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可視化ライブラリ
ウサギは檻に入れられて8
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もう1人の恋愛マスターな相談員さんは今は事務所に居ないボランティアさんなので。
電話でお話をすることになりました。
お手間をおかけして本当にすみません。
ボランティアかあ。
僕も暇だしなにか人の役に立つことを始めてみようかな。
なんて考えながら個室待機中です。
スマホのスピーカーでお話できるように泰葉さんが準備してくれてるんだけど遅いな。
ボランティアさんが忙しいなら僕はもう大丈夫ですよ?
って思ってたら部屋のドアがノックされた。
ここは泰葉さんの事務所なんだし入室はご自由にどうぞ。
「お待たせしました。もう通話は繋がってて。彼はボランティアの鈴村さんっていう方なんですけど」
「こんばんは。鈴村です。はじめまして」
泰葉さんの持ってきたスマホから聞こえてきたのは、とっても聞き覚えのある声。
僕の知り合いのなかでボランティアとかしなさそうランキングがあったらトップ3には確実に入りそうな人の声。
いや、まさか。鈴村って名前ならよくある名前だし。
声だってスマホのスピーカーを通せば似たような感じに聞こえるかもだし。
「せっかくこうして話をすることになったのだから、私は君と仲良くなりたい。名前、ニックネームでも良いよ。どんなふうに呼んだらいいか教えてくれるかい?」
ニックネームはサクラです。って言えるか!
「いきなり電話で知らない人と話すのはハードル高かったですね。無理させちゃってごめんなさい」
鈴村さんからの問いかけに黙ったままでいたら泰葉さんが心配そうに謝ってきた。
違います。泰葉さんは何も悪くないです!
「無理とかじゃなくて、知り合いにすごく声が似てて。でも、その人はボランティアとかしなさそうだから。多分、人違いです」
「奇遇だね。私も君によく似た声の青年を知っているよ」
ひいっ。気のせいですよ。他人の空似です。
でも怖いから、ちょっとだけ確認させて。
「もしかして、日本酒はぬる燗がお好きでしたりしますでしょうか?」
「うん。私は猫舌でね。燗をするときはぬるめが多いよ」
猫舌! いや、まだ確証はできない。
ぬる燗が好きな鈴村さんは日本中を探せば他にいるかもしれない。
「私からも1ついいかな?」
「はいっ」
答えれることなら答えますよ。怖いけどね!
「サクラと呼んでもいいかい? やはり顔が見えないと話しづらくてね。せめて呼び名が欲しいのだよ」
やっぱりボランティアの鈴村さんはあの鈴村さんなのか!?
さっきボランティアしなさそうとか言っちゃったよ。
これはなんて答えたらいいんだ?
サクラって呼ばれてるけど返事したらいいの?
通話の前に泰葉さんから僕の名前を聞いていたのだろうか。
正解が分からなくて僕が対応に迷っているあいだに鈴村さんは答えを出してしまった。
「泰葉さん、やはり彼は私の友人のようだ。私はすでに彼の恋人から今回のトラブルの理由も聞いている。これではフェアに話を聞いてあげることは難しいよ」
「最初に服装を確認された時点でもしかしてとは思ってたけど、まさか本当にお知り合いだったなんて驚きです」
「supremeのジャージにNIKEのエアフォースを履いている、佐倉唯と名乗る男性。そんな家出青年が都内に2人も3人もいるわけなかったね」
服装までチェックされてたの? 知らなかった。
僕だって驚きですよ。世間って狭いですね。
「という訳で、泰葉さんすまないが一度通話を切らせてもらうよ」
そう言って鈴村さんが通話を切ろうとするから慌てて止める。見捨てないでー。
「ちょっと待って。切らないで。僕は家に帰りたくて。圭介さんの連絡先を知ってますよね。それ教えてください。お願いします」
「帰りたい? あの家にかい?」
「だって、あそこが僕の家だし」
「帰る家がないなら今いる場所でシェルターでも紹介してもらえ。君のような盲目のおバカさんが頭を冷やすのにうってつけだ」
「そんなことを言わないでくださいよ。じゃあせめてお金を貸してください」
「簡単に金を借りようとするな」
個室のドアがいきなり開いて、スマホ片手の鈴村さんが僕の前に仁王立ちになった。
美人の怒り顔は迫力があって怖いです!
