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44話
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その翌日の夜、呪いの件でエリート眼鏡がグティエレス邸を訪れる予定になっていた。
俺がアルベルトさんに提案したことだ。
王宮の書記官でもあり、魔術師でもあるエンリケさんなら何らかの情報を持ってる可能性がある。
約束の時間にぴったりにグティエレス邸の扉のノッカーが叩かれ、俺とフリオさんが出迎えに扉を開けると、エンリケさんの隣には何故か私服姿のオロフが立っていた。
「いらっしゃいませ、エンリケ様。レーヴ様」
フリオさんが挨拶に合わせて頭を下げる。
「やぁ、久し振りだね。スルジュ君」
「ご無沙汰しております」
「あぁ、彼かい?門扉の前でうろうろしてたから連れてきたんだよ。何でも昨日の昼ぐらいから居たらしいよ」
はぁ?昨日の昼って…誰も気づいてなかったぞ…。
誰かしらは必ず出入りしてるから気づく筈だろうに。
あ、まさか見つからないように俺が出て来るのを待ってたのか?
「いやぁ、彼は中々健気だね。君に会いたいが為に外でずっと待ってるとは、そうそう出来るもんじゃないよ、うん」
いやいや、それってストーキングしてんのと変わらなくね?
健気とかそれ以前の問題だぞ…こわっ。
てか、このエリート眼鏡…絶対わかってて言ってんだろ。
「では、書斎の方に…と、ご案内したい処ではありますが、レーヴ様もご一緒でよろしいので?」
オロフは国も違えばアルベルトさんの友人でもない、部外者でしかないからなぁ。
フリオさんが躊躇うのも当たり前だけど、それをわかっていて連れてきたエリート眼鏡には何か考えがあるってことかぁ?
「構わないよ、フリオ。彼も喜んで協力してくれるそうだ。そうだよね?レーヴ卿」
「はい、協力します。スル…ジュが喜ぶなら」
うぉぉぉ、俺には見える。
オロフの尻からふっさふっさ銀色の尻尾がぶんぶんと振られて、「褒めて褒めて」アピールしてるのが…。
疲れてんだな…俺。
「あ、いえ。全然喜びませんので。レーヴ様とは無関係なことですので、とっととお帰り下さって結構です」
「…スル…ジュ、冷たい」
泣くのか?また泣くのか?
うるうるしても駄目なものは駄目だ。
オロフがいるとボロが出そうで落ち着かないんだよ。
ここは冷たくあしらって帰らせるのが1番。
「スルジュ君、少し言い過ぎでは…」
「全然言い過ぎじゃありません。フリオさん、この方にはこのくらいでいいんです」
「邪魔はしません。大人しくしています。口外もしません。痛いのも我慢します。お願いです。少しでも側に…」
こらぁぁぁ。
余計なこと言うでないわっ!
変な誤解されんだろっ!
「おやおや、スルジュ君は随分とレーヴ卿に懐かれているようだね。まぁ、いいじゃないか。君の為であれなんであれ、協力者が多いにことに越したことはないよ。私としては是非レーヴ卿に力添えをお願いしたいからね」
ふーん、なるほどね。
合理的なエリート眼鏡がオロフの協力を必要としてるのか。
「サーラス様がそう仰るなら…構いませんが…」
「やけに歯切れが悪いね。あぁ、なるほど。そういうことか…それならそれで別にいいんだよ」
えっ?そういうことってどういうこと?!
別にいいって、何がいいんだよ?!
さっぱり意味がわからないんですけどっ!!
