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そうだ名古屋に行こう1
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僕は家に帰りたいんだけど、鈴村さんは僕が家に帰るのありえないって感じだった。
それでも他に頼れる人がいないので、ついていくしかない。
夜も更けて人通りが少なくなった大久保通りをすたすたと歩いていく鈴村さんの背中を追いかける。
「お迎えが来たよ」
前を歩く鈴村さんが指さす先にあるのはフルスモークの黒いセダン。
見るからに怪しい。
でも鈴村さんは後部座席のドアを迷いなく開けて乗り込むから、僕もつられて乗っちゃった。
運転席にいるのは僕の知らない男の人。
成瀬さんみたいに顔見知りなら良かったのに。
でも鈴村さんはよく知ってる相手みたい。
「いつもありがとう。今回は可愛い子が同伴だ。よろしく頼むよ」
可愛い子と紹介されたので、見ず知らずのおじさんにペコリと頭を軽く下げておく。
どういう意味の可愛いなのか気になるところだ。
「彼は夏目さん。何かあったら彼を頼るのだよ」
鈴村さんに紹介された運転手の夏目さんはハンドルに両手を置いて真っ直ぐ前を見たままだけど。
頼るようなことが今後起こるのか?
夏目さんは映画とかに出てくるようなヤクザっぽくない。普通のおじさん。
けど頼れって言ってるしヤクザさんなのかな。
怖そうでも優しそうでもない。癖がないから記憶に残らない。
「ただの会計士に何をさせるつもりです? 子守りは勘弁してください」
「お金に関する相談事に乗ってくれるだけでも嬉しいのだけど。サクラは花見会の稼ぎも塩漬けにしたままなの勿体ないよね」
花見会の稼ぎって、あの違法賭博のやつ?
あれは受け取れないって返したつもりだったんだけど。
僕が圭介さんのお兄さんに押し倒されて有耶無耶になっていた紙袋の日本銀行券は結局僕のものなのか。
そのまま時効が過ぎるまで塩漬けしといてください。
時効がきて安全になったら、どこかに寄付します。
「動かすのも寝かせるのも面倒な数字を気軽に押し付けるのやめてくれっていつも言ってるじゃないですか。彼には専属の会計担当をつけてください」
僕に専属スタッフはいらないよ。
そんなことになったら、また賭博の相手をしろって言われそうだし。
「つれないなぁ。サクラには恩を売っておいて損はないよ」
「若い頃に欲かいてから。綺麗な顔した奴は警戒するよう学んだんです」
鈴村さんは昔、夏目さんに酷いことしたの?
「サクラが誤解するような物言いはしないでくれ。おしゃべりな舌は抜いてしまおうか」
鈴村さんの本気なのか冗談なのか分からない脅し文句。
夏目さんはそれを聞いて何も言わなくなった。
それまでの会話が急になくなるのは怖いんだけど。
そもそも僕は鈴村さんのことを詳しくは知らない。
花見会のあとに会ってもいない。
家を飛び出して最初に会えた知り合いだから、つい頼ってしまったけど。
大丈夫なのかな。
鈴村さんの彼氏ってヤクザなんでしょ?
夏目さんの運転でやってきたのは品川駅真ん前のホテル。
近頃、贅沢を覚えてきた僕でもちょっとたじろぐ天上のスイートルーム。
モダンな空間に圧倒されてる間に鈴村さんはお風呂に行っちゃった。
小腹が空いたらルームサービスを頼めと言うけど。
ついでに手ぶらで来ちゃった僕の下着とかも頼めって。
ルームサービスで下着が買えるの初めて知ったよ。
高級ホテルは至れり尽くせりだな。
リビングルームのテーブルに可愛く飾られていたウェルカムサービスのドリンクやお菓子を軽くつまんで。
今夜はもうこれ以上は食べる気になれない。
玲司君が一緒だったらシーフードグラタンやタンドリチキンサンド頼んでたかもしれないけど。
ひとりで食べても楽しくないし。
それにこの可愛い空間は姫ロリで楽しみたかったな。
鈴村さんが入る前にチラッと覗いた大理石のお風呂の大開口の窓から望む夜景も。
圭介さんと一緒だったらもっと楽しめたと思う。
バラの香りの泡風呂にして遊びたい。
自分から家を飛び出しておいて、ふたりのことをこんなに恋しく思うなんて。
謝ったら許してくれるかな。
心配かけてごめんなさいって。
しょんぼりしてたらお風呂上がりの鈴村さんに明日は早いから早くシャワー浴びて寝ろって叱られて。
シャワーを浴びて濡れた髪を乾かすのもそこそこに消灯時間はとっくに過ぎていると急かされてベッドに潜り込めば。
ラベンダーのルームフレグランスの香りとふわふわのバスローブに滑らかなシーツの肌触り。あっという間に夢の中。
久しぶりに沢山歩いて人と話したからかな。
翌朝は寝坊してしまって美味しそうな朝食の香りで目が覚めた。
「おはよう。よく眠れたようでなによりだ。温かいうちにお食べ」
寝ぼけ眼で口に入れていく。ふわふわのオムレツ、サクサクのクロワッサン、搾りたてのオレンジジュース。
しっかり残さず食べて。ご馳走様でした
僕、家出してきたはずなのに。
何故だかいつもより豪華な朝だぞ?
