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Together Forever
No,3
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今日はあたしの世界でのバレンタインデーだ。
その為に、朝からお城の厨房でコソコソしてた。
※ ※ ※
向こうにいた頃も異世界に来てからも、あたしにバレンタインデーなんか関係なかった。OL時代にはそれぞれの会社の慣習にならって義理チョコを配る他は専らコンビニで自分チョコを買うくらいだった。
異世界に来てからは、もっと関係ない。
そもそも『バレンタインデー』と言う風習がないのだから。
あんなものそもそもキリスト教の聖人に因んだお菓子業界の戦略だ。
あたしには全く関係がない。
が、しかし。
本当に愛する男性が出来てしまったからには別だ(照)。
相手は既に『旦那さま』になっている男性だが、彼の深い愛情を知った今こそ、愛と心からの感謝を込めて渡したいと思ったのだ。幸いこのセルヴァン大陸もカカオもどきの木があって、チョコもどきが流通してる。どちらの世界でも、チョコレートケーキは女の子に大人気だ。
けれども、男性に贈る習慣はない。
甘い物が苦手な男性もいるけど、幸いヴィオは食後のデザートなども普通に食べている。決して嫌いではあるまい。
何よりも。
あれだけあたしの世界の事情に精通しているヴィオの事だ。
バレンタインの事も知っているに違いない。
あたしからの贈り物を喜んでくれるに違いない(大照)。
そんな訳でエプロンを装着して励んでいるのは、チョコレートケーキ作りだ。この世界にはさすがに板チョコはないから、手作りチョコは諦めるしかなかったのだ。チョコを固める型もないしね(苦笑)。この時大いに役立ってくれたのは以前に聞いたケーキ作りのレシピメモだ。これで自信を持って張り切って作る事が出来る! え? 板チョコがないのに、どうやってチョコレートケーキを作るのかって? それはケーキレシピを教えてくれたカフェを経営している家のお友達に理由を説明して、チョコレートを譲ってもらったのだ。その際、彼女がはしゃいで大いに騒いでいたのはガン無視だ!(照)
でも何しろこの世界でケーキを作るのは二度目だ。
それも愛する旦那さまに贈るバレンタインプレゼントとしてなんて(激照)。
彼に『美味しい』と言ってもらいたくて頑張った。
照れと緊張のせいで最初は少し手が震えたけど、次第に夢中になっていった。
そうして何とか午後の執務の休憩時間のお茶の時間に間に合ったのだった。
※ ※ ※
「…陛下…お仕事お疲れ様です…少し休憩なさって下さい。」
あたしはクラリッサ達が張り切ってくれたドレス姿でヴィオの執務室を訪れた。
ヴィオは現れたあたしを眩しそうに見つめ。
侍女が押して来たカートの上に気付くと、蕩けそうな瞳であたしを見て呟いた。
「…チョコレートか…」
と。
やはり彼はバレンタインを知っていると確信しつつ、あたしはお茶の支度をした。
本当はカートもあたしが押して来たかったのだが、あたしの熱狂的な信者になりつつある侍女達が許してくれなかったのだ。ただお茶の支度だけは譲らなかった。それと言うのも『紅茶』ではなく、今回は『珈琲』だったから。ヴィオがあたしに贈ってくれて大事に飲んでいるコーヒーセットを今回使う事にしたから。こんな特別な日に使わんで何とする!?
カップは勿論、あたしが贈ったペアのマグカップだ。
ヴィオは執務の手を完全に止めると、あたしに言った。
「折角の皇妃の好意だ。テラスでゆっくりしよう。」
と。
そうしてテラスにイスとテーブルをセッティングしてお茶会が始まったのだった。
時務官や侍従、侍女達を下がらせて(照)。
「…陛下…事務官達を下がらせて良かったのですか…?」
「…七都姫…誰もおらぬ…『ヴィオ』と呼んでくれ…」
「~~~////」
「…そなたからの大切で特別な贈り物なのだ…誰にも邪魔されたくない…」
「…やっぱり、バレンタインをご存知なのですね…」
「…勿論だ…実を言えば、今日は密かに期待していたのだが…
…実際に贈られると、実に感慨深いものだな…」
「……良かったです…ヴィオの期待を裏切らなくて……」
ただ、ヴィオはとても嬉しそうな表情なのだが、珈琲を飲みはしてもケーキは眺めるだけで一向に食べてくれないのだ。……ヴィオの気持ちは分からんでもないけど……やっぱり一生懸命作った物なので、実際に食べて頂きたい……。だから恥ずかしさを我慢して言った。
「…ヴィオ…どうか一口だけでもお召し上がり下さい…」
「…いや…どうにも食べるのが勿体なくてな…」
そうしてしばらく眺めていた後に真剣な表情をしておっしゃった。
「…“保存”の魔法をかけて、しばらく眺めていても良いか…?」
と。
あたしは一瞬耳を疑ったが、ヴィオの表情はあくまでも本気だ。
すると、あたしの顔もじわじわと赤くなってしまって。
照れ隠しに聞いてみた。
「…結局、いつ食べて下さるんですか…?」
と。
それに対するヴィオの答えがなかなか頂けなくて。遂には「どうしても食べなくてはダメか?」などと逆に聞かれてしまったのだった。
※ ※ ※
その晩、ヴィオがあたしを蕩けるように甘く優しく愛してくれたのは言うまでもないが(照)。
その後、ヴィオが私室や執務室にケーキを飾り、始終飽きもせずに眺めていたので王宮を中心に噂になり。あたしのお友達がそのケーキの由来をバラしてしまったので、『バレンタインデー』が神聖ブリュール皇国に、そしてセルヴァン大陸に広まっていったのは余談である。