「では、フリオ。書斎に行こうか。アルベルトも待ちかねているだろ」
おーい、説明してくれよ~。
フリオさんを先頭にしてエリート眼鏡にオロフと続いて俺の順に書斎がある2階への階段を歩いていると、オロフの右手が後ろの俺に向けてちょいちょいと動く。
何かのサインかと思ったけど、意味不明なのでスルー。
それでもちょいちょいの動きは止まらず、だんだんとウザくなってきたので右手を叩いたら…そのまま手を繋がれてしまった。
なんだ…ただ単に手を繋ぎたかっただけかよ。
子供かっ。
ギュッと握られるオロフの掌は硬く荒れていて、剣ダコでごつごつしている。
昔はもっと柔らかかった。剣ダコもあったけどこんなにごつごつもしていなかった。
そっか。こいつはこいつなりに1人で頑張ってたのか…。
お馬鹿なのは変わらないようだけど、まともにちゃんと成長したんだと思うと親代わりをしていた分、やはり嬉しい。
そっと手を握り返してやると、一瞬だけ身体の動きが止まる。
オロフは振り返りこそしなかったが…また銀色の尻尾が千切れんばかりに振りまくっている幻が見えたのは、きっと気のせいだ。
「アルベルト。何処で呪いを受けたか本当に記憶にないのかい?」
「記憶にないから困っている。そのくらいわかるだろ」
「確かに脳筋な君に記憶力を期待しても仕方ないね」
「だったら、最初から聞くな。何の為にお前を呼んだと思ってる」
「ちゃんとわかってるさ。誰がどうして、どういう理由もしくは目的があって呪いを施したかを調べる為だろ?でも、何処でそれを受けたかがわからないと手掛かりすら得られないじゃないか」
「だから、いつどのタイミングでとか聞かれても、そんな記憶がないと言ってるだろ。お前の魔術師としての知識から思い当たる何かはないのか?」
「私は確かに探究心と知識は人並み以上はあるが、残念ながら万能じゃないんでね。パズルを完成させるには、ピースを集めないと完成出来ないんだ。そのピースが足りなさ過ぎるんだよ。君こそその脳筋でもわかることじゃないかね」
フリオさんから改めて俺が呪解した様子を聞いた後、アルベルトさんとエンリケさんの2人はずっとこんな調子で喧嘩腰で言い合っている。
でも本気で喧嘩して言い合っている訳じゃない。
互いに信頼し気を許し合っているからこその言い合いだ。
その証拠にフリオさんがにこにことして、それを眺めている。
ホント、この2人…仲いいよなぁ。
で、俺はというとフリオさんと並んで壁際に立ってはいるんだけど…立ってはいるけど…オロフが後ろに立って抱きつかれている…。ご丁寧に腕を俺の腹に回してクロスして逃げないようにしている。
俺の髪に顔埋めてスンスンと匂いを嗅いだり、頬擦りしたりし続けている。
米神に青筋が立ってピクピクしているのが自分でもわかるが、されるがままに我慢している。
それもこれも、あのエリート眼鏡の指示によるものだ。
理由はわかっている。わかっているからこそこうして我慢してる訳なんだが…正直…ウザい。
もし、これがオロフの膝に座って…とかだったら何が何でも拒否だ。
親が子の膝に座るとか嫌過ぎる。
「スルジェ…グティエレス卿、嫌な臭いが消えました」
小さな声でオロフが耳元で囁いてきた。
「臭い?それ、どういう意味です?教えて下さい」
その名で呼ぶなと窘めようとしたけど、「嫌な臭い」が気になってそのまま話すよう促す。
「以前会った時は、嫌な臭いはしなかったのですが…ここ暫くずっと嫌な臭いがしてました。それが不快で仕方なかったんですが、今日は全くしません。あの嫌な臭いは呪いの影響だったのかと思って…」
臭い…俺や他の人には全くそんなもの感じることはなかった。多分、エンリケさんも感じてはいなかった筈。
オロフだけが感じていたのか?
「どんな臭いでした?」
「簡単に例えと言うと腐敗臭です。スルジェに再会した日がとても酷くて…貴方を彼の側に置きたくなかった…」
それでいきなり連れて帰るとか言い出したのか…。
「オロフ、その臭いのことをあの2人に説明出来ますか?」
「それは構いませんが…後でご褒美下さい」
は?ご褒美?
