上 下
35 / 40
貴方の言う真実の愛のお相手は誰なのでしょうか。まさか私の妹ではありませんよね?

妹は見た

しおりを挟む
 
 私は本来の予定よりも夜会を早く退出したため、予定を前倒しにしその日の夜には実家の屋敷へ戻りました。

 しかし、実家に戻ったところで時間も遅かったためシレスの相手が誰なのか、それを確認する方法はなく、そのまま翌日に持ち越しとなりました。

 結局、あれは誰だったのかしら。シレスの発言があちらの実家も把握しているのであれば早い段階で、こちらへ向けて連絡が来ているはずなのですが。お父様のところには届いているのでしょうか。

 朝、いつもと同じ時間にベッドから起き上がり、部屋を出るための支度をしながらあれこれと思考を巡らせます。

 私の実家であるレフリア伯爵家が、シレスの実家であるイゲリス伯爵家に対する今後の対応を決めるためにも、相手がどこの貴族家出身なのかを知らなくてはならないのですが、見たことのない相手がどこの家の出なのかわからない限りそれを決めることは出来ません。

 ただし、私が知らない、という事はおそらく子爵かもしくは男爵家の出身の可能性が高いですね。
 伯爵家及び、我が家よりも爵位が上の辺境伯、侯爵、公爵家であれば貴族として知らないというのは致命的です。そのため、各貴族家で強制的に覚えされられる内容なので、その中にあの令嬢の情報がなかったとなれば自動的にそうなります。

 まずは、男爵家から調べればいいかしらね。特にここ最近に爵位を与えられたところを中心に調べれば、あの方が誰なのかはわかるでしょう。

 何処から調べるか、そう考えている時、不意に自室のドアがノックされました。

「お姉さま、少々いいでしょうか?」
「いいわよ」

 朝の早いこの時間にエレーナが来るなんて珍しいですね。昨日のこともあって少々後ろめたい気持ちがありますが、拒む理由もないので入室の許可をだします。

「おはようございます。お姉さま」
「ええ、おはよう。でも、この時間にエレーナが来るなんて何かあったのかしら?」

 エレーナの見た目は私の少し前の見た目によく似ているんですよね。ただ、瞳から感じられる意思の強さと声の張りから、私とは完全に別人だとよくわかります。私にはあのしっかりとした印象はありませんからね。

「昨日の夜会について話がありまして」
「昨日の?」

 何故、夜会に参加していないエレーナからその話が出て来るのか、理解できなかったために短く言葉を返してしまいました。

「はい。あのクソ野郎の相手のことです」
「え……え? く、くそ? そ……それってシレスのことかしら?」
「そうです! そのクソ野郎です!」

 エレーナからそのような言葉が出て来るとは思っていなかったので驚きましたが、先の話が気になったため止めることなくそのまま話を進めます。

「エレーナは昨日の夜会に出てはいなかったと思うのだけど、シレスの事で何か知っているのかしら」
「えぇ、ええ! あれの相手の事も存じています」
「え?」

 突然の言葉に呆けたものの、思わぬところではあるが情報が得られそうなことに少し安堵しました。
 
「どうしてその事をエレーナが知っているのかが気になるけど、話してくれない?」
「はい! といっても私も最初はたまたま偶然、そう偶然! あの2人が会っているのを見かけただけなのです。まあ、その後にしっかり調べましたけど」
「そ、そうなの」

 エレーナがどのような場面でその光景を見たのかはわかりませんが、婚約者が居る状況で会っていたとなれば、そこはあまり人目につかない所でしょうね。たまたまとか偶然を連続して使ったのには少し引っ掛かりますけど。

「あのゴミの相手はフマ男爵の令嬢ですね。一応私と同年なので調べるのは簡単でした。ただ、フマ男爵の家は少々黒い噂があるようですね」
「黒い噂?」
「洗脳術が使えるのでは、という不確かなものでした」

 洗脳術とは、伝承のみで伝えられている特殊な魔法の事。

 この国の貴族の大半は魔法が使えるのですが、基本的に属性魔法と呼ばれる何もない所から火や水、風を起こすものです。特殊な魔法であれば回復魔法と呼ばれる希少属性もありますが、洗脳術と呼ばれる魔法は正式な属性として存在していません。

「洗脳術……たしか、最近の物語によく出て来るようになった魔法よね? 昔からあるかもしれない、という伝承も在ったはずだけど」
「そうです。その洗脳術ですね」

 最近、貴族の令嬢の中で流行っている物語は、婚約者に囚われている好きな相手を救い出すもの。特に人気が高い内容は傲慢な姉を持つ妹が、姉の婚約者に恋して姉からその婚約者を救い出すという話。

