらずオーダーメイドのようなスーツ姿だ。
こんな素敵な男性があたしの旦那さまだなんて、未だに信じられない気がする。
あたしの視線に気付くと、こちらを向いてにっこりと微笑ってくれる。
その微笑みがあまりにも優しくて、恥ずかしくなり下を向いてしまう。
下を向けば嫌でも足元のファーブーツが目に入ってくる。
数年前のあたしだったら絶対に拒否したチョイスだ。
そもそもクリスマス気分に浮かれた銀座なんて、“喪女”を誇ってたあたしからは最も遠い唾棄すべき場所の筈なのに。いくらヴィオに連れて来られたからといって、大人しく歩いている事からして信じられない。彼は強制した訳ではない。あたしが拒否すれば、どこでも違う場所に連れて行ってくれるだろう。
ブランチを食べてから転移して来たから、そろそろ夕景に変化してゆく街並みをゆっくりと歩く。キラキラと輝くウィンドウの色々な商品を眺めながら。宝飾品に興味はない。あたしが目にとめてしまうのは、孤児院の子供達に喜んで貰えるような玩具や友人達が喜びそうな可愛い鞄や洋服だ。昨年はフェデーリ孤児院の子供達にクリスマス・プレゼントを贈る事が出来たけど。孤児院は一つではないのだ。全ての孤児院の子供達にプレゼントするのは不可能だろう。孤児院運営も重要な課題だけど、こちらの小学校のような施設を作り未成年者に教育を受けさせるのがあたしの理想だ。まあ、まだまだ『子供達は働き手』としか考えられない現状では、あくまでも理想論なんだけどね。
と、そんな事を考えていると。
「こら。」
旦那さまの足が止まって。
“顎クイ”をされてしまって。
瞳を覗き込まれた。
「こんなロマンティックなシチュエーションで、我妻は何を考えているのかな?」
と。
いけない、いけない。折角ヴィオがクリスマス・デートに誘ってくれたのだから、デートを楽しまなければ! これだから、デートの経験もない“元・喪女”はイカンイカン!
などと考えていると。
「歩き疲れたか。少し休もうか。」
と言ってタクシーを拾い、連れて来られたのは人生初の帝都ホテルであった!
※ ※ ※
薔薇を型取ったと思われるシャンデリア。
真紅の薔薇の生け花を中央に、左には大きなクリスマスツリーが飾られている。
金銀の様々なオーナメントがツリーを飾り、クリスマスを彩っているかのようだ。
あたしはヴィオに誘われるままにロビーラウンジに入り、珈琲を頼んだ。日本の本当の珈琲は、滅茶苦茶久し振りだ! ホントはケーキも頼みたかったのだが、このホテルのメインダイニングのディナーを予約しているからと止められてしまった。あたしの記憶が確かならば、メチャクチャ豪華なフレンチレストランだった筈だ。
まったくこの男性は!
異世界人であるあたしの為に、今日と云う特別な日をあたしと過ごす為に。
あたしを楽しませる為に色々と考えてくれたのだろう。
そう考えたら、急に申し訳なく思えてしまって。
孤児院の事や諸々気になる事などは一時棚上げしておこうと。
『あたしの故郷の特別な日』を思いっ切り楽しもうと今更ながら思えてしまった。
「…ごめんなさい。今夜はヴィオの事だけを考えます。」
と、眼を見ながら謝った。
すると。
眼を大きく見開いて固まったヴィオは、みるみる赤くなって。
片手で口を抑えるとしばらく黙り込み。
大きなため息を吐き出すと、苦笑いで許してくれた。
「…ずるいな、そなたは…私は、そなたには勝てん…」
と。
そうしてあたしは、ホテルの豪奢な雰囲気を味わい楽しんだのだった。
フレンチレストランの豪華なクリスマスディナー。
ディナーの後のスカイラウンジでの煌めく夜景を見ながら楽しむカクテル。
どちらもクリスマスをモチーフにしていて、あたしの舌も眼も楽しませてくれた。
折しも聴こえてくるピアノの生演奏によるクリスマスメドレー。
ジャズアレンジでしっとりとシックな雰囲気に酔わせてくれる。
そしてトドメは最高級のスイートルーム。
ウェルカムシャンパンを開けて乾杯したら、後は甘い夢の時間の始まりだ。
ヴィオはあたしを甘く蕩けるように愛してくれた。
あたしは異世界に転移してから、生まれて初めて“恋人同士のクリスマス”を過ごす事が出来たのだった。
翌日は、本当のクリスマス。
