異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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南北大陸編

92 マッハ神魔動飛行船就役2

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 俺は、加速を弱めるよう操縦席に指示した。

「今のが最大加速でした。大きな加速でしたが現在の速度は通常の飛行船速度より遅い時速六百キロメールです」

 俺は新型飛行船の解説を始めた。

「おおっ。なるほど、そうじゃな」

 ヒュペリオン王は展望窓の外を流れる景色をみて納得している。

「確かに、そうじゃ」リリーも分かるらしい。
「ええ、そうね」これはアリス。

 そう言えば、アリスとか女神様って加速を感じるのかな?

ー そりゃ感じるわよ。魂だけじゃないんだから。
ー 了解です。確認できてよかった。

 じゃ、顕現してる女神様にも楽しんで貰える訳だ。

「では、今度は加速を感じない新しい方式でもう一度加速してみます」
「なに?」

 すかさず反応するヒュペリオン王。

「次の加速が正式な方式です。音速を超えるまで加速しますが加速をしたのを感じなければ成功です」

「うん? 婿殿、何を言っておるのじゃ? 加速を感じないとは?」とヒュペリオン王。

「それは、やってみてのお楽しみです。普通にしててください」

 それだけ言って、俺は新しい方式の加速を操縦席に指示した。

 操縦席へのインターカムを切ったとたん、先ほどと同様に速度が増していき、雲が窓外を飛ぶように流れていった。

「おっ? おおおっ。速くなっておる。速くなっておるのに、押さえつけられない。これはどうしたことじゃ!」

 ヒュペリオン王が素直な感想を言った。

「まことじゃのぉ父上。全く何も感じないのに、外の景色は物凄い速さで飛んでいくのじゃ」とリリー。

 これが新しい外周エンジンで採用した加速の特徴だ。
 加速感が全くないのに超加速しているのだ。
 一応魔力で飛べる人は経験済みなのだが、加速の大きさが違うのでぴんと来ないのかも知れない。

~ ただいま、巡航速です。

 操縦席からのアナウンスだ。

「了解。いま巡航速まで加速しました。ほぼ音速になります。つまり音と同じ早さで飛んでいます」

「おお、これが音速なのか? ん? 音は聞こえておるが?」

 分かりやすい感想のヒュペリオン王。

「そうじゃのぉ。聞こえておるのじゃ」とリリー。
「それは、周りの空気も一緒に音速で飛んでるからです」
「ほう。良く分からんが、そうなのだな」

「この速度だと、南のルセ島まで一時間くらいで到着します」

 音速と言ってもピンと来ない人に、わかりやすい話をする。

「なんじゃと! まことか!」

 王様、分かってなかったんかい!

「ただ絵を眺めているだけのようじゃが、しっかり飛んでおるのじゃな」とリリー。

 さっきから、この親子が解説してくれているので他の乗客も納得してくれているようだ。うんうんと頷いたりしている。

「ということは、これからは全くあの『加速』というものを感じないで飛べるってことでしょうか?」

 セシル、さすがの突っ込みです。

「うん、そう。だから、これからは加速が苦手な人や体の弱い人でも平気で乗れるようになる」

 そのために、この方式を思い付いたからな。

「素晴らしいですわ!」

 セレーネが大絶賛した。あの加速は嫌いだったんだな。セシルと手を取り合って喜んでる。

「残念ですわ」これはアルテミス。

 この姉妹、なんでここまで違うんだろう。あれ? いつもお姉さまのいう通りって言ってるのって? 意外と本音は違うのかな? チラッと心を覗いてみたい誘惑を感じた。

 それはともかく、加速半分の部屋とか作ったら面白いかも知れない。船内の暇つぶしになるかも。
 そういえば、無重力部屋とか作れるなぁ。遊園地とかに良さそう。

~ リュウジ様、後方より七人の侍女隊の皆さんが接近しています。

「了解!」

 侍女隊が追い付いて来たらしい。

「なんじゃ?」とリリー。
「侍女隊が、神魔動飛空二輪に乗って、こっちに合流しようとしてるんだ。後部デッキまで行ってくる」
「わらわもいくのじゃ」

  *  *  *

 この飛行船は外周エンジンになったので機体後部にエンジンはなく、機体中心付近にある。
 それで、旧エンジンがあった場所に侍女隊用の発着デッキを取り付けた。
 神魔動飛空二輪の発着は容易らしいのだが外周の真空膜フィールドと神魔動飛空二輪の真空膜フィールドが重なった時ちょっとショックがあるとのことで、気流の乱れの少ない場所に発着デッキを設置したのだ。