「金で解決する問題なのか? 借りた金で何をするつもりだ?ビジネスホテルにでも泊まるか?金が尽きたらどうする? また借りる? 問題の先送りをするための金を私は貸さんぞ」
ご最もです。正論ぶつけてこないで。痛いっ。
反論の余地を残した言葉のキャッチボールを希望します。
「いきなり通話を切るって言うから慌てただけです。先送りになんてしません」
言い訳させてー。
「通話を切ったのは事務所の前に着いたからだ。会って話せば良いのだから機械に頼る必要はないだろう」
そうだったんですね。納得です。
「そもそも、私に金を借りるなら新大久保まで歩いてこなくても会社まで来てくれたら良かったのだ」
「会社の場所を知りませんし」
「タクシーひろって社名を言えばナビでなんとでもなる。あとは受付に私の名前を言えばタクシー代も飯代もなんとかしてやれた。なぜしない。このように迂遠な方法を取りおって」
「ごめんなさい」
鈴村さんめっちゃ怒ってる。
どうしよう。謝っても許してもらえる雰囲気じゃない。
般若のように僕を見下ろす鈴村さんを前にあたふたしても何も解決しないのに。
「落ち着いて、鈴さん。それに佐倉さんも。鈴さんは怒ってように見えるけど、自分が頼ってもらえなかったって拗ねてるんですよ」
「そんな事ないっ」
泰葉さんの指摘を鈴村さんは全力否定。
「どう対応したら最適だったかの答え合わせは今必要ありません。過去よりも未来のことを話しましょう。私は最低でもデートDVについての話はしておきたいなって思ってます。そのあと鈴さんを頼るなり、私達を頼るなり好きにしてもらえたら」
「私が引き取る。これ以上身内の不始末で迷惑をかけるわけにはいかない」
「まあまあ。迷惑をかけてもらうのが私達の仕事なので」
デートDVについての話はいりますか?
僕は暴力なんて振るわれていないし。
盗撮されていただけだし。
あれだって圭介さんの趣味でしょ?
「泰葉さん、サクラも。一方的に怒ってしまって申し訳なかった。私は一度気持ちを落ち着けてくる」
泰葉さんに宥められて鈴村さんの般若モードが解除されてる。
お話しただけなのに泰葉さんはすごい。
鈴村さんは事務所の受付横にあるベンチで僕のことを待っていてくれるみたい。
僕を置いてきぼりにしない鈴村さんはなんだかんだ優しい人だ。
電話でお話をすることになりました。
お手間をおかけして本当にすみません。
ボランティアかあ。
僕も暇だしなにか人の役に立つことを始めてみようかな。
なんて考えながら個室待機中です。
スマホのスピーカーでお話できるように泰葉さんが準備してくれてるんだけど遅いな。
ボランティアさんが忙しいなら僕はもう大丈夫ですよ?
って思ってたら部屋のドアがノックされた。
ここは泰葉さんの事務所なんだし入室はご自由にどうぞ。
「お待たせしました。もう通話は繋がってて。彼はボランティアの鈴村さんっていう方なんですけど」
「こんばんは。鈴村です。はじめまして」
泰葉さんの持ってきたスマホから聞こえてきたのは、とっても聞き覚えのある声。
僕の知り合いのなかでボランティアとかしなさそうランキングがあったらトップ3には確実に入りそうな人の声。
いや、まさか。鈴村って名前ならよくある名前だし。
声だってスマホのスピーカーを通せば似たような感じに聞こえるかもだし。
「せっかくこうして話をすることになったのだから、私は君と仲良くなりたい。名前、ニックネームでも良いよ。どんなふうに呼んだらいいか教えてくれるかい?」
ニックネームはサクラです。って言えるか!
「いきなり電話で知らない人と話すのはハードル高かったですね。無理させちゃってごめんなさい」
鈴村さんからの問いかけに黙ったままでいたら泰葉さんが心配そうに謝ってきた。
違います。泰葉さんは何も悪くないです!
「無理とかじゃなくて、知り合いにすごく声が似てて。でも、その人はボランティアとかしなさそうだから。多分、人違いです」
「奇遇だね。私も君によく似た声の青年を知っているよ」
ひいっ。気のせいですよ。他人の空似です。
でも怖いから、ちょっとだけ確認させて。
「もしかして、日本酒はぬる燗がお好きでしたりしますでしょうか?」
「うん。私は猫舌でね。燗をするときはぬるめが多いよ」
猫舌! いや、まだ確証はできない。
ぬる燗が好きな鈴村さんは日本中を探せば他にいるかもしれない。
「私からも1ついいかな?」
「はいっ」
答えれることなら答えますよ。怖いけどね!