もう子供じゃないだろ。
頭、撫でときゃいいのか?あぁ、そうだ。蜜の結晶でもいいな。
「考えておきます」
「お話中申し訳ありませんが、レーヴ様のお話をお聞きになって頂いてもよろしいでしょうか?」
「おや、私たちが話をしている間、いちゃついてるだけじゃなかったのかい?」
「いちゃついていません。サーラス様の目は節穴ですか?」
「レーヴ卿は嬉しそうに見えるんだがね」
お前の指示だろうが…。こんにゃろ。
「で、話とは?何か気がついたことがあるなら、是非お教え願いたい」
「はい、レーヴ様。さっさとソファーにお座り下さい。それで先程の話をして下さい」
腕を外してくるりとオロフの後ろに回って背中をぐいぐい押してエリート眼鏡の隣に座らせ、また壁際に戻って立つ。
「スルジュ君。君、レーヴ卿には扱いが割と雑だね」
「そうですか?アデリアの立派な騎士であるレーヴ様に雑な扱いなどする筈がございません。サーラス様、眼鏡を新調される方がよろしいのでは?」
「どうやらスルジュ君はご機嫌斜めらしいね」
「いえ、スル…ジュはいつも優しいです。サーラス卿にはおわかりではないでしょうが、これがいいんです」
おーい。顔を赤くして、誤解を招くようなことを言うなよ…。
俺がまるでドSみたいに聞こえるぞ。
「冗談はその位にして、レーヴ様が感じたことをお話下さい」
オロフは頷くと、俺に話した「臭い」について話をした。
やはりエンリケさんもフリオさんも気がついて…と言うよりは全くわからなかったみたいだった。
俺すらわからなかったことだから、当たり前なんだろうけど。
何故オロフにだけがわかったのかは後回しにして、これは極めて重大な手掛かりの1つにはなる。
それはエンリケさんにもわかったらしく、俺に視線を送って同意を求めてきた。勿論、俺は頷いて肯定した。
「レーヴ卿。卿はレクス公国に滞在して1年になるが、その間に何度もアルベルトと会っているだろ?その臭いとやらはいつ頃からしていたのかわかるかい?」
「そうですね…半年ぐらい前に…いえ、もう少し後か…漠然とした感じで申し訳ないですが、その位前からだとしか」
俺が脱ヒッキー目指してこの街に来た頃か…。
「半年以内と想定出来るだけでも大きな手掛かりだね。どうだいアルベルト、半年以内での任務等で何か思い当たる事はなかったかい?」
腕組みしてずっと黙り込んでいるアルベルトさん。
多分色々と恨みを買うことが多いから、思い当たり過ぎるんだろう。
呪いを受けた時期が大まかでもわかれば大きな手掛かりになるとは思ったけど、甘かったか…。
なら、別の方法を取ればいいだけだ。
「あると言えば…あるが…だが、それがそうであれば呪いの標的は俺ではない…」
「では、何故……半年前…あぁ、なるほど。そうか…それであれば、アルベルトが呪いを受けた理由がわかる。だが…それだと事は大事になる…」
神妙な顔つきで、眼鏡のブリッジを押し上げて独り言のように言うエンリケさんには確証はないものの呪いの真相に辿り着いたぽい。
そして、アルベルトさんも…。
エリート眼鏡の言から、俺も大体の真相らしきものが察することが出来る。
アルベルトさんが標的でないにも関わらず何故呪いを受ける羽目になったのか…本来の標的の身代わり。
アルベルトさんの立場的に考えれば、アルベルトさん自身が恨みを買うこともあるだろうけど、あそこまで陰湿で大掛かりな呪いを仕掛けるのはやはり変だ。
アルベルトさんが身代わりになってもおかしくはない本来の標的はレクス公国大公。
この国の王様だ。
俺がアルベルトさんに提案したことだ。
王宮の書記官でもあり、魔術師でもあるエンリケさんなら何らかの情報を持ってる可能性がある。
約束の時間にぴったりにグティエレス邸の扉のノッカーが叩かれ、俺とフリオさんが出迎えに扉を開けると、エンリケさんの隣には何故か私服姿のオロフが立っていた。
「いらっしゃいませ、エンリケ様。レーヴ様」
フリオさんが挨拶に合わせて頭を下げる。
「やぁ、久し振りだね。スルジュ君」
「ご無沙汰しております」
「あぁ、彼かい?門扉の前でうろうろしてたから連れてきたんだよ。何でも昨日の昼ぐらいから居たらしいよ」
はぁ?昨日の昼って…誰も気づいてなかったぞ…。
誰かしらは必ず出入りしてるから気づく筈だろうに。
あ、まさか見つからないように俺が出て来るのを待ってたのか?
「いやぁ、彼は中々健気だね。君に会いたいが為に外でずっと待ってるとは、そうそう出来るもんじゃないよ、うん」
いやいや、それってストーキングしてんのと変わらなくね?
健気とかそれ以前の問題だぞ…こわっ。
てか、このエリート眼鏡…絶対わかってて言ってんだろ。
「では、書斎の方に…と、ご案内したい処ではありますが、レーヴ様もご一緒でよろしいので?」
オロフは国も違えばアルベルトさんの友人でもない、部外者でしかないからなぁ。
フリオさんが躊躇うのも当たり前だけど、それをわかっていて連れてきたエリート眼鏡には何か考えがあるってことかぁ?
