恋愛サティスファクション

いちむら

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そうだ名古屋に行こう7

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そうやって連れてきてもらったビルの最上階。
エレベーターを降りたら小さい滝がありました。
滝から流れ落ちた水が通路脇の小川を通って、最後は花の飾ってある池に流れていく。
水を循環させてるんだろう。お洒落な空間演出。

池のそばには和風な引き戸。
そして小さく控えめなの表札『鮨 よし野』

これはとっても高級そうなお寿司屋さんではないですか。
木製の引き戸の奥にもうひとつガラスの引き戸が。すりガラスだから中が見えないな。

警備の人達はすりガラスの扉の外に待機するみたい。
でも安全の為? 扉の前に2人は立つんですね。
お店の中からでもガラス越しに見えるシルエット。

今日は僕達の貸切なのか。他のお客さんはいない。
職人さんの対面に座るカウンター席しかないお店。
座席数も少ないし完全予約制でもおかしくない。
高級そうではなく高級な店だ。
ドキドキするな。

お寿司屋さんは圭介さんが時々連れて行ってくれるけど。
姫ロリスタイルの僕は話せない。
圭介さんが僕の分までオーダーしてくれて。
僕は美味しく食べていただけ。
こういう高級店の作法とか、圭介さんから学んでいくべきだった。
だいたいお任せのコースをいただいていたから。
今日もそれをお願いしたらいいのかな?

カウンター席には。奥から順にお義父さん、鈴村さんが座って。
僕も続いて座る。そして僕の隣に壁やん。

鈴村さんがご飯ならこの子も一緒にって言うからお寿司ランチはこの4人で。
壁やんまで付き合わせてごめん。
でも美味しいお寿司が食べられるから許して。
扉の前で警備してる人よりはお寿司食べられる方がいいよね。

「好きな物どんどん頼むんだよー」
「オススメのものをお願いします」
「そんなつまらんこと言うな。好きなもん食え」

なんで? コースで食べさせて。
難しいこと聞かないで。

回らない、職人さんが目の前で握ってくれるお寿司。
カウンターの中には2人の職人さんが立っている。
親方さんとお弟子さんだろうか。
まっすぐ僕を見る瞳に緊張するんだけど。

お義父さんと鈴村さんは馴染みのお客さんって感じで。
お寿司じゃなくてお刺身と冷酒を用意されるお義父さんに、一言二言話してあとは勝手にいろいろ出てくる鈴村さん。
もう二人の好みは分かってるからそんなに細かく聞かなくても阿吽の呼吸で用意できるんだ。
僕も同じものをお願いします。

でも僕は初めましてなのでアレルギーや好き嫌いを聞かれて。
アレルギーも好き嫌いもないですとしか答えられない。

「ほれ、遠慮はいらんよー。トロ食べるか?」

緊張する僕を気遣ってお義父さんもあれこれ勧めてくれるけど。
いまはそんなに油っぽいものは食べたくないな。
ワガママが許されるなら。

「トロはちょっと。あっさりしたものが欲しいです」

今日は胃に優しい系でお願いしたい。
親方さんから夏バテですかって聞かれて。
ヤクザバテですねって答えたいけど、言えるわけないからそんなとこですって誤魔化した。

そしたら用意されたのが綺麗な硝子の器に盛られたイカソーメン。
でも半透明の身にかけられているのはお醤油じゃない。
柑橘の香りが食欲を誘う。
ポン酢みたいな謎の手の込んだソースがかかってる。

つるんとした喉越しですごく食べやすい。
イカの甘みと柑橘の酸味を噛み締めて。
美味しすぎてあっという間に食べてしまった。
美味しいイカを食べたら、胃が痛いのも落ち着いてきたみたい。元気が出てきた。

それに、さっきから壁やんがフードファイターみたいに食べてるのが見てて清々しくてさ。
ヤクザがどうとか気にしてるの馬鹿らしくなるっていうか。

わんこそばならぬ、わんこ寿司。
職人の手によって握られたお寿司があっという間に消えていく。
なにかの競技ですか?
でも壁やんは慌てて食べている訳じゃなくて、ちゃんとよく噛んで食べるから。
そんなに汚くは見えないんだよね。

あっ。そのウニ美味しそう。
僕も同じのをください。
あと鈴村さんが食べてた鮎の塩焼きも食べたいです。

旬のお魚。珍しい貝。産地や名前の由来など教えてもらいながら食べる。
僕、今日はいっぱい新しいことを学んでる。
お寿司を食べてたら本当に元気になっちゃった。
すごいな。寿司職人。医者要らず。

おなかもいっぱいになったし、そろそろおしまいかな。
でも最後にもう一度。

「最初に食べたイカ、もう一度食べたいっていいですか? すっごく美味しかったから。お願いします」

前にお寿司屋さんで圭介さんから教えてもらったことがある。
コースのお寿司の出てくる順番は職人さんが考え抜いたものだと。
「その世界観を味わって楽しめるといいね」って初めてのお店で緊張する僕に話してくれた。

それなのにメニューをループするのは行儀が悪いかなって思ったけど。
お義父さんからは食べたい物を遠慮するなって言われてるし。駄目なら諦めるから。

「気に入ってもらえて嬉しいです」

職人さんはそう微笑んでイカを用意してくれる。
わがままも言ってみるものだな。

「ほう。サクちゃんはイカが好きなのかー。儂も同じのを」
「イカが好きって言うのもあるけど、サッパリしてて甘酸っぱくて。食べたら分かります」

僕に食レポは求めないで。食べたら分かる。この美味しさ。
お義父さんもイカソーメン美味しいって。
食の好みが一緒なのいいね。

「お義父さん、ご馳走様でした。とっても美味しかったです」

お寿司のお礼は元気よくスマイル0円で。
僕はお財布すら持ってないので全力で奢ってもらいます。
我ながら面の皮あつくなったな。

「儂もサクちゃんとお寿司食べれて楽しかったぞー。腹も膨れたし買い物行くか」

ご飯を食べてバイバイだと思っていたのに。次は買い物?
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