食後の歯磨き。洗顔。化粧水。
なにこの保湿力。アメニティのクオリティ高!
どこのメーカーだろう。
美容液のボトルのロゴ見てたら。鈴村さんが気に入ったのなら同じものを手配してくれるって言うので遠慮なくお願いします。
「さあ。出掛けよう。クローゼットに服が掛けてあるから着替えなさい」
えっ? 出掛けるってどこに?
しかも用意されてた服は以前似合わないと酷評されたトラッドスタイル。
汚れたジャージよりはマシだけど。
ベージュのチノパンに白いリネンのボタンダウンシャツ。
足元はカジュアルダウンしたブラックレザーのスニーカー。
あれ? そんなに悪くないんじゃない?
「君はブリティッシュトラッドよりアメリカントラッドのが似合うからね。圭君はこれも駄目って言うかもしれないが。少しぐらいのお洒落心を持ったって許されると思うよ」
僕は英国式ではなく米国式なら似合うってことですね。
最近のお出かけはウィメンズの服ばっかりだったからメンズってだけで嬉しい。
鼻歌交じりに鏡の前で髪の毛も整えて。
鈴村さんは既に身支度を整えて朝のワイドショーを見て待っててくれる。
鈴村さんの今日のコーデは濃紫の長袖カットソーに淡いグレーのジャージ素材のボトムス。
オーバーサイズでラフなスタイル。
美人は何を着ても似合うんだなぁ。
テレビはちょうど占いコーナー。
「今日の獅子座さんは思いがけないところで懐かしい人に出会えるかも」
懐かしい人? 会えるなら圭介さんと玲司君に会いたいです。すでに恋しい。
鈴村さんの許可が下りなくて、電話もさせてもらえないのがつらい。
鈴村さんのご機嫌取りをして早く許してもらおう。
「お待たせしました。それで今日はどこに行くんです?」
お出かけって言ってたし家に帰るためだけにこんなに良い服を用意されるのも変だから遊びに行くんだろう。
品川から行ける観光ってどこ?
どこにでも行けるけど、まあ近場だよね。
それでも他に頼れる人がいないので、ついていくしかない。
夜も更けて人通りが少なくなった大久保通りをすたすたと歩いていく鈴村さんの背中を追いかける。
「お迎えが来たよ」
前を歩く鈴村さんが指さす先にあるのはフルスモークの黒いセダン。
見るからに怪しい。
でも鈴村さんは後部座席のドアを迷いなく開けて乗り込むから、僕もつられて乗っちゃった。
運転席にいるのは僕の知らない男の人。
成瀬さんみたいに顔見知りなら良かったのに。
でも鈴村さんはよく知ってる相手みたい。
「いつもありがとう。今回は可愛い子が同伴だ。よろしく頼むよ」
可愛い子と紹介されたので、見ず知らずのおじさんにペコリと頭を軽く下げておく。
どういう意味の可愛いなのか気になるところだ。
「彼は夏目さん。何かあったら彼を頼るのだよ」
鈴村さんに紹介された運転手の夏目さんはハンドルに両手を置いて真っ直ぐ前を見たままだけど。
頼るようなことが今後起こるのか?
夏目さんは映画とかに出てくるようなヤクザっぽくない。普通のおじさん。
けど頼れって言ってるしヤクザさんなのかな。
怖そうでも優しそうでもない。癖がないから記憶に残らない。
「ただの会計士に何をさせるつもりです? 子守りは勘弁してください」
「お金に関する相談事に乗ってくれるだけでも嬉しいのだけど。サクラは花見会の稼ぎも塩漬けにしたままなの勿体ないよね」
花見会の稼ぎって、あの違法賭博のやつ?
あれは受け取れないって返したつもりだったんだけど。
僕が圭介さんのお兄さんに押し倒されて有耶無耶になっていた紙袋の日本銀行券は結局僕のものなのか。
そのまま時効が過ぎるまで塩漬けしといてください。
時効がきて安全になったら、どこかに寄付します。
「動かすのも寝かせるのも面倒な数字を気軽に押し付けるのやめてくれっていつも言ってるじゃないですか。彼には専属の会計担当をつけてください」
僕に専属スタッフはいらないよ。
そんなことになったら、また賭博の相手をしろって言われそうだし。
「つれないなぁ。サクラには恩を売っておいて損はないよ」
「若い頃に欲かいてから。綺麗な顔した奴は警戒するよう学んだんです」
鈴村さんは昔、夏目さんに酷いことしたの?