 エレーナもこの手の物語が好きでいくつも書籍で持っています。私が最初にエレーナを疑ってしまったのはこれの影響もあるのですよね。

「……ん? あれ、不確かな物……でした?」
「はい。私も最初は空想の産物だと思っていたのですが、フマ男爵令嬢の周囲の状態を見ると、空想の産物、とは断言できないことがちらほらありました。特にフマ家が男爵の爵位を受け取ったあたりから、少々周囲で不自然な動きが確認できたのです」
「不自然な動き?」
「フマ家が男爵の爵位を授けられた経緯が変だったのです。普通、男爵の位は大きな功績やいくつもの功績を称えられて国から授かるのです。ですが、フマ家にはそのような功績はありませんでした。あっても精々、領地で褒賞を貰う程度ですね」

 私が住んでいる国は基本的に王政によって運営されています。そのため、新たに爵位を得るには、国に対しての大きな貢献が必要になるのですが、フマ家が上げたとされる功績は大したものではなかったようですね。

 エレーナから話を聞いた限り、どの観点から見ても国からの褒賞どころか、関わった領地から金一封が出る程度の爵位を授かるほどの功績でしかなかったと思うのですが、これで爵位を受けたとなれば確かに不自然な感じですね。

 こうなってくればおおよそ不正によるものか賄賂によるものでしょうけれど、元より平民だったフマ家が不正が出来るほどに貴族に繋がりがあるはずがないのですよね。

 その点を考えれば、どのように貴族との繋がりを得たのかを調べなければならないのだが、そこを調べたエレーナがあることに気付いたようで……

「どう見てもフマ家が繋がりを持てるはずのない高位の爵位を持つ貴族家が爵位の授与に関わっていたのです。しかも普段なら不正をしないような家も関わっていました。どう考えてもおかしな状況です」

 不正による爵位の授与はこの国では犯罪です。いえ、別の国でもそうでしょうけれど、少なくとも不正に関わった貴族家には重い罰を受けることになるは確実です。そのため、どの貴族家でも余程の事がない限り、いくら恩人や領地及び国に貢献した者が出たとしても、そうそう爵位の授与を国に嘆願することは無いのですよね。

「そのことについて、お父様には伝えたのですか?」
「昨晩、この情報を見つけた後すぐに伝えています。本当なら昨日の内にお姉さまにも伝えたかったのですが、お疲れだったようですので」
「そうなのね」

 とりあえず、レフリア伯爵家の当主にこの話が伝わっているなら、これ以上私が直接関わることは無いでしょう。
 それを理解したことで深く息を吐き、私は緊張してこわばっていた体から力を抜きました。

「お姉さまは私が守りますから、待っていてくださいね! それでは!」
「……え? それはどういう事です……か。って、あの子は行動に移すのが昔から早いわね」

 既に部屋から出て行ってしまったエレーナの事を想いながら小さく息をつきました。

「私の方が年は上なのですけど……ここまでされてしまうと姉としての立場がないわね。まあ、エレーナに何かあったら私が助けになれるようにしておかないといけないわね」

 そうして、朝の支度を終えて、朝食の場に移動することにしました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?

百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」 妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。 私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。 「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」 ぶりっ子の妹は、実はこんな女。 私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。 「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」 「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」 「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」 淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。 そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。 彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。 「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」 「えっ?」 で、惚れられてしまったのですが。 その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。 あー、ほら。言わんこっちゃない。

私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?

百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。 だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。 しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。 しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。 呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。 婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。 その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。 故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。 ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。 程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。 典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。 ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。 彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。

無実の罪で投獄されました。が、そこで王子に見初められました。

百谷シカ
恋愛
伯爵令嬢シエラだったのは今朝までの話。 継母アレハンドリナに無実の罪を着せられて、今は無力な囚人となった。 婚約関係にあるベナビデス伯爵家から、宝石を盗んだんですって。私。 そんなわけないのに、問答無用で婚約破棄されてしまうし。 「お父様、早く帰ってきて……」 母の死後、すっかり旅行という名の現実逃避に嵌って留守がちな父。 年頃の私には女親が必要だって言って再婚して、その結果がこれ。 「ん? ちょっとそこのお嬢さん、顔を見せなさい」 牢獄で檻の向こうから話しかけてきた相手。 それは王位継承者である第一王子エミリオ殿下だった。 「君が盗みを? そんなはずない。出て来なさい」 少し高圧的な、強面のエミリオ殿下。 だけど、そこから私への溺愛ライフが始まった……

処理中です...