多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

文字の大きさ
9 / 52

9 検討会

しおりを挟む
 再実験の翌日、俺たちはレクチャールームに集まって実験の結果について話し合った。

 野鳥のDNA鑑定の結果はすぐに出た。
 報告によると、この世界の野鳥とは別系統であることが判明した。つまり、別世界から来たと言うことだ。

「この結果を見ると、結論は一つだな」

 リーダーのホワンはメンバーを見渡してから、ゆっくりと宣言した。

「我々がやっている実験は空間転移ではない。明らか別世界転移だ。そして転移は双方向だが単純な交換ではないようだ」

 ホワンの宣言は聞こえたが、何も言えずみんな黙ってた。
 いや既に予想はしていた。ただ、はっきりと言われるまで信じきれなかったのかもしれない。
 それは、今まで信じていたことが足元から崩れていった瞬間でもあったのだ。

 それでも、今直面しているのは空間転移以上の大変な発見なのだ。小さな失敗と大きくも予想外の成果が同時に来たわけで、ちょっと複雑な心境なのかも。

「確……かに」

 トウカは喉が渇いたのか唾をのみ込みながら言った。ユリが、サーバーのコーヒーをトウカのカップに注いでやった。

「ありがとう」

 素直にトウカは言ってカップからコーヒーをぐびぐびと飲んだ。

「変だとは思ってたんだよ。予想と違う成分の岩石ばかりだったしな」

 トウカは吐き出すように言った。

「けど、いきなり物質が現れたら空間転移だと思うだろ?」

 そう言って縋るように俺を見た。
 この現象を発見したのはトウカだったようだ。

「そうだな」

 俺は同意してみせた。研究者の同意じゃないが賛同する声を聴きたいのだろう。

「これは、一からやり直しだな。しかし、さらに凄い発見でもある。これまで以上に、やりがいのある研究だ」

 ホワンが断固として宣言した。
 今日以降、この研究室の研究テーマは「空間転移」から「別世界転移」に変更されたわけだ。

  *  *  *

 研究室のテーマが大きく修正されて少しざわついたのでホワンは休憩を入れた。

「しかし、なんで鳥なんだろう?」

 マナブが素直な疑問を口にした。

「それを言うなら、なぜ鳥だけなんだ? と言うべきじゃないか?」

 ふと思い付いて俺は言ってみた。

「どういうこと?」

「あの小鳥が現れたとき、羽根は畳まれていただろ?」

 俺は鳥が現れた瞬間を思い出しながら言った。

「うん、そうだね」マナブも覚えていた。
「つまり、転移の時、飛んでいたわけではない。時間的にも恐らく枝に止まって寝ていたんだと思う」

「ああ、なるほど」
「だとすれば止まっていた枝も一緒に転移して来てもいい筈だ。俺の時は岩や苔も一緒だった。しかし、今回転移して来たのは鳥だけだ」

 つまり、俺の時と同じで切り出す種類の転移ではないということだ。

「ああ。確かに謎だね」

 マナブも納得したようだ。

「もっと情報が欲しいな。何が転移してくるのか更に実験が必要だな。明日の早朝も実施するか?」

 ホワンは、すぐに提案して来た。

「え~っ」

 ユリは不満そうだ。
 若い奴は、朝が辛いよな。ま、俺は若くないけど辛いが。

「それについて、ちょっといいか?」俺はちょっと思い当たることがあった。
「なんだ?」
「明日、実験をするのはいいが、もう何も出てこないかも知れないぞ?」

 決して早く起きるのが嫌だと言っているわけではない。

「ほう。詳しく理由を聞こうじゃないか」

 ホワンは、真直ぐ俺の方に向き直ってじっくり聞く体制を取った。

「オッケー。その前に聞きたいんだが、この研究所で転移実験は何回やったんだ?」
「うん? リュウが来るまでか? 成功したのは三回、失敗を含めたら三十回近く実験している」
「三十三回です。あの頃のほうが成功率は高かった」トウカが訂正した。

