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10 確率論的多重世界
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俺はまず、俺の世界とこの世界の歴史を比較する作業に参加した。
あまり歴史には詳しいとは言えないが、語呂合わせで覚えているものもあり思った以上に比較することができた。
実際に比較をしていて気づいたが、年号がちょっと違うという微妙な違いが多々あった。
大きな出来事の違いはあまりなかった。数字の違いは次第にズレていったと思うと急に戻ったりもしていたのが面白い。
始める前は大変そうだったが、やってみたらたった二日で完成してしまった。まぁ、覚えている数が少なかったということもあるが。
「意外と沢山覚えてるものね!」メリス的には満足らしい。
ただ、ここからが本当の俺たちの仕事だが。歴史の違いを評価する必要がある。
* * *
転移座標の誤差はトウカが調べている。
ただ、これはまだ進展がないらしい。
「対象世界はどうやって区別するんだ?」
昼食で会ったとき、トウカに聞いてみた。
「わからない」
「だよな」
「とりあえず、区別するために世界Rと名付けた」
「なんだそのRって」
「もちろん、リュウのRだよ」
「リターンズかと思った」
「リターン出来ればいいね」
「そうだな。その願いを込めてるのか?」
「そういうことにしよう」
変えるつもりはないらしい。
* * *
『空気のみ』を転移をしていた可能性については新たな発見があった。
俺が転移した時以外で五回、空気清浄フィルターに小さな昆虫が補足されていたのだ。そして世界Rと確認が出来たのは一つしか無かった。
この一つとは、オオルリが転移したときのものだ。改めて、オオルリは俺と同じ世界から来たことが確認されたわけだ。
ということは、他の四回は別の世界の可能性がある。
もちろん重複している可能性もあるが、とりあえず世界001~世界004と名付けられた。昆虫の名前にしなかったのは、単純にダブったかららしい。
ただ、この世界と再度接続できるのかどうかは分からない。
俺と同じ世界Rと思われるものが少なくとも二度あったことは確かだ。その間の試行が二十回ほどなので、最大で十の世界との接続が繰り返されているとも考えられる。
「流石に凄いことになって来たと思うよ」
食堂で会ったマナブが言った。空気清浄フィルターの調査はマナブが担当していた。
「確認された別世界が五つか」
「まだまだ、ありそうだしね」
一緒にいたメリスも、事の重大さが分かっているようだ。
研究対象の拡大は歓迎できないからな。
「そうなんだよ。せめて一つにして欲しい」
「ほんとだな」
俺も同意する。俺の世界だけにしてほしい。だが、相手が並行世界だからな。下手すると無限に広がりそうだ。
「ただ、十回の繰り返しってことは、十回に制限している条件があるんだろうな?」
「本当に繰り返しなら、そうよね」
「問題はそこだね」
「うん。なにが制限してるのか分かれば、もっと絞れるのかも知れない」
十回というのは不運ではなく、とんでもなく幸運なのかも知れない。俺はそう思った。とにかく少しづつ条件を変えて対象を絞っていくしかないだろう。
* * *
再現実験から一週間が過ぎて、今日は第二回検討会だ。定例のミーティングでもある。
「それじゃ進展のあったところから発表してくれ」
リーダーのホワンの一声で検討会が始まった。
「それではまず第一のテーマ『この世界は並行世界なのか』について報告します」
メリスが立ち上がって俺と作った歴史比較表をみんなに配った。
「各項目について詳細は解説しませんが、百年ごとの相違数に注目してください」
比較表は分野別に整理され、百年ごとに二つの世界の相違数が集計されていた。
「ざっとですが、それほど大きな変動はありません。平均してこの世界と世界Rは、常にほぼ同数の相違点を持って推移しています」
「どういうことだ?」
ホワンが意味不明だという顔で質問をした。
