黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

思いの丈

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 式典を終えても王都の騒がしさは収まりそうもない、私が初めてここに来た時の亡国のような光景はもうこの国には無い。
 ここまでの復興を遂げたんだからこの騒ぎ様も少しは理解できる。
 そしてこのおめでたい空気にあてられたティナ達もワタルの私室で酒盛りを始めてあっという間にティナとリオが出来上がってる。
「うおっ――ごほっごほっ、無理矢理飲ますな。フィオ、これどうにかしろ」
「無理」
 酔ったリオが無理矢理飲ませようとしててワタルが助けを求めてくるけど今は機嫌が悪いから相手してあげない。

 せっかくのお祝いだったのに……あんな貴族が居たせいでこんなもやもやした気持ちにさせられた。
 ワタルを馬鹿にした――人を買って玩具にする下卑た存在だって貶めた。
 ワタルは私の特別なのに、アドラの汚い金持ち達と同列に扱われた。
 ワタルはもういいって言って気にしてる風じゃないけど私はどうしても許せない。

「何故小さいのが良いんだ! 大きい女の方が包み込んで癒してやれるんだぞ! ロリコンなんかやめて巨乳好きになれ!」
「そぉれしゅよ、わらしがいい子いい子してあげましゅからね~?」
 酒が回って顔を赤くしたリオとナハトがワタルの頭を抱こうと引っ張り合いをしてる。

「あははははははっ! 先輩大変だねぇ」
「だ、男性は大きいお胸がお好きだと秀麿さんが仰ってらしたのですが……ワタル様は身長だけでなく胸も小さい方がお好きなのですか?」
 クロエの質問で全員がワタルを注視する。
 私も無視してるふりをして聞き耳を立てる。
 小さいのが好きなろりこんなら、ここで一番慎ましい女は私、私がワタルの一番……ちょっと、気分良くなってきた。

 居心地悪そうに酒を飲んでいたワタルが大きな杯に並々と注いでそれを一気に呷って立ち上がった。
「俺はなぁっ――」
 言葉を一瞬詰まらせたワタルと目が合った。

「小さいのが好きなんじゃない――フィオが可愛くてしゃーないだけだ!」
 貴族の言葉を聞いた時とは別の意味で身体が沸騰しそうになる。
 普段から撫でてくれたり大事にしてくれるけどこんなにはっきり言われると……顔が熱くなって、酒が急速に回ったみたいに頭がくらくらしてきた。

「それをロリコンって言うんでしょ」
「やーい、先輩ロリコーン」
 紅月は呆れた目を向けて恋は囃し立てる。
 そしてリオ達は――少し寂しそう。
 リオの表情は気にかかるけど……ワタルがずっと見てくるから胸の奥までほわほわしてきた。

「でぇもぉ、大きなのも好きよねぇ?」
 ティナが後ろから飛び付いてワタルの頭を掻き抱いてぐいぐい大きいのを押し付けると私に向いていた視線は簡単にティナのに行ってしまう。
 酔いもあるのかすぐにだらしない表情になってるのを見て私は頬を膨らませる。
「お兄様は姉様のお胸がお好きなのですか?」
「…………秘密で」
 私が離れてる間に楽しげにワタルの膝に座ってるティアの存在が余計に頬を膨れさせる。
 私が普段してもらってるみたいに撫でられてる……ワタルは誰でもいいの?

「ほんっとロリコンね、やっぱりロリコン騎士で良かったんじゃないの?」
「しょうれすね、ロリコン騎士でよかったでしゅ」
 紅月の言葉に同調したリオに睨まれてワタルのこめかみがひくついた。
「わかった! そんなに言うならお前らは小さい相手に何にも反応しないな?」
 からかわれ過ぎて限界になったみたいでティアに縮めてもらった小さいワタルがみんなに甘えてる……。

 みんなは嬉しそうだけど……私はワタルは大きい方がいい。
 膝に乗ったり後ろから抱き締められると胸があったかくなる。
「う、うむ……小さいワタルも可愛いな……私もロリコンということか……」
「いやいやナハトさん、小さい男の子が好きな場合ショタコンだよ~」
「あぁんもうかぁわいい、もう結婚しましょ結婚! 騎士になったし丁度いいタイミングよ」
「俺は……」
 ティナに抱き上げられて黙り込んだワタルを見て全員に緊張が走った。
 前の時はしないって即答したのに……。