イエス・キリストの誕生日だ。
夕べの余韻が身体に、精神に残っていて。
久々のバスタブでその余韻を洗い流し、モーニングにはギリギリ間に合った。
帝都ホテルの朝食バイキングにはメッチャ惹かれたけど、涙を飲んで諦めて。
あたしがチョイスしたのは老舗料亭の由緒ある『朝の和定食』だった。
夢にまで見た、炊き立てのほかほか白米! 胡瓜と大根のお漬物!! 焼き鮭!!! 温泉卵にふっくら煮物!!!!! そうして、お味噌汁!!!!!! クリスマスの朝食には甚だ相応しくはないが、あたしにとっては何よりのご馳走だ!! 勿論〆には日本茶を頂いて。あたしは大満足の朝食を終えたのであった。
チェックアウトをした後、ロビーでゴスペルのミニコンサートを行っていて。
あたし達はロビーラウンジに入り、珈琲を飲みながらそのコンサートを聴いた。
ゴスペルに詳しくはないが、それなりに何かを感じさせるコンサートだった。
その余韻に浸りながら飲む珈琲は格別だ。ロビーラウンジの珈琲はおかわり自由なのが嬉しい。でも珈琲一杯であんまり粘るのも悪いと思って、サンタクロースの帽子をイメージしたと云うクリスマスケーキを追加オーダーした。そうしたらあたしの意をくんで下さったヴィオが、ブランデーベースのカクテルも追加オーダーしてくれた。そのロングカクテルを眼の前まで掲げ、あたしに向かって微笑みながら囁いた。
「愛する妻と共に過ごすクリスマスに…乾杯!」
と。
その優しい水色の瞳に射抜かれて、あたしは真っ赤になりながらケーキをつつく羽目に陥ってしまった(照)。
しばらくそうしていると段々と落ち着いて、のんびりゆったりとした気持ちになってくる。日本でも屈指の超名門ホテル。高い天井、広々とした空間、由緒ありげな調度品で飾られた店内、ブランドもののコーヒーカップや高価そうなクリスタルグラス。煌びやかな堂々たるクリスマスツリー。どう見てもリア充のビジネスマンや有閑マダム……そうして、幸せそうな恋人達。
―――ああ。
あたしは、ホントは羨ましかったんだ―――
ふいに理解した。
クリスマスカラー一色に染められた銀座の街を歩いていても。
嫌悪感なく豪華で洗練された一流ホテルでクリスマスイブを過ごせた理由。
かつて、あたしは孤児だった。
離婚してしまった両親を知っていたから、恋愛願望も結婚願望もなかった。
祖父母は愛情深く慈しんでくれたけど、いつも満たされないものを感じていた。
生活するのに必要最低限の物資があればそれで満足だと……無理してたんだ。
本当は、両親の。
実の両親の愛情が欲しかったんだ。
“普通”の家庭に育ち、“普通”に人並みの……恋愛をしてみたかったんだ。
去年のクリスマスには、孤児院の子供達が“気付き”を与えてくれたけど。
今年のクリスマスでは、愛する旦那さまが“気付き”を与えて下さった。
―――きっと、この男性とは。
異なる世界を越えての赤い糸で結ばれていたのだ―――
感慨深い想いで不思議な確信を抱きつつ。
あたしのクリスマスは過ぎていったのであった。
※ ※ ※
戻って来たあたしは、イの一番に皇家の霊廟に向かった。
ゴスペルを聞いて感じたキリスト教への信仰心。
あたしに特別な信仰心なんてない。
神道も仏教も特に信じていない。
けれども、“神様”と呼ばれる存在は信じてる。
“異世界転移”なんて不思議な実体験をしたし。
何より実際にこの眼で、女神を見ちゃったからね。
イエス・キリストの生まれた聖なる日。
この霊廟に眠るのは皇家のご先祖だけでなく。
代々の【レヴィの神子】と呼ばれる存在もいるのだ。
肉体が滅んでも天に還れずに、転生する事が許されなかった魂が。
あたしは祈った。
跪きひたすらに祈った。
ヴィオの努力によって解放された、神子の魂の安寧を。
そうして許された転生による、穏やかで平穏な生活を。
心の底から一心に願い、祈った。
※ ※ ※
尚、化粧を落としこちらの洋服に着替えたあたしは、ヴィオを問い詰めた。