 飛行船前方の安全が確認されパトランプがレッドからグリーンへと変わった。
 これを見て、後方で一列になって待っていた侍女隊の面々が順に進入して来た。

 先頭は、ミゼールだ。
 危なげなく真空膜フィールドを通過して、デッキ入口で減速する。そして、お手本のように綺麗に到着した。もちろん、まさかのために、周囲には防御フィールドが弱く張ってあってクッションなっているので危険はない。

「よし!」

 俺は見ていて思わず独り言ちた。続いて、次々と到着する。

「マスター、到着しました!」とミゼール。
「来たよ~、マスター」とシュリ。
「ただいま到着いたしましたわ」とミリス。
「クレオも到着したの」
「マナ、ただいま到着ですの」
「スノウは、らくらく到着です」

「全員、とうちゃ~くっ」と美鈴。

 最後に、指導教官の椎名美鈴が入ってきた。

「お前ら、お疲れ! どうだった? 難しくなかったか?」
「だいじょ~ぶっ」と美鈴。流石に余裕。
「問題ありません! ただ、ちょっと追い付くのに時間かかってしまいました」とミゼール。

「そうか? 思ったより早かったけど」
「魔力眼に飛行船が見えてすぐ発進したんだけど思ったより時間が掛かっちゃった。もう少し慣れれば、もっと速くなると思う」と美鈴。

 魔力眼とは魔力波レーダーだ。これは一般の魔道具技師が考案したらしい。

「いや、十分だ。これ以降は、速さより安全第一で頼む」
「了解!」と美鈴。
「にんにん」

  *  *  *

「侍女隊、ただいま到着しました!」

 教官の美鈴と侍女隊が展望室に現れて挨拶すると、みんながわっと駆け寄った。

「凄いね~、このスビードで追い付けるんだね~」ニーナも関心してる。

「はい。我も、あの神魔動飛空二輪という馬にはびっくりしました。空を駆けること、まさに天馬のごとし、いやそれ以上です」とミゼール。

 なるほど、天馬か。

「そ~だっ、天馬一号と名付けよ~」とミルル。

 あ、名前付いちゃいました。神魔動飛空二輪改め、天馬一号。あれ? そういや、ミルルが名前付けること多くないか?

「それ、いいじゃん!」

 美鈴も気に入ったようだ。

「天馬一号……いいですね」

 なんかアルテミスも食いついた。やっぱり好きなのかなぁ?

「アルテミス、速い乗り物とか好きだよね」
「はい、素早いターンとかも好きです」

 あ、なるほど。ダンスにも通じるものがあるんだ。そうかダンスってスポーツなんだ。これは、嫁達の健康のためにも続けるべきかもな。

 そいえば、音楽も演奏はスポーツ要素あるよなぁ。体を使うものは、日々の鍛錬が必要ってことからして共通してる。あ、MIDIを除く。ボカロも除く。ん? 徹夜で打ち込むのはスポーツ要素と言えなくもないか? 24時間耐久レースみたいな。でもそうするとゲームもスポーツなのか?

  *  *  *

 飛行船の下層展望デッキから音速で眺めていると、まさに地上の景色は飛ぶように流れていく。
 高度三千メートルほどの比較的低空を飛んでいるせいもあって、より速く感じる。飛行時の騒音が大きければもっと上昇するのだが、外周エンジンだと騒音もないので低空でも問題ない。ただ、渡り鳥や他の高速飛行船との関係もあるから、高度は調整する必要がありそうだ。

 ルセ島への旅は、あっという間だった。
 速く行って帰るだけでは味気ないので、着陸してお昼ご飯も含めてゆったり遊ぶことにした。それでも日帰りできるのが嬉しい。気軽にリゾートへ行けるようになったわけだ。
 まぁ、普通の定期便でも二時間半なので大差ないとも言えるが気軽さが全然違うんだよな。
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