「俺はな……自分がごみ屑みたいな人間で生きてる価値なんて無いと思ってた」
 突然の言葉にみんな言葉を失ってワタルを見つめる。
「父親にもその祖父母にも裏切られて、そこから人が怖くなって引きこもってた……そんな俺を心配した母さんは心労で病気になって苦しみながら死んだ。俺が殺したんだ……なのに俺は涙一つ流さなかった。俺はそういう薄情で屑みたいな人間だ!」
 抱え込んでたものを絞り出すような告白に騒がしかった室内は静まり返る。
「女の子を見殺しにしたこともあるし、人を斬ったこともある……俺はみんなに好かれるような人間じゃない」
 だからワタルは時折卑屈になるの? だからあの時私の気持ちを拒絶したの?

「でも――でもなっ」
 ティナの腕から抜け出して部屋の中央でワタルが叫ぶ。 
「今日色んな人が俺を認めてくれて、褒めてくれて……だから――だから調子に乗って言うぞ!」
 言葉を詰まらせながらそれでも意を決したようにみんなを見回してワタルは言葉を紡ぐ。

「俺はみんなの事が大好きだ! 絶対に失いたくない、ずっと傍に居て欲しいし傍に居たい!」
 みんなが顔を綻ばせる、頬が赤いのはきっと酒のせいだけじゃないと思う。
「リオが俺を見つけてくれた。あの地獄みたいな世界で……俺はあそこで苦しみながら殺されるのが母さんを殺した罰だと思ってた。それでもリオは俺を助けてくれて命を繋いでくれた。あの時は本当にリオが慈愛に満ちた女神みたいに見えた」
「そ、そんなワタルったら……」
 頬を朱に染めたリオはもじもじして……可愛い。

「そしてフィオ、出会いは最悪だった。簡単に人を殺して本当に同じ人間かと疑うほどに強くて怖かった……でもな、あの時フィオが手伝ってくれたからリオを救えた。あれは俺にとって本当に嬉しいことで……その後また出会ったあとは何度も何度も助けてくれて……お前に会えて良かった。そしてお前を知るほどに可愛くて、甘えてくれるのも嬉しい」
 真っ直ぐにこっちを見て改めてそんなことを言うから私もリオみたいな反応をしてしまう。

「紅月、あの時お前がチャンスをくれた。絶望しかないと思ってた世界で俺を助けたくれた二人を助けるチャンスを……本っ当に感謝してる。罵倒とかきつい態度は辛いけど、それでも俺はお前も大切な仲間だと思ってる!」
「ちょ、な、何よいきなり……ま、まぁ……態度が悪いのは、ちょっと反省してる。悪いわね、でもあたしはこういう人間なのよ……で、でも、あたしもあんたは良いやつだと思ってるわよ、ロリコンだけど」
 話を振られるとは思ってなかったのか赤くなった顔を隠す為に背を向けて酒を呷ってる。

「ナハト――」
「おぉ、今度は私の番なのだな!」
「俺は卑屈だから……あんな無条件の好意を向けられたのは初めてでどうすればいいか分かんなくて戸惑って拒絶した。俺なんかが好かれる人間だとは思えなかったしな」
「何を言う、ワタルは私が認めた男だ。ワタルが人間だろうとこの男に身を捧げたいと思った心に偽りはないのだぞ」
「うん、だから嬉しい気持ちはどこかにあったんだ。ブレずにずっと好意を向けて伝えてくれる……こんな事は初めてでさナハトの好意は俺の自信の一つになってる、ありがとうな」
 ナハトは気持ちが疼いて抑えられなくなったのか飛び付いて抱き締めて撫で回す。

「ティナ、最初は調子の良い大人のお姉さんがからかってきてるだけだと思ってた。なのに俺が辛い時に寄り添ってくれて大丈夫だって言ってくれた、それからも何度もティナの行為に励まされた。スキンシップ過剰なのは照れるし困るところもあるけど……凄く嬉しいよ」
「あぁんもうかぁわいい! こんな事するからもう私絶対に放さないわよ!」
 ナハトに続いてティナまで抱き付いてエルフ二人がワタルをもみくちゃにしてる。