実はホテルのロビーラウンジで『そなたは宝石や宝飾品などよりは、こちらの方が喜ぶだろう。』と、珈琲セット一式をクリスマスプレゼントに貰ったのだ。プレゼントなど用意してなかったあたしは大いに慌てたし、ホテルでゆったり過ごした事が何よりのプレゼントだと思っていたのでプチパニックに陥った。けれどもそんなあたしを見越していたかのように、ヴィオは『受け取ってくれて、そなたが喜んでくれれば何よりだ。』と優しい眼差しと柔らかな微笑みをくれた。
まあ、これはこの際、置いておこう(照)。
問題は今回の出費だ。
今まで有耶無耶にしてしまった現代日本で使えたお金の出所だ。
そしたらあっけない程簡単に呆れた答えが返って来た。
精霊とのやり取りや、異世界の資産の事などが。
『ネットに侵入』云々言ってたけど、さっぱり意味が分からなかった。
それよりも。
「今度また、帝都ホテルに宿泊しよう。
何なら海外旅行でも良いぞ?」
とのお言葉の方が、よほど衝撃的だった。
ちなみに。
年末恒例行事の大宮廷舞踏会には二人揃って列席し、仲良く踊り続けて皇帝陛下と皇妃の睦まじい様子を貴族達に見せつけたのはヴィオの希望であり意志だけど。愛する夫と新たな年を迎える瞬間を共に出来たのは、あたしにとっては大いなる喜びでもあった。
今年はあたしの例の友人達も協力してくれて、なかなかカラフルで洒落たクリスマスリースを作る事が出来たと自負してる。だからクリスマス・バザーを楽しみにしていたのに、ヴィオは予め根回ししていたようでバザーの前日からの三日間、みんなは快く気持ち良く送り出してくれたのだった。何て事をしてくれるのだと云う怒りは、お墓参りを実現させてもらえた事で雲散霧消してしまって。クリスマス・デートの件は、ヴィオの囁きによって陥落させられてしまったのだった。
「…七都姫…私だけの女神…“奇跡の神子”の座から降りて
クリスマスの間だけでも、私の妻として独占させてくれ…」
と。
※ ※ ※
四丁目の有名な時計塔を中心とする大通り。
名立たる有名ブランド店が立ち並び、クリスマス・イルミネーションに彩られて。
行きかう人々は、みんな幸せそうでリア充に見えてしまう。
腕を組んで歩いている夫をチラリと見上げてしまう。
今日はヴィオは“幻視”の魔法を使っている。
あの銀髪の人外の美貌のままだったら目立って仕方がない。
この雑踏に紛れてしまう黒い髪の一般的な日本人の容貌だ。
ただあたしの我儘で、水色の瞳はそのままにしてもらった(照)。
カシミヤコートの下は相変わらずオーダーメイドのようなスーツ姿だ。
こんな素敵な男性があたしの旦那さまだなんて、未だに信じられない気がする。
あたしの視線に気付くと、こちらを向いてにっこりと微笑ってくれる。
その微笑みがあまりにも優しくて、恥ずかしくなり下を向いてしまう。
下を向けば嫌でも足元のファーブーツが目に入ってくる。
数年前のあたしだったら絶対に拒否したチョイスだ。
そもそもクリスマス気分に浮かれた銀座なんて、“喪女”を誇ってたあたしからは最も遠い唾棄すべき場所の筈なのに。いくらヴィオに連れて来られたからといって、大人しく歩いている事からして信じられない。彼は強制した訳ではない。あたしが拒否すれば、どこでも違う場所に連れて行ってくれるだろう。
ブランチを食べてから転移して来たから、そろそろ夕景に変化してゆく街並みをゆっくりと歩く。キラキラと輝くウィンドウの色々な商品を眺めながら。宝飾品に興味はない。あたしが目にとめてしまうのは、孤児院の子供達に喜んで貰えるような玩具や友人達が喜びそうな可愛い鞄や洋服だ。昨年はフェデーリ孤児院の子供達にクリスマス・プレゼントを贈る事が出来たけど。孤児院は一つではないのだ。全ての孤児院の子供達にプレゼントするのは不可能だろう。孤児院運営も重要な課題だけど、こちらの小学校のような施設を作り未成年者に教育を受けさせるのがあたしの理想だ。まあ、まだまだ『子供達は働き手』としか考えられない現状では、あくまでも理想論なんだけどね。
と、そんな事を考えていると。
「こら。」
旦那さまの足が止まって。
“顎クイ”をされてしまって。
瞳を覗き込まれた。
「こんなロマンティックなシチュエーションで、我妻は何を考えているのかな?」
と。
いけない、いけない。折角ヴィオがクリスマス・デートに誘ってくれたのだから、デートを楽しまなければ! これだから、デートの経験もない“元・喪女”はイカンイカン!