「なるほど。で、物体が転移して来たのが俺を含めて三回と」
「そうだな」
「でも、それ以外は本当に全て失敗だったのか?」
「どういうことだ?」ホワンが聞き返した。

 俺はちょっと考えをまとめてから言った。

「今回は鳥が来た。恐らく高い木の枝に止まっていたのだと思う」
「そうね」ユリが頷いて言う。
「その前の成功は、俺の時だ。俺が居たのは、勿論地上だ」
「そうだな」
「そして、最初の二回は岩石。恐らく地下からだろう」
「成分的には、間違いなく地下だった」トウカが補足する。
「そうだったな」ホワンも確認したようだ。

「つまり、高さが少しづつずれているんだ。そんな座標を入力したのか?」
「あっ」思わずトウカも声を上げた。

「いや、深さは変えていない」トウカは確信を持って言った。
「ああっ、そういうことか!」とホワン。
「そうだね」とマナブ。
「確かにっ」とメリス。
「えええっ?」とユリ。

 みんなの反応を見てから俺は続けた。

「そうなると、例え成功したとしても次は空中にあるものが転移してくると思う。恐らくだが普通なら空気だけ。うまくいって渡り鳥。下手すると飛行機が出て来る」
「なに~!」とホワン。
「しかも、切り取る転移じゃないなら、丸ごとだ」
「ひ、飛行機まるごと?」とメリス。
「たいへ~ん」とユリ。
「うそだろ?」とトウカ。
「実験室を突き破っちゃう!」とユリ。

 そういえば、運動量はどうなるんだろう? 実験棟が破壊されるかもな。

「そうか。うん、そうだな。確かに、そういう可能性が出て来たな。これはまずい」

 ホワンは、いつもの腕組みをして考えるポーズで少し唸ると言った。

「そうなると……とりあえず明日の実験は無理だな。まずは過去の転移を精査することにしよう。リュウの言う通りなら、もっと慎重に実験する必要がある。トウカ、成分分析で最初の二回の深さを推定できるか?」
「やってみます!」

 研究員たちは、今まで以上に真剣な表情になった。

「あとは……『全て失敗か』とか言ってたな?」

 ホワンは話を戻して言った。

「そうですね」
「それは、どういう意味だ?」
「それは、今日の実験だと、見える物体は鳥だけでしたが、さっきも言ったように空気だけということもあったのではないかと」

「くっ? 空気だけか?」
「そうです。少しづつずれていったとすれば、可能性はあります」
「それで、成功率が低かったんだ。本当は成功していたのか!」勢いトウカが言う。
「それは分からないでしょ? 空気の成分は調べてないじゃない」ユリが突っ込みを入れる。

「そうなんですか? 俺を隔離したりしてるから、調べているのかと思った」

 俺は不思議に思って言った。

「いや、調べているぞ。成分分析の記録は残っているはずだ。フィルターも毎回交換している。それも再調査だな」

 ホワンが訂正した。
 そりゃ、調べてる筈だよね。細菌レベルでも気にしてるんだから。
 もっとも、別世界から来ることは想定していなかったために省略していただけなんだろう。

「本当の成功率が楽しみだ!」とトウカ。
「もしかすると十割かもよ。別の世界への転移は十割成功したからな」

 アルミケースは連続して消えた。しかも、戻ってきていない。

「そうだよね!」
「もし、成功率が十割だったにもかかわらず、物体が現れたのが一割だったのなら、転移相手は最大で十世界の可能性がある」
「なに!」とホワン。
「確かに」とトウカ。

「複数の世界から空気だけ届いてたってことか?」
「あぁ~。リュウの世界はたまたま物体がある座標だったが、他の世界はそうではなかったと?」

 座標を決めていたトウカとしては、とんでもない話になった。

「そういうことだ」

 レクチャールームは、静まり返ってしまっていた。誰もが状況の把握で精一杯といったところだ。

「とにかく、確認作業を進めよう。話はそれからだ」ホワンが宣言した。

 この日の検討会は、これで終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...