恋愛サティスファクション

いちむら

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きげんコンチェルト14

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そういえば春の甲子園。
ベスト8で敗退が決まった時。
平間君は試合終了直後のテレビの取材にも夏にまたここに帰ってくると泣かないで答えていた。
だけど合宿所に戻ってきて、トレーニングルームでひとり泣いてたのは悔しさが時間差で込み上げてきたからなのだろうか。
僕は平間君の泣く姿を見るのが辛くて、これまで以上に野球に専念してもらおうと誓った。

面倒くさいOBや父兄の人達の小言や助言は練習の妨げになるから僕が適当にあしらって。
県内の優勝候補と言われる他校の試合データの収集や分析も頑張った。
新入生のお父さんにパソコンに詳しい人がいて教えてくれたから。
それまでより詳しく使えるようになった。
スコアは全てエクセルで管理して選手の知りたがることには何でも即答できるようにデータベース化したんだ。

それもこれも平間君に笑っていて欲しかったから。
試合に勝った時の笑顔が一番素敵だったから。

「下心でスポーツしてなにが悪いの? 僕だって大外刈りがカッコイイって言われたの真に受けて、ずっと大外刈りの練習だけしてた時期あるし」

意外だ。いつだって女の子には興味ないですって顔してたのに。
彼女がいるっぽいのはこっそり分かってたけど。
それも壁やんから言われたわけじゃない、僕の予想なだけ。

「モテたいとか、カッコイイって言われたいとか。好きな人と同じ部活に入りたいとか。みんなやることだよ。さっくんがどれだけ野球に打ち込んだかと、始めたキッカケは別でしょ」
「でも、やめようとしてたとこを平間君に惹かれて続けたのは」
「それだって何が悪いの? やめたくなる時は誰にでもあって。やめるのをやめた理由は人それぞれだよ。それに、さっくんはサボってたわけじゃなくて選手のサポートを頑張ってたんでしょ?」
「……頑張ったと思う。嫌なこともあったし、やりたくないことも我慢してやったし。ぶっちゃけ、生徒じゃなくて先生がやってよって思うような仕事まで押し付けられてた」

部費や寄付の精算も僕の仕事だった。
高等部に進学してすぐの頃。過去の経理資料を読めるようになりたくて簿記3級の資格の勉強もした。
夏の大会前の忙しい6月の週末に試験を受けに行ったんだ。

部活を頑張ったことや定期考査の成績だけでなく、簿記3級を自学で取ったことも評価されて。
僕は元治大経済学部の指定校推薦をもらえたから。
練習と勉強の両立は大変だったけど無駄ではなかった。

「それなら自分をもっと誇っていいんだよ。好きだからって理由でそこまで頑張ったんなら、好きだって気持ちも頑張った結果も何にも恥ずかしいことじゃないんだ」

壁やんが力説してくれる。
聞いてると照れてしまうっていうか。
そこまで僕は凄いことしてない。
でも平間君が好きだったこと。野球が好きだったこと。
高校時代の自分の気持ちを否定しなくても良いのかな。

今すぐに全てを受け入れるのは難しい。
でも、もうあの日の自分を責めるのはやめるよ。
いつかはちゃんと褒めてあげられるようになれるかな。

「ありがとう。ちょっと気持ちが軽くなった」
「うん」
「壁やんとこういう話するの初めてじゃない?」
「冷静になると少し恥ずかしいよね」
「結構熱いこと言ってたよ。壁やん」
「やめて。忘れて」

忘れられないなー。
リアルな友達と恋バナしたの初めてだしー。
今度は壁やんの恋バナも聞かせてよ。
楽しい恋も悲しい恋もなんでも聞くよ。

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