恋愛サティスファクション

いちむら

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恋愛サティスファクション

ハローGW1

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友達同士で抜くヌキ友って普通じゃないらしいよ。
圭介さんが爆笑しながら教えてくれた。
めっちゃ笑われて、馬鹿晒したって恥ずかしかった。

やっぱり普通じゃないんじゃんっ。
もう玲司君の言うこと信じないって怒ったら、圭介さんは「玲司に悪気はないんだよー」って庇った。
ヌキ友は一般的ではないかもだけど、全く無いわけでもないらしい。
だから、これも僕の世界が拡がる1つの出来事なんだって喜んでた。
圭介さんの喜ぶポイントがいまいち分かんないよ。

新年度になっても圭介さんの仕事は忙しいままで。
夜勤は無くなって日曜日は休めるようになったけど、今度は僕がシフトの都合で週末に休めなくなった。
電話はしていても会えない日々は続いてる。

圭介さんは僕と玲司君がどんなことをしているのか聞きたがった。
僕がフィッティングモデルをした時の写真は玲司君がライブラリにまとめてくれたから、それをそのまま転送して。
週の半分は玲司君と一緒にご飯食べてるから、そのご飯の写真も送って。
最近は食べに行くんじゃなくて玲司君が僕の家までご飯を食べに来ることも多いから、こんなの作ったよって写真も送って。

ちょっとぐらい焼きもち妬いてくれないかなって思うのに。
圭介さんに全然そんな素振りはない。
仲良くなって良かったねってだけ。

僕をどうしたいんだろう。
遠回しに玲司君とくっつくのを応援されてない?

たしかに玲司君と一緒にいるのは自然体でいられるから気楽だし、モデルやデザイナーの仕事の話を聞くのはとても刺激的だ。
僕が映画を見るのが好きだと言ったら、今度のGWにある映画フェスにも付き合ってくれるって。
普段、映画とか見ないくせに。
それでも学生監督の作品に、センスの良い玲司君はどんな感想を抱くのか。
今からワクワクだったりする。

僕は玲司君と一緒にいることが当たり前に思えるぐらいに馴染んで、楽しんでいた。
それこそ圭介さんに会えないのを寂しいと思う暇もなく。

自分でもどうしたいのか分からないのは恋愛経験が低すぎることも原因なんだ。
ってことで、恋愛のプロフェッショナル、ママのところに行くことにした。
ママのお店に行くのはちょっと時間が空いてたから忘れられてるかもって心配だったけど。
ちゃんとママは僕のことを覚えててくれて。
頼まなくてもお気に入りのフレーバービールを出してくれた。

「ママー、話聞いて。相談のって」
「あら、唯ちゃんが悩んでるなんて珍しいわね。ママで良ければいくらでも聞くわよ」
「ママが優しくて、すでに泣きそう」

実際には泣かないけど。

「僕、圭介さんに飽きられたかもしれない」
「圭君が唯ちゃんに飽きるとは思えないけど。だってメロメロだったじゃない」
「だけど圭介さんは僕が圭介さんの友達と親しくなったのに嫌がらないんだ。二人だけで一緒にご飯食べたりしてるのに止めてくれないし」
「唯ちゃんは止めて欲しいのね」
「うん。その圭介さんの友達、玲司君っていうんだけど。僕、その玲司君に告白されてて」
「告白されたこと圭君は知ってるの?」
「電話で話してる。だけど圭介さんは玲司君ともっと遊べって。いま圭介さんは仕事が忙しくて会えないから、玲司君に遊んでもらえって言われた」
「まあ。浮気推奨?」
「勧められても困る」

そりゃそうよねってママも困り顔だ。

「僕、一人じゃ何も出来ないわけじゃないのに。仕事が落ち着くまで、ちゃんと一人で待ってられるのに。そう思ってたのに……。玲司君に誘われると断れない。これって、客観的に見てもう浮気だよね」

そう。僕は圭介さんが好きだといいながら、玲司君のことも好きになってる。

「圭介さんはもう僕のことを好きじゃなくて、後腐れなく別れるために玲司君を紹介してくれたのかな」

なんでも出来る圭介さんは恋愛コーディネーターも出来るんだ。

「それならそうと、はっきり振って欲しい。僕は圭介さんが好きだし」

自分からは嫌いになれないよ。
でも、今の僕は圭介さんに嫌われてもおかしくない。
いっそ振ってくれた方が早く忘れられる。

「僕は玲司君のことも好きだし。……僕って最低だ」

自分の素直な気持ちを言葉にしてしまうと、涙が次から次へと溢れてくる。
自覚してみれば僕はただの最低な二股男なんだ。
圭介さんに振られる前提で玲司君をキープしてる。