その為に、朝からお城の厨房でコソコソしてた。
※ ※ ※
向こうにいた頃も異世界に来てからも、あたしにバレンタインデーなんか関係なかった。OL時代にはそれぞれの会社の慣習にならって義理チョコを配る他は専らコンビニで自分チョコを買うくらいだった。
異世界に来てからは、もっと関係ない。
そもそも『バレンタインデー』と言う風習がないのだから。
あんなものそもそもキリスト教の聖人に因んだお菓子業界の戦略だ。
あたしには全く関係がない。
が、しかし。
本当に愛する男性が出来てしまったからには別だ(照)。
相手は既に『旦那さま』になっている男性だが、彼の深い愛情を知った今こそ、愛と心からの感謝を込めて渡したいと思ったのだ。幸いこのセルヴァン大陸もカカオもどきの木があって、チョコもどきが流通してる。どちらの世界でも、チョコレートケーキは女の子に大人気だ。
けれども、男性に贈る習慣はない。
甘い物が苦手な男性もいるけど、幸いヴィオは食後のデザートなども普通に食べている。決して嫌いではあるまい。
何よりも。
あれだけあたしの世界の事情に精通しているヴィオの事だ。
バレンタインの事も知っているに違いない。
あたしからの贈り物を喜んでくれるに違いない(大照)。
そんな訳でエプロンを装着して励んでいるのは、チョコレートケーキ作りだ。この世界にはさすがに板チョコはないから、手作りチョコは諦めるしかなかったのだ。チョコを固める型もないしね(苦笑)。この時大いに役立ってくれたのは以前に聞いたケーキ作りのレシピメモだ。これで自信を持って張り切って作る事が出来る! え? 板チョコがないのに、どうやってチョコレートケーキを作るのかって? それはケーキレシピを教えてくれたカフェを経営している家のお友達に理由を説明して、チョコレートを譲ってもらったのだ。その際、彼女がはしゃいで大いに騒いでいたのはガン無視だ!(照)
でも何しろこの世界でケーキを作るのは二度目だ。
それも愛する旦那さまに贈るバレンタインプレゼントとしてなんて(激照)。
彼に『美味しい』と言ってもらいたくて頑張った。
照れと緊張のせいで最初は少し手が震えたけど、次第に夢中になっていった。
そうして何とか午後の執務の休憩時間のお茶の時間に間に合ったのだった。
※ ※ ※
「…陛下…お仕事お疲れ様です…少し休憩なさって下さい。」
あたしはクラリッサ達が張り切ってくれたドレス姿でヴィオの執務室を訪れた。
ヴィオは現れたあたしを眩しそうに見つめ。
侍女が押して来たカートの上に気付くと、蕩けそうな瞳であたしを見て呟いた。
「…チョコレートか…」
と。
やはり彼はバレンタインを知っていると確信しつつ、あたしはお茶の支度をした。
本当はカートもあたしが押して来たかったのだが、あたしの熱狂的な信者になりつつある侍女達が許してくれなかったのだ。ただお茶の支度だけは譲らなかった。それと言うのも『紅茶』ではなく、今回は『珈琲』だったから。ヴィオがあたしに贈ってくれて大事に飲んでいるコーヒーセットを今回使う事にしたから。こんな特別な日に使わんで何とする!?
カップは勿論、あたしが贈ったペアのマグカップだ。
ヴィオは執務の手を完全に止めると、あたしに言った。
「折角の皇妃の好意だ。テラスでゆっくりしよう。」
と。
そうしてテラスにイスとテーブルをセッティングしてお茶会が始まったのだった。
時務官や侍従、侍女達を下がらせて(照)。
「…陛下…事務官達を下がらせて良かったのですか…?」
「…七都姫…誰もおらぬ…『ヴィオ』と呼んでくれ…」
「~~~////」
「…そなたからの大切で特別な贈り物なのだ…誰にも邪魔されたくない…」
「…やっぱり、バレンタインをご存知なのですね…」
「…勿論だ…実を言えば、今日は密かに期待していたのだが…
…実際に贈られると、実に感慨深いものだな…」
「……良かったです…ヴィオの期待を裏切らなくて……」
ただ、ヴィオはとても嬉しそうな表情なのだが、珈琲を飲みはしてもケーキは眺めるだけで一向に食べてくれないのだ。……ヴィオの気持ちは分からんでもないけど……やっぱり一生懸命作った物なので、実際に食べて頂きたい……。だから恥ずかしさを我慢して言った。
「…ヴィオ…どうか一口だけでもお召し上がり下さい…」
「…いや…どうにも食べるのが勿体なくてな…」
そうしてしばらく眺めていた後に真剣な表情をしておっしゃった。
「…“保存”の魔法をかけて、しばらく眺めていても良いか…?」
と。
あたしは一瞬耳を疑ったが、ヴィオの表情はあくまでも本気だ。
すると、あたしの顔もじわじわと赤くなってしまって。
照れ隠しに聞いてみた。
「…結局、いつ食べて下さるんですか…?」
と。
それに対するヴィオの答えがなかなか頂けなくて。遂には「どうしても食べなくてはダメか?」などと逆に聞かれてしまったのだった。
※ ※ ※
その晩、ヴィオがあたしを蕩けるように甘く優しく愛してくれたのは言うまでもないが(照)。
その後、ヴィオが私室や執務室にケーキを飾り、始終飽きもせずに眺めていたので王宮を中心に噂になり。あたしのお友達がそのケーキの由来をバラしてしまったので、『バレンタインデー』が神聖ブリュール皇国に、そしてセルヴァン大陸に広まっていったのは余談である。
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