「次にクロ、ずっと籠の鳥で外に出たことがないのに諦めてるのを見て悔しかった。親や家族に理不尽に振り回されてそれでもどうにも出来ない、それがどうしても我慢できなかった。だから強引で馬鹿で危険なのにあんなことをした。クロには色んなものを、色んな景色を見せてやりたいって思ったんだ。落ち着いたらもっと簡単に世界を回れるようになる、そしたら世界を回ろう」
「ワタル様……わたくしはあの行為でどれ程救われたことか、私に普通に接してくれるのはシロナだけ、他には誰も手を差し伸べてはくださいませんでした。こうして色んな方と色んな経験をして語り合いお祝いをするこの幸福な日々は私の宝物です」
「そうですワタル様、今のクロエ様は毎日を笑顔で楽しまれていてあの頃の寂寞たる表情は欠片もありません。クロエ様を連れ出してくださったこと、私も感謝してます!」
「シロには本当に心配も心労もかけたよな……魔物の溢れる土地に連れてこられて怖いことばっかりだったと思う、でもクロにとってシロは本当に大切な存在だと思うから一緒に来てくれて助かったよ。なかなか黒雷の扱いが進展しない時も身の回りの世話をして支えてくれてちょこちょこ可愛い反応もしてくれてシロの存在は俺にとっても癒しだった」
「ひゃぅ……」
 ワタルの心からの笑顔にシロナは顔を真っ赤にして湯気を吹きそうな勢いで逆上せてる。

「最後にミシャ……お前にとって俺との関わりは不本意そのものだったと思う、本当にごめん」
「旦那様、今更そんな事謝らないで欲しいのじゃ、今の妾は旦那様で良かったと思ってるのじゃ」
「俺もミシャが傍に居てくれることは凄く嬉しい、もふもふした時の反応は可愛いし俺なんかに必死に尽くしてくれる。それにこの剣、これは俺を助けてくれた人たちにもらった大切なもので壊れた時は辛かった。厳密には直ったってのは違うんだろうけどあの人たちの遺志を継いで新しく生まれ変わらせてくれたのは本当に嬉しくて……この剣でミシャが誇ってくれるような働きをしていきたいって思うよ」
「旦那様……妾は既にもう旦那様が誇らしいのじゃ!」
 ミシャにしては珍しく自分からワタルの両手を取って握り締めてワタルの言葉を褒めてる。

 ここに居るみんなはワタルの事を分かってる、大切だと思ってる……どうでもいい人間の蔑みへのイライラは疾うに霧散してた。

「だから、だからな……俺はお前達を失いたくない、誰か一人欠けるのも嫌だ。こんなのおかしいし我が儘なのも分かってる……それでもずっと俺と一緒に居て欲しい、俺がお前達を守るから、幸せにして行けるように頑張るからずっと俺と居てくれ!」
 普通の結婚は一人だけ、それくらいは私にも分かる。でも、ワタルを中心に集まったみんなとの生活は私も楽しくてそれを失うのは耐え難いのは簡単に想像できて……だから――。

「私は、みんな一緒だと嬉しい」
「まぁ、ワタルだから仕方ないですね」
「私は元々そのつもりだったから断る理由は微塵も無いわよ?」
「ぬぅ……私は独占が良いのだが、はぁ……ワタルが望むなら私はそれを受け入れよう」
わたくしもです! こんな楽しい日々が続いて家族までいただけるなんて夢のようです。ね? シロナ」
「わ、わ、わ私もなんでしょうか!? クロエ様と同じ男性と結婚してしまうなんて……か、感激です」
「にゅ~……まぁ出会った時点でティナに言われておったし妾も皆と居るのは楽しい事なのじゃ。それに一応この国を拠点にするならケット・シーの風習もあまり影響しないと思うから……うむ、妾もそれで良いのじゃ!」
 普段のワタルなら多分今日みたいな事は言ってくれない。自分の過去とか辛いことを吐き出したりもしない、今みんなに言ったことも酔いの勢いかもしれない。

 それでも、ワタルの本心が含まれてるって感じたからワタルの言葉を喜んで受け入れた。
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