恋愛サティスファクション

いちむら

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可視化ライブラリ

ウサギは檻に入れられて9

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鈴村さんが退室してしまったので、また泰葉さんと2人きりになった。
どんな話をするのか緊張してたら、机の上にはなにやらチラシが用意される。

「このアンケートをやってみませんか? 嫌なら強要はしませんが。答えてみて何もなかったら、安心して恋人さんとこれからも仲良く出来ますよ」
「やるだけなら良いですけど」

タイトルからして不穏な、デートDVチェックシート。
気乗りしないな。やらなくても良いって泰葉さんは言ってくれるけど。
鈴村さんはやらなきゃ帰してくれなそう。
僕達が問題なく仲良しだってこと分かってくれたら堂々と帰れるんだし。
さっさとアンケート埋めて帰ろ。

って思ったけどさっそく答えにくい質問が。

「この“勝手にスマホのデータを消去する”っていうのスマホのデータを移行しなかったとかでもあてはまります?」
「スマホのデータ移行?」
「最近、恋人が新しいiPhoneを契約してくれたんです。でも前に使ってたiPhoneと同期してデータ移行してないから消去したわけじゃないけど今はないって感じで」
「スマホの契約を恋人さんが主導で行ったのでしたら丸つけてください」

圭介さん主導っていうか、圭介さんから渡されたっていうか。とりあえず丸つけとこ。
次の質問は。
暴力とか暴言は僕たちに関係ないね。
圭介さんも玲司君もとっても紳士的だもん。
お金についても出してもらってばっかりで僕が出すことはない。
アルバイトを辞めさせるっていうのは仕事辞めたし丸つけとこ。

“他の異性と話さないように約束させる”
これは僕たちの場合、同性との会話って置き換えたらいいのかな?
ヤキモチ焼く人? って聞きたいんだよね。
ヤキモチ焼いて欲しかった頃が僕にもあったなあ。
まだ玲司君と付き合う前。ほんの数カ月前のことなのに、ずっと遠い昔のことみたい。

「迷った質問は飛ばしちゃってください。そんなに厳密なものでもありませんよ。気軽にで大丈夫です」

思い出にひたってたら泰葉さんからアドバイス。
手が止まっちゃったから心配したのかな。
これ悩んだりするような質問でもないしね。

うーん。ヤキモチ妬くかどうか。
鈴村さんや成瀬さんと話してるから僕たちには当てはまらない?
女装のときは誰とも話さないから当てはまる?
迷ったときは丸つけとけばいっか。

さて、気軽に答えたら良いって言うけど。
最後の方の質問、SEXに関することばっかりなんですけど。
こんなん答えられるか!

嫌がってるのに触るとか、写真や動画を撮りたがるとか。
体力の限界を超えてSEXするのも駄目っぽい。
ポルノを無理やり見せるって、前にエロサイトのリンク送ってきたのアウトじゃん。
主に玲司君に当てはまる項目が。
玲司君のイタズラさえなければ何も当てはまらないってとこにチェックして終われるのに!
玲司君のバカっ。
今までで一番チェックされる項目がある。

「無理に答えなくても大丈夫ですからね」

重ね重ね気を使ってくれる泰葉さん。まじ女神。

「それなら空白のままですいません。でも、ちゃんと駄目なことなんだって伝えます。こういうチェックシートで確認されるんだよって言います」
「恋人同士でチェックしあうのはとても良いことです。ちゃんと駄目なことは駄目って伝えあえる関係は素敵ですよ」
「はいっ。僕はNOが言える日本人になろうと思います」

その意気ですって泰葉さんが応援してくれる。
アンケート用紙は泰葉さんが回収。これはNPOで保管するんだって。
嫌なら廃棄も出来るらしいけど、匿名のアンケートだし僕は気にしないよ。

「このチェックシートだけじゃなくて、先程のお話を聞いた様子を合わせて気になるのは束縛が強めな印象を受けるとこですかね」

束縛かあ。
たしかに息苦しさに耐えきれなくて飛び出したのは否めない。
きっかけは隠しカメラだけど、その前から気付かないうちに限界を感じていたんだろう。

「これに関しては今すぐどうにかしないといけないって程ではなくて、まずは2人で話し合ってみるのをお勧めします」

2人っていうか3人での話し合いですね。
わざわざ言わないけど。説明めんどくさいし。

「その時は家で2人きりよりファミレスみたいに外で話すのがいいですよ。誰か同席してもらった方が話しやすいならご友人に頼んだり」
「それなら鈴村さんにお願いします。鈴村さんなら駄目なことに“メッ”てしてくれるんで。僕のことも叱ってくれるし、恋人も悪いことしてたら一緒に叱ってもらいます」

鈴村さんは頼りになるから安心だって泰葉さんは笑った。
良かった。やっと笑ってくれた。
最初からずっと笑顔だったけど、僕のことを気にかけるビジネススマイルだったから。
人に心配かけるより、笑ってもらえた方が僕は嬉しい。

最後にもう一度、嫌なものは嫌って言うぞって意気込みを伝えて。
僕は鈴村さんと帰れることになった。

お土産に複数のパンフレット、泰葉さんの名刺にNPOの相談員さんといつでも相談できるLINEの二次元コードがプリントされたカードまで。
あれこれ詰め合わせた封筒をもらっちゃった。
お別れは事務所の入口でしっかりご挨拶。

「今日は本当に助かりました。ご飯もご馳走様でした。いろんな話できて良かったです。ありがとうございました」
「お話聞かせてくれて、こちらこそありがとうございました。お役に立てたなら私も嬉しいです。またいつでも会いに来てくださいね。LINEやインスタでメッセージくれるのも歓迎です」 
「はいっ。仲直りしたら絶対報告します」

報告お待ちしてますって手を振る泰葉さんに手を振り返して。
さあ、家に帰ろう。
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