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未練と先へ
着替え方がわからんのよ
しおりを挟むしかし、婆さまから服を受け取ったのだが、着方がよくわからない。そもそも今着ている服すら脱ぎ方がわからないんだよ。こんな服、今まで着たことなんてないし。
それに、服を脱いだり着たりする段階で結構体を動かさないといけないから、頭が取れる今の状況だと、出来たとしてもめちゃくちゃ大変な気がするんだよな。というか、慣れていないと1人じゃ無理だろ。
「申し訳ないんだが、着替えを手伝ってくれないか? 正直、脱ぎ方も着方もわからないんだ」
「えぇ。もとよりそのつもりでここにいますからね」
「そうか。助かる」
俺がそう言うと婆さまは少しだけ何かを思い出したかのようにふふっと小さく笑いを漏らした。
「どうしたんだ?」
「いえいえ。今のあなたの様子が、聖女さまがここに来たての頃にそっくりで、ちょっと可笑しくて」
聖女がここに来た頃って言うと年齢的に一桁くらいの時だよな。聖女の記憶だと6歳だったか、7歳だったか。小学校に上がるくらいだな。
「そんなに似ていたか」
「えぇ。態度や仕草がとてもよく似ています。言葉遣いに関してはお亡くなりになる前の方が似ていますが」
「そうなのか」
シェケルの態度からしてかなり似ているのはわかっていたが、聖女の世話をしていた婆さまにも言われるってことは本当に似ていたんだな。
「えぇ。それにあなたがどうしてそのお体の中に入れたのか、ちょっとだけわかりました」
ああなるほど。性格が似ているから体の中に入っても違和感がないとか、俺の魂? と聖女の体の相性がいいとかそんな感じなのかね。
「聖女さまが最初に来たときも、あまり慣れていない言葉遣いで今のあなたみたいにお着せものの着方を聞いてこられましたね。表情も今のあなたみたいに途方に暮れた感じで、私に手伝って欲しいと言ってこられました」
田舎出身らしいからなぁ。それにまだ小学生になりたてくらいの子供ならこういう服の着方を知らなくても無理はないだろうし。
服を脱ぐにあたり、最初に頭を外した時にびっくりした様子を見せていた婆さまだったが、すぐにその表情をそれまでと同じように取り繕っていた。
つらつらと昔の聖女のことを話しながら婆さまは俺の着ていた服を脱がしていく。
頭が無い分、少し脱がしやすそうにしているのがなんとも言えなかったが、上に来ていた服は完全に脱がされ、内に来ていた肌着になったところで婆さまが一旦手を止めた。
何事かと思ったがどうやら肌着の内側まで土や汚れが入り込んでしまっていたらしい。道理で着心地が悪くなっているわけだな。
「このまま着せ替えるのはダメですね。肌着まだ土が入ってしまっているのは想定していませんでした。肌着と体を拭くためのタオルを準備してきますので少々お待ちくださいませ」
婆さまはそういうとすぐに部屋の外に行ってしまった。
部屋の中に残されるのは別に構わないんだが、肌着状態で放置されているから結構気まずいんだよな。
一応今は俺の体ではあるんだが、元は聖女の体なわけだしなんか視界に入れてはいけない感じがするんだよ。今後のことを思うとそんなことを言ってはいられないんだが、まだ許容できる状態じゃないっていうかさ。
そんなことを考えながら婆さまが早く戻ってくるのを期待して、俺はじっとその場で立ち尽くしていた。
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