「はい。どの百年も相違数はあまり変わりません。離れていっているわけではないようです」
「離れて行ってない?」
「はい。付かず離れずといった感じです。急激に違いが増えることは無く、かといって全く同じに収束する訳でもないと言うことです」
「付かず離れずか。並行世界は分岐点から次第に離れていくのではないのか? 違いは増大する一方だと」
「はい。ですから、並行世界とは考えにくいと言うことです」
「ふうむ。ではなんだ?」
「私の印象では、別れようとしても元に戻っている感じです」
「元に戻る?」
「はい、特異なことが起こっても、結局は普通の世界に戻るというか」
「普通の世界ってなんだ?」
「そこなんですけど、確率的な中心があるように思います」
「確率的な中心?」
「はい、二つの世界のズレを長い目で見ていると、違いが一定で安定しています。まるで」
「まるで?」
「お隣さんのような」
「確率的に?」
「はい、確率的に近い、しかし少し離れている世界」
「無限に世界が分岐していってるわけじゃないんだな?」
「はい。ずっと以前からこの世界と並んでいるような感じです」
「ああ、なるほど。俺が感じたのもそれだな」
ホワンが納得したという顔で言った。
「で、それはなんだと思う?」
「わかりません。たぶん多重世界かと」
「多重世界?」
「はい。ただ、多くの世界はあるんですが、確率的には安定している世界です」
「よくわからんな。並行世界とどう違うんだ?」
「それなんですが、全ての世界の存在確率を合計すると1になるような多重世界なのかも知れません」
「ほう。存在確率の合計が1か」
「研究者じゃないので、思い付きですみませんが」
「いや、面白い。沢山の世界はあるが全体の存在確率は変化していないんだな?」
「そういうことです」
「確率論的な多重世界か」
「だめですか?」
「いや、級数的に発散する世界論よりいいんじゃないか?」
ホワンは組んでいた腕を解いて言った。
「一つの存在が多重世界に存在するから波の性質が出る……か?」
ホワンは、なにかぶつぶつ独り言を言いだした。
「よし、わかった。とりあえず俺たちの研究対象は『確率論的多重世界』で行こう」
い、いいんだろうか?
あまり歴史には詳しいとは言えないが、語呂合わせで覚えているものもあり思った以上に比較することができた。
実際に比較をしていて気づいたが、年号がちょっと違うという微妙な違いが多々あった。
大きな出来事の違いはあまりなかった。数字の違いは次第にズレていったと思うと急に戻ったりもしていたのが面白い。
始める前は大変そうだったが、やってみたらたった二日で完成してしまった。まぁ、覚えている数が少なかったということもあるが。
「意外と沢山覚えてるものね!」メリス的には満足らしい。
ただ、ここからが本当の俺たちの仕事だが。歴史の違いを評価する必要がある。
* * *
転移座標の誤差はトウカが調べている。
ただ、これはまだ進展がないらしい。
「対象世界はどうやって区別するんだ?」
昼食で会ったとき、トウカに聞いてみた。
「わからない」
「だよな」
「とりあえず、区別するために世界Rと名付けた」
「なんだそのRって」
「もちろん、リュウのRだよ」
「リターンズかと思った」
「リターン出来ればいいね」
「そうだな。その願いを込めてるのか?」
「そういうことにしよう」
変えるつもりはないらしい。
* * *
『空気のみ』を転移をしていた可能性については新たな発見があった。
俺が転移した時以外で五回、空気清浄フィルターに小さな昆虫が補足されていたのだ。そして世界Rと確認が出来たのは一つしか無かった。
この一つとは、オオルリが転移したときのものだ。改めて、オオルリは俺と同じ世界から来たことが確認されたわけだ。
ということは、他の四回は別の世界の可能性がある。
もちろん重複している可能性もあるが、とりあえず世界001~世界004と名付けられた。昆虫の名前にしなかったのは、単純にダブったかららしい。
ただ、この世界と再度接続できるのかどうかは分からない。
俺と同じ世界Rと思われるものが少なくとも二度あったことは確かだ。その間の試行が二十回ほどなので、最大で十の世界との接続が繰り返されているとも考えられる。
