異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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神聖アリス教国建国編

54 建国宣言、そうだ迎えに行こう! 砂の王国カセーム1

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 砂の王国カセームの首都パタンは大陸の最南端だった。

 砂の国と言われている通り、パタンまでは砂漠が広がっていた。
 緯度的にはリゾートのセム島と同じくらいなのだが、大陸なので乾燥している。このため、石とレンガで出来た家が多いようだ。
 とはいえ、砂漠の端にある街としては水は比較的豊富なようで、パタンの周囲は砂地ではなかった。恐らく近くに山がある関係だと思われるが、気候的には比較的まともな地域と言えるかも知れない。
 だが、まともでないことが一つあった。バッタの大群である。

「遠目だと砂嵐かと思ったが、これかよ」さすがに初めて見た。
「話には聞いていたが、これほどとは」

 ミゼールは知っていたようだが、それでも驚いている。ナディアスの代表たちは最初は恐怖していたが、船内が安全だと知って今は落ち着いて眺めている。

「リュウジ、どうするのじゃ?」とリリー。
「とりあえず、これを何とかしないと話も出来ないだろな」

 首都パタンは、今まさにバッタに襲撃されていた。

「婿殿なら、なにか方法があるんじゃろ?」とヒュペリオン王。

 いや、そうそう名案は出ませんって。

「ううん。どうでしょう。上空で焼き払うと、下の街に火の粉が落ちるからダメだろうし……となると」
「となると?」
「う~~~~んっ」

「リュウジでも無理なのか?」と、リリー。
「いや、海上におびき出して焼き払ってやろうとは思ったんだけど」
「うむ」
「どうやって、おびき出そうかと。奴ら、草なら何でも食べるらしいんだけど、特に好物とかあるのかな?」

「ああ。リュウジ殿、我が知っております」横で聞いていたミゼールが言った。
「ほんとか!」
「このバッタは、このあたりに生えるトキ豆という植物が大好物とのこと」
「ほう。トキ豆か。それを大量に用意すれば海上におびき出せるかな?」
「おそらく。あの豆は香りが強いので」とミゼール。

「何処にある?」
「このあたりでは食べ尽くしてるであろうのぉ」とリリー。
「だよなぁ」

 俺達が展望席でパタンを眺めつつ思案していると、つとバトンが歩み寄った。

「旦那様。豆そのものでしたら食料倉庫に御座います」バトンは小声で言った。
「なに? ほんとかバトン。でかした!」
「はっ」

「でも、豆をどうするのじゃ? まさか育つのを待つのか?」とリリー。
「いや、神力で発芽成長を加速出来る。マメ科の植物なら水さえあれば、とんでもなく成長するかも知れない。よし、バトン。豆と壺を用意だ!」
「畏まりました」

 まずは、神力の効果を試してみる。豆と水を壺に入れ発芽成長させてみた。
 豆は、水を吸い込み直ぐに芽を出したかと思ったら、ぐんぐん伸び始めた。葉を広げ、茎を伸ばし、さらに葉を広げて伸びていく。この豆はツルがどこまでも伸びていくようで際限なく葉を茂らせる。
 発芽成長の加速は、本来なら光合成する部分を神力でやってるようだ。一握りの豆から十メートル以上も伸びていく。さすがに壺の水がなくなり成長が止まってしまったが十分だ。

「よし、エサとしてはこれで十分だろう。飛行船はこのまま上空で待機。俺は上部デッキから出る!」

 こーゆーのやってみたかったんだよね~。どう考えても主人公専用デッキが、なんであるんだよ的な。まぁ~、これは俺が作ったんだけど! 予定通り!