「サクラと呼んでもいいかい? やはり顔が見えないと話しづらくてね。せめて呼び名が欲しいのだよ」
やっぱりボランティアの鈴村さんはあの鈴村さんなのか!?
さっきボランティアしなさそうとか言っちゃったよ。
これはなんて答えたらいいんだ?
サクラって呼ばれてるけど返事したらいいの?
通話の前に泰葉さんから僕の名前を聞いていたのだろうか。
正解が分からなくて僕が対応に迷っているあいだに鈴村さんは答えを出してしまった。
「泰葉さん、やはり彼は私の友人のようだ。私はすでに彼の恋人から今回のトラブルの理由も聞いている。これではフェアに話を聞いてあげることは難しいよ」
「最初に服装を確認された時点でもしかしてとは思ってたけど、まさか本当にお知り合いだったなんて驚きです」
「supremeのジャージにNIKEのエアフォースを履いている、佐倉唯と名乗る男性。そんな家出青年が都内に2人も3人もいるわけなかったね」
服装までチェックされてたの? 知らなかった。
僕だって驚きですよ。世間って狭いですね。
「という訳で、泰葉さんすまないが一度通話を切らせてもらうよ」
そう言って鈴村さんが通話を切ろうとするから慌てて止める。見捨てないでー。
「ちょっと待って。切らないで。僕は家に帰りたくて。圭介さんの連絡先を知ってますよね。それ教えてください。お願いします」
「帰りたい? あの家にかい?」
「だって、あそこが僕の家だし」
「帰る家がないなら今いる場所でシェルターでも紹介してもらえ。君のような盲目のおバカさんが頭を冷やすのにうってつけだ」
「そんなことを言わないでくださいよ。じゃあせめてお金を貸してください」
「簡単に金を借りようとするな」
個室のドアがいきなり開いて、スマホ片手の鈴村さんが僕の前に仁王立ちになった。
美人の怒り顔は迫力があって怖いです!
「金で解決する問題なのか? 借りた金で何をするつもりだ?ビジネスホテルにでも泊まるか?金が尽きたらどうする? また借りる? 問題の先送りをするための金を私は貸さんぞ」
ご最もです。正論ぶつけてこないで。痛いっ。
反論の余地を残した言葉のキャッチボールを希望します。
「いきなり通話を切るって言うから慌てただけです。先送りになんてしません」
言い訳させてー。
「通話を切ったのは事務所の前に着いたからだ。会って話せば良いのだから機械に頼る必要はないだろう」
そうだったんですね。納得です。
「そもそも、私に金を借りるなら新大久保まで歩いてこなくても会社まで来てくれたら良かったのだ」
「会社の場所を知りませんし」
「タクシーひろって社名を言えばナビでなんとでもなる。あとは受付に私の名前を言えばタクシー代も飯代もなんとかしてやれた。なぜしない。このように迂遠な方法を取りおって」
「ごめんなさい」
鈴村さんめっちゃ怒ってる。
どうしよう。謝っても許してもらえる雰囲気じゃない。
般若のように僕を見下ろす鈴村さんを前にあたふたしても何も解決しないのに。
「落ち着いて、鈴さん。それに佐倉さんも。鈴さんは怒ってように見えるけど、自分が頼ってもらえなかったって拗ねてるんですよ」
「そんな事ないっ」
泰葉さんの指摘を鈴村さんは全力否定。
「どう対応したら最適だったかの答え合わせは今必要ありません。過去よりも未来のことを話しましょう。私は最低でもデートDVについての話はしておきたいなって思ってます。そのあと鈴さんを頼るなり、私達を頼るなり好きにしてもらえたら」
「私が引き取る。これ以上身内の不始末で迷惑をかけるわけにはいかない」
「まあまあ。迷惑をかけてもらうのが私達の仕事なので」
デートDVについての話はいりますか?
僕は暴力なんて振るわれていないし。
盗撮されていただけだし。
あれだって圭介さんの趣味でしょ?
「泰葉さん、サクラも。一方的に怒ってしまって申し訳なかった。私は一度気持ちを落ち着けてくる」
泰葉さんに宥められて鈴村さんの般若モードが解除されてる。
お話しただけなのに泰葉さんはすごい。
鈴村さんは事務所の受付横にあるベンチで僕のことを待っていてくれるみたい。
僕を置いてきぼりにしない鈴村さんはなんだかんだ優しい人だ。
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