「サクラが誤解するような物言いはしないでくれ。おしゃべりな舌は抜いてしまおうか」
鈴村さんの本気なのか冗談なのか分からない脅し文句。
夏目さんはそれを聞いて何も言わなくなった。
それまでの会話が急になくなるのは怖いんだけど。
そもそも僕は鈴村さんのことを詳しくは知らない。
花見会のあとに会ってもいない。
家を飛び出して最初に会えた知り合いだから、つい頼ってしまったけど。
大丈夫なのかな。
鈴村さんの彼氏ってヤクザなんでしょ?
夏目さんの運転でやってきたのは品川駅真ん前のホテル。
近頃、贅沢を覚えてきた僕でもちょっとたじろぐ天上のスイートルーム。
モダンな空間に圧倒されてる間に鈴村さんはお風呂に行っちゃった。
小腹が空いたらルームサービスを頼めと言うけど。
ついでに手ぶらで来ちゃった僕の下着とかも頼めって。
ルームサービスで下着が買えるの初めて知ったよ。
高級ホテルは至れり尽くせりだな。
リビングルームのテーブルに可愛く飾られていたウェルカムサービスのドリンクやお菓子を軽くつまんで。
今夜はもうこれ以上は食べる気になれない。
玲司君が一緒だったらシーフードグラタンやタンドリチキンサンド頼んでたかもしれないけど。
ひとりで食べても楽しくないし。
それにこの可愛い空間は姫ロリで楽しみたかったな。
鈴村さんが入る前にチラッと覗いた大理石のお風呂の大開口の窓から望む夜景も。
圭介さんと一緒だったらもっと楽しめたと思う。
バラの香りの泡風呂にして遊びたい。
自分から家を飛び出しておいて、ふたりのことをこんなに恋しく思うなんて。
謝ったら許してくれるかな。
心配かけてごめんなさいって。
しょんぼりしてたらお風呂上がりの鈴村さんに明日は早いから早くシャワー浴びて寝ろって叱られて。
シャワーを浴びて濡れた髪を乾かすのもそこそこに消灯時間はとっくに過ぎていると急かされてベッドに潜り込めば。
ラベンダーのルームフレグランスの香りとふわふわのバスローブに滑らかなシーツの肌触り。あっという間に夢の中。
久しぶりに沢山歩いて人と話したからかな。
翌朝は寝坊してしまって美味しそうな朝食の香りで目が覚めた。
「おはよう。よく眠れたようでなによりだ。温かいうちにお食べ」
寝ぼけ眼で口に入れていく。ふわふわのオムレツ、サクサクのクロワッサン、搾りたてのオレンジジュース。
しっかり残さず食べて。ご馳走様でした
僕、家出してきたはずなのに。
何故だかいつもより豪華な朝だぞ?
食後の歯磨き。洗顔。化粧水。
なにこの保湿力。アメニティのクオリティ高!
どこのメーカーだろう。
美容液のボトルのロゴ見てたら。鈴村さんが気に入ったのなら同じものを手配してくれるって言うので遠慮なくお願いします。
「さあ。出掛けよう。クローゼットに服が掛けてあるから着替えなさい」
えっ? 出掛けるってどこに?
しかも用意されてた服は以前似合わないと酷評されたトラッドスタイル。
汚れたジャージよりはマシだけど。
ベージュのチノパンに白いリネンのボタンダウンシャツ。
足元はカジュアルダウンしたブラックレザーのスニーカー。
あれ? そんなに悪くないんじゃない?
「君はブリティッシュトラッドよりアメリカントラッドのが似合うからね。圭君はこれも駄目って言うかもしれないが。少しぐらいのお洒落心を持ったって許されると思うよ」
僕は英国式ではなく米国式なら似合うってことですね。
最近のお出かけはウィメンズの服ばっかりだったからメンズってだけで嬉しい。
鼻歌交じりに鏡の前で髪の毛も整えて。
鈴村さんは既に身支度を整えて朝のワイドショーを見て待っててくれる。
鈴村さんの今日のコーデは濃紫の長袖カットソーに淡いグレーのジャージ素材のボトムス。
オーバーサイズでラフなスタイル。
美人は何を着ても似合うんだなぁ。
テレビはちょうど占いコーナー。
「今日の獅子座さんは思いがけないところで懐かしい人に出会えるかも」
懐かしい人? 会えるなら圭介さんと玲司君に会いたいです。すでに恋しい。
鈴村さんの許可が下りなくて、電話もさせてもらえないのがつらい。
鈴村さんのご機嫌取りをして早く許してもらおう。
「お待たせしました。それで今日はどこに行くんです?」
お出かけって言ってたし家に帰るためだけにこんなに良い服を用意されるのも変だから遊びに行くんだろう。
品川から行ける観光ってどこ?
どこにでも行けるけど、まあ近場だよね。
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