  *  *  *

 俺は豆の袋を持って飛び出した。
 バッタどものいる街を通り過ぎたところで、エサを用意する。この先の海に誘導するからな。
 地下から水をくみ上げて五メートル位の玉状に浮遊させたところに豆の袋をぶちまけた。
 混合して発芽成長の神力を加える。軽く加えても神化リングのおかげもあってか、物凄い成長を始めた。なんかゴウゴウと水音がする。こりゃ、水が足りなくなると、さらに地下水をくみ上げて投入! 直径百メートルくらいまで成長したところで、バッタどもが気が付いた。

「よし、食いついた!」

 砂漠の砂のようなものが襲い掛かって来る映画シーンを思い出したが、それを目の当たりにするとは思わなかった。
 もちろん、俺の周りには防御フィールドを展開しているので心配は無いが不気味だ。
 最後に水を追加してから、豆を広げてさらに目立つようにしつつ海へ移動を開始した。

「はははは。さすがに俺には追い付けまい……って、ぶっちぎっちゃダメか。おいでおいで~」

 ここで、飛行船に神力フォンで指示を出す。

「リリー聞こえるか?」
「感度良好!」とリリー。
「防御フィールドを最弱、最大拡散にして後ろから追い立ててくれ!」
「分かったのじゃ」

 高速神魔動飛行船の防御フィールドは高速飛行に耐えられるほど強力だが、最低レベルで拡散すると弱くて厚い大きな壁のようになる。
 つまり単なる加速器という程度。これでバッタを押し出す。全部とはいかないが殆どのバッタは街から取り除けるだろう。
 うまく街から離した時点で、拘束フィールドを張って豆の木のボールごと纏めて捕まえた。

「リリーもういいぞ。このまま海上で処分してくる」
「了解なのじゃ」

 後は簡単だ。海上で、ぎゅうぎゅうに固めて玉状にし、最後は豪快にエナジービームをぶち込んで燃やし尽くした。

  *  *  *

 帰ってみると、パタンの街の門から多くの衛兵を連れた者が出て来ていた。

「わたくし、カセームの宰相をしておりますオルペノと申します。この度の働き、まことに見事でした。つきましては我がカセーム賢王より褒賞をお渡しいしたいとのことです。同道願えますか?」

 一団から進み出た宰相を名乗る男が言った。単なる迎えにしては衛兵が多い。まぁ、千里眼で内情は見ていたんだが、もうちょっと工夫が欲しいところだな。

「ほう。わしは聖アリステリアス王国国王ヒュペリオン・アリステリアスじゃ。ここにいるのは、わが婿の神聖アリス教国国王リュウジ・アリステリアスだが、カセームの王は腰でも痛めておるのか? なんなら、バッタを街ごと消して差し上げようか」

「し、失礼しました。しばらくお待ちください」

 そう言って、国の代表達は泡を食って戻っていった。いや、想定外なのもダメだが、ほったらかして帰るのかよ。

 俺たちは、一旦飛行船に戻って対応を待つことにした。

「王様、いきなりですか。っていうか、俺まだ王になってないし」
「わはは。まぁ、あれくらい言ったほうがいいじゃろう」王様余裕の笑い。

「あ~、ちなみに街ごと消すより、国ごと消すほうが簡単なんですけど」
「なに? まことか婿殿。そうか、次はそう言うことにしよう」言ってみたいらしい。

「こういうのは、最初が肝心だからな」ミゼールも納得しているようだ。
「さよう、相手を確認もせずに、いきなり褒美をやるから顔を出せとは話にならんな。兵が多かったのも気になる。黙って消されても文句は言えんだろうのう」

 ナディアスのボーフェンさんも好々爺っぽい見た目に似合わないことを言ってる。この世界では、これが普通なのか?

「それにしても、今のは冗談ではなく? 本当に国ごと消せるのでしょうか?」とボーフェン。
「はい」
「そ、そうなんですか」

 ボーフェンさん、もしかするとハッタリだと思った? ウィスリムとマレスは黙ってることにした模様。

 まあ、俺も千里眼で見てたら「褒美をくれてやると言って呼んで来い。その間に、あの空飛ぶ魔道具を奪い取るのだ」なんて言ってたのでどうしようかと思ってたんだが。ほんとに国ごと消しちゃおうか?

ー ダメだからね。
ー 分かってるって。けど、アホすぎて国を滅ぼすようなら、王族を消すのはアリだろ?
ー ああ、そうね。それはいいかも。まともな後継者がいればだけど。
ー うん、それだよね。でも、面倒は見切れないからな~。滅亡するまでほっとくか。

「あの対応見るに、宰相もダメダメだね。役人全滅ってことも」
「それは、そうじゃろうのぉ。上に立つ者に倣うじゃろう」とヒュペリオン王。
「環境は悪くないのに、衰退する国って人災だよね」
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