「あら、泣き止んで。可愛いお顔が台無しだわ」

僕なんて全然可愛くない。
顔が女っぽいだけだと思ってたけど、中身もひどく女々しくて、小狡くて。
自分で自分が嫌になる。

「酔いが悪い方に回っちゃったのね。お水飲みなさい」

ママが汲んでくれた水を一口。
飲んだ分だけ涙になっていく。
そのままメソメソとみっともなく泣いていたら。
鞄の中のスマホの着信音が鳴った。
 
「お電話、唯ちゃんじゃない?」
「知らない。出たくない。どうせ玲司君だもん」

こんな夜遅くに電話をくれるのは玲司君しかいない。

「ママが代わりに出てあげるから。貸しなさい」

鳴りやまない着信音にしぶしぶスマホを取り出してママに渡す。

「もしもし。唯ちゃんの携帯です。……彼、少し飲み過ぎちゃったみたいで……。ええ。……お店の場所? お店の名前はBeaucoup……。あら名前だけで分かってくれるの。嬉しいわ。……そう。なら、お待ちしてる」

ママが会話を終えたスマホを返してくれる。
通話はすでに終了していた。

「電話は玲司君から。彼、唯ちゃんのこと心配でたまらないって感じだったわ」
「別に。僕は大丈夫なのに」
「悪酔いしてるじゃない。一人で帰すのも心配だったし迎えに来てくれるって。良い子ね」
「ちょっと、なに勝手なことして。迎えとかいらないから。僕もう帰る」

椅子から立ち上がるも、足に力が入らなくてふらつく。
久し振りに飲んだせいか酔いが回るのが早すぎる。
クラクラする頭を抱えて椅子に座り直した。

「そんなにフラフラでどこが大丈夫なの」
「だって玲司君に会いたくない。会ったら会っただけ好きになっちゃうもん。優しくされたら好きになっちゃうもん」
「好きになるのは仕方がないわ。それだけ彼が良い男なのよ」
「だけど僕は圭介さんも好きなんだ。それなのに玲司君も好きになるのは駄目だよ」
「なんで駄目なの? 好きがたくさんあったら幸せじゃない」
「僕は良くても二人に悪いじゃん。どっちか選ばなきゃいけないのに」
「それって本当に選ばなきゃいけないの?  どっちも好きじゃ駄目かしら?」
「そんな図々しいこと言えない」
「唯ちゃんは少し我が儘になっても良いと思うわよ」

もう十分ワガママになってる。
これ以上は駄目だ……。駄目なんだ……。


「佐倉、起きれるか? 気持ち悪くないか?」

いつの間にか眠ってしまっていたみたいで。
頭の上から玲司君の声がする。

「起きたくない。気持ち悪くない」
「じゃあ、帰るぞ。大人しくしてろ」

玲司君はそう言って僕を抱き上げてくれた。
横抱きにされて玲司君の胸元に耳を寄せると心地好い心音が聞こえてきて。
ああ。まぶたが重くて開けられない。

「最終的にあなた達がどうなりたいのかは私には分からないけれど。あんまり唯ちゃんを苦しめちゃダメよ。ウサギはね、寂しがり屋でもあるけど情に厚いのだから」

ママが何か言ってるけど、泣き疲れた僕は眠たくて、音は聞こえるけど内容までは理解できない。
僕を抱き上げてくれる玲司君はちゃんと聞いてたみたいで、ママの言葉に頷いた。

「言われなくても。もう泣かさねえ」
「心優しいウサギを過剰に構っても、愛に溺れて死んじゃうわよ。ほどほどになさい」

ママ、僕は優しくなんてないよ。
可愛いふりして打算的なずるいウサギだよ。
ほら、こうして寝たふりをしていれば何とかなると思ってる。

寝たふりはすぐに本物の眠りになって。
玲司君の腕なら僕を落とすことはないだろう。
安心して眠れる。

おやすみなさい。こんな僕でごめんなさい。
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