などと考えていると。
「歩き疲れたか。少し休もうか。」
と言ってタクシーを拾い、連れて来られたのは人生初の帝都ホテルであった!
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薔薇を型取ったと思われるシャンデリア。
真紅の薔薇の生け花を中央に、左には大きなクリスマスツリーが飾られている。
金銀の様々なオーナメントがツリーを飾り、クリスマスを彩っているかのようだ。
あたしはヴィオに誘われるままにロビーラウンジに入り、珈琲を頼んだ。日本の本当の珈琲は、滅茶苦茶久し振りだ! ホントはケーキも頼みたかったのだが、このホテルのメインダイニングのディナーを予約しているからと止められてしまった。あたしの記憶が確かならば、メチャクチャ豪華なフレンチレストランだった筈だ。
まったくこの男性は!
異世界人であるあたしの為に、今日と云う特別な日をあたしと過ごす為に。
あたしを楽しませる為に色々と考えてくれたのだろう。
そう考えたら、急に申し訳なく思えてしまって。
孤児院の事や諸々気になる事などは一時棚上げしておこうと。
『あたしの故郷の特別な日』を思いっ切り楽しもうと今更ながら思えてしまった。
「…ごめんなさい。今夜はヴィオの事だけを考えます。」
と、眼を見ながら謝った。
すると。
眼を大きく見開いて固まったヴィオは、みるみる赤くなって。
片手で口を抑えるとしばらく黙り込み。
大きなため息を吐き出すと、苦笑いで許してくれた。
「…ずるいな、そなたは…私は、そなたには勝てん…」
と。
そうしてあたしは、ホテルの豪奢な雰囲気を味わい楽しんだのだった。
フレンチレストランの豪華なクリスマスディナー。
ディナーの後のスカイラウンジでの煌めく夜景を見ながら楽しむカクテル。
どちらもクリスマスをモチーフにしていて、あたしの舌も眼も楽しませてくれた。
折しも聴こえてくるピアノの生演奏によるクリスマスメドレー。
ジャズアレンジでしっとりとシックな雰囲気に酔わせてくれる。
そしてトドメは最高級のスイートルーム。
ウェルカムシャンパンを開けて乾杯したら、後は甘い夢の時間の始まりだ。
ヴィオはあたしを甘く蕩けるように愛してくれた。
あたしは異世界に転移してから、生まれて初めて“恋人同士のクリスマス”を過ごす事が出来たのだった。
翌日は、本当のクリスマス。
イエス・キリストの誕生日だ。
夕べの余韻が身体に、精神に残っていて。
久々のバスタブでその余韻を洗い流し、モーニングにはギリギリ間に合った。
帝都ホテルの朝食バイキングにはメッチャ惹かれたけど、涙を飲んで諦めて。
あたしがチョイスしたのは老舗料亭の由緒ある『朝の和定食』だった。
夢にまで見た、炊き立てのほかほか白米! 胡瓜と大根のお漬物!! 焼き鮭!!! 温泉卵にふっくら煮物!!!!! そうして、お味噌汁!!!!!! クリスマスの朝食には甚だ相応しくはないが、あたしにとっては何よりのご馳走だ!! 勿論〆には日本茶を頂いて。あたしは大満足の朝食を終えたのであった。
チェックアウトをした後、ロビーでゴスペルのミニコンサートを行っていて。
あたし達はロビーラウンジに入り、珈琲を飲みながらそのコンサートを聴いた。
ゴスペルに詳しくはないが、それなりに何かを感じさせるコンサートだった。
その余韻に浸りながら飲む珈琲は格別だ。ロビーラウンジの珈琲はおかわり自由なのが嬉しい。でも珈琲一杯であんまり粘るのも悪いと思って、サンタクロースの帽子をイメージしたと云うクリスマスケーキを追加オーダーした。そうしたらあたしの意をくんで下さったヴィオが、ブランデーベースのカクテルも追加オーダーしてくれた。そのロングカクテルを眼の前まで掲げ、あたしに向かって微笑みながら囁いた。
「愛する妻と共に過ごすクリスマスに…乾杯!」
と。