「流石に凄いことになって来たと思うよ」
食堂で会ったマナブが言った。空気清浄フィルターの調査はマナブが担当していた。
「確認された別世界が五つか」
「まだまだ、ありそうだしね」
一緒にいたメリスも、事の重大さが分かっているようだ。
研究対象の拡大は歓迎できないからな。
「そうなんだよ。せめて一つにして欲しい」
「ほんとだな」
俺も同意する。俺の世界だけにしてほしい。だが、相手が並行世界だからな。下手すると無限に広がりそうだ。
「ただ、十回の繰り返しってことは、十回に制限している条件があるんだろうな?」
「本当に繰り返しなら、そうよね」
「問題はそこだね」
「うん。なにが制限してるのか分かれば、もっと絞れるのかも知れない」
十回というのは不運ではなく、とんでもなく幸運なのかも知れない。俺はそう思った。とにかく少しづつ条件を変えて対象を絞っていくしかないだろう。
* * *
再現実験から一週間が過ぎて、今日は第二回検討会だ。定例のミーティングでもある。
「それじゃ進展のあったところから発表してくれ」
リーダーのホワンの一声で検討会が始まった。
「それではまず第一のテーマ『この世界は並行世界なのか』について報告します」
メリスが立ち上がって俺と作った歴史比較表をみんなに配った。
「各項目について詳細は解説しませんが、百年ごとの相違数に注目してください」
比較表は分野別に整理され、百年ごとに二つの世界の相違数が集計されていた。
「ざっとですが、それほど大きな変動はありません。平均してこの世界と世界Rは、常にほぼ同数の相違点を持って推移しています」
「どういうことだ?」
ホワンが意味不明だという顔で質問をした。
「はい。どの百年も相違数はあまり変わりません。離れていっているわけではないようです」
「離れて行ってない?」
「はい。付かず離れずといった感じです。急激に違いが増えることは無く、かといって全く同じに収束する訳でもないと言うことです」
「付かず離れずか。並行世界は分岐点から次第に離れていくのではないのか? 違いは増大する一方だと」
「はい。ですから、並行世界とは考えにくいと言うことです」
「ふうむ。ではなんだ?」
「私の印象では、別れようとしても元に戻っている感じです」
「元に戻る?」
「はい、特異なことが起こっても、結局は普通の世界に戻るというか」
「普通の世界ってなんだ?」
「そこなんですけど、確率的な中心があるように思います」
「確率的な中心?」
「はい、二つの世界のズレを長い目で見ていると、違いが一定で安定しています。まるで」
「まるで?」
「お隣さんのような」
「確率的に?」
「はい、確率的に近い、しかし少し離れている世界」
「無限に世界が分岐していってるわけじゃないんだな?」
「はい。ずっと以前からこの世界と並んでいるような感じです」
「ああ、なるほど。俺が感じたのもそれだな」
ホワンが納得したという顔で言った。
「で、それはなんだと思う?」
「わかりません。たぶん多重世界かと」
「多重世界?」
「はい。ただ、多くの世界はあるんですが、確率的には安定している世界です」
「よくわからんな。並行世界とどう違うんだ?」
「それなんですが、全ての世界の存在確率を合計すると1になるような多重世界なのかも知れません」
「ほう。存在確率の合計が1か」
「研究者じゃないので、思い付きですみませんが」
「いや、面白い。沢山の世界はあるが全体の存在確率は変化していないんだな?」
「そういうことです」
「確率論的な多重世界か」
「だめですか?」
「いや、級数的に発散する世界論よりいいんじゃないか?」
ホワンは組んでいた腕を解いて言った。
「一つの存在が多重世界に存在するから波の性質が出る……か?」
ホワンは、なにかぶつぶつ独り言を言いだした。
「よし、わかった。とりあえず俺たちの研究対象は『確率論的多重世界』で行こう」
い、いいんだろうか?
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