その優しい水色の瞳に射抜かれて、あたしは真っ赤になりながらケーキをつつく羽目に陥ってしまった(照)。
しばらくそうしていると段々と落ち着いて、のんびりゆったりとした気持ちになってくる。日本でも屈指の超名門ホテル。高い天井、広々とした空間、由緒ありげな調度品で飾られた店内、ブランドもののコーヒーカップや高価そうなクリスタルグラス。煌びやかな堂々たるクリスマスツリー。どう見てもリア充のビジネスマンや有閑マダム……そうして、幸せそうな恋人達。
―――ああ。
あたしは、ホントは羨ましかったんだ―――
ふいに理解した。
クリスマスカラー一色に染められた銀座の街を歩いていても。
嫌悪感なく豪華で洗練された一流ホテルでクリスマスイブを過ごせた理由。
かつて、あたしは孤児だった。
離婚してしまった両親を知っていたから、恋愛願望も結婚願望もなかった。
祖父母は愛情深く慈しんでくれたけど、いつも満たされないものを感じていた。
生活するのに必要最低限の物資があればそれで満足だと……無理してたんだ。
本当は、両親の。
実の両親の愛情が欲しかったんだ。
“普通”の家庭に育ち、“普通”に人並みの……恋愛をしてみたかったんだ。
去年のクリスマスには、孤児院の子供達が“気付き”を与えてくれたけど。
今年のクリスマスでは、愛する旦那さまが“気付き”を与えて下さった。
―――きっと、この男性とは。
異なる世界を越えての赤い糸で結ばれていたのだ―――
感慨深い想いで不思議な確信を抱きつつ。
あたしのクリスマスは過ぎていったのであった。
※ ※ ※
戻って来たあたしは、イの一番に皇家の霊廟に向かった。
ゴスペルを聞いて感じたキリスト教への信仰心。
あたしに特別な信仰心なんてない。
神道も仏教も特に信じていない。
けれども、“神様”と呼ばれる存在は信じてる。
“異世界転移”なんて不思議な実体験をしたし。
何より実際にこの眼で、女神を見ちゃったからね。
イエス・キリストの生まれた聖なる日。
この霊廟に眠るのは皇家のご先祖だけでなく。
代々の【レヴィの神子】と呼ばれる存在もいるのだ。
肉体が滅んでも天に還れずに、転生する事が許されなかった魂が。
あたしは祈った。
跪きひたすらに祈った。
ヴィオの努力によって解放された、神子の魂の安寧を。
そうして許された転生による、穏やかで平穏な生活を。
心の底から一心に願い、祈った。
※ ※ ※
尚、化粧を落としこちらの洋服に着替えたあたしは、ヴィオを問い詰めた。
実はホテルのロビーラウンジで『そなたは宝石や宝飾品などよりは、こちらの方が喜ぶだろう。』と、珈琲セット一式をクリスマスプレゼントに貰ったのだ。プレゼントなど用意してなかったあたしは大いに慌てたし、ホテルでゆったり過ごした事が何よりのプレゼントだと思っていたのでプチパニックに陥った。けれどもそんなあたしを見越していたかのように、ヴィオは『受け取ってくれて、そなたが喜んでくれれば何よりだ。』と優しい眼差しと柔らかな微笑みをくれた。
まあ、これはこの際、置いておこう(照)。
問題は今回の出費だ。
今まで有耶無耶にしてしまった現代日本で使えたお金の出所だ。
そしたらあっけない程簡単に呆れた答えが返って来た。
精霊とのやり取りや、異世界の資産の事などが。
『ネットに侵入』云々言ってたけど、さっぱり意味が分からなかった。
それよりも。
「今度また、帝都ホテルに宿泊しよう。
何なら海外旅行でも良いぞ?」
とのお言葉の方が、よほど衝撃的だった。
ちなみに。
年末恒例行事の大宮廷舞踏会には二人揃って列席し、仲良く踊り続けて皇帝陛下と皇妃の睦まじい様子を貴族達に見せつけたのはヴィオの希望であり意志だけど。愛する夫と新たな年を迎える瞬間を共に出来たのは、あたしにとっては大いなる喜びでもあった。
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