「構わないよ、フリオ。彼も喜んで協力してくれるそうだ。そうだよね?レーヴ卿」
「はい、協力します。スル…ジュが喜ぶなら」
うぉぉぉ、俺には見える。
オロフの尻からふっさふっさ銀色の尻尾がぶんぶんと振られて、「褒めて褒めて」アピールしてるのが…。
疲れてんだな…俺。
「あ、いえ。全然喜びませんので。レーヴ様とは無関係なことですので、とっととお帰り下さって結構です」
「…スル…ジュ、冷たい」
泣くのか?また泣くのか?
うるうるしても駄目なものは駄目だ。
オロフがいるとボロが出そうで落ち着かないんだよ。
ここは冷たくあしらって帰らせるのが1番。
「スルジュ君、少し言い過ぎでは…」
「全然言い過ぎじゃありません。フリオさん、この方にはこのくらいでいいんです」
「邪魔はしません。大人しくしています。口外もしません。痛いのも我慢します。お願いです。少しでも側に…」
こらぁぁぁ。
余計なこと言うでないわっ!
変な誤解されんだろっ!
「おやおや、スルジュ君は随分とレーヴ卿に懐かれているようだね。まぁ、いいじゃないか。君の為であれなんであれ、協力者が多いにことに越したことはないよ。私としては是非レーヴ卿に力添えをお願いしたいからね」
ふーん、なるほどね。
合理的なエリート眼鏡がオロフの協力を必要としてるのか。
「サーラス様がそう仰るなら…構いませんが…」
「やけに歯切れが悪いね。あぁ、なるほど。そういうことか…それならそれで別にいいんだよ」
えっ?そういうことってどういうこと?!
別にいいって、何がいいんだよ?!
さっぱり意味がわからないんですけどっ!!
「では、フリオ。書斎に行こうか。アルベルトも待ちかねているだろ」
おーい、説明してくれよ~。
フリオさんを先頭にしてエリート眼鏡にオロフと続いて俺の順に書斎がある2階への階段を歩いていると、オロフの右手が後ろの俺に向けてちょいちょいと動く。
何かのサインかと思ったけど、意味不明なのでスルー。
それでもちょいちょいの動きは止まらず、だんだんとウザくなってきたので右手を叩いたら…そのまま手を繋がれてしまった。
なんだ…ただ単に手を繋ぎたかっただけかよ。
子供かっ。
ギュッと握られるオロフの掌は硬く荒れていて、剣ダコでごつごつしている。
昔はもっと柔らかかった。剣ダコもあったけどこんなにごつごつもしていなかった。
そっか。こいつはこいつなりに1人で頑張ってたのか…。
お馬鹿なのは変わらないようだけど、まともにちゃんと成長したんだと思うと親代わりをしていた分、やはり嬉しい。
そっと手を握り返してやると、一瞬だけ身体の動きが止まる。
オロフは振り返りこそしなかったが…また銀色の尻尾が千切れんばかりに振りまくっている幻が見えたのは、きっと気のせいだ。
「アルベルト。何処で呪いを受けたか本当に記憶にないのかい?」
「記憶にないから困っている。そのくらいわかるだろ」
「確かに脳筋な君に記憶力を期待しても仕方ないね」
「だったら、最初から聞くな。何の為にお前を呼んだと思ってる」
「ちゃんとわかってるさ。誰がどうして、どういう理由もしくは目的があって呪いを施したかを調べる為だろ?でも、何処でそれを受けたかがわからないと手掛かりすら得られないじゃないか」
「だから、いつどのタイミングでとか聞かれても、そんな記憶がないと言ってるだろ。お前の魔術師としての知識から思い当たる何かはないのか?」
「私は確かに探究心と知識は人並み以上はあるが、残念ながら万能じゃないんでね。パズルを完成させるには、ピースを集めないと完成出来ないんだ。そのピースが足りなさ過ぎるんだよ。君こそその脳筋でもわかることじゃないかね」
フリオさんから改めて俺が呪解した様子を聞いた後、アルベルトさんとエンリケさんの2人はずっとこんな調子で喧嘩腰で言い合っている。
でも本気で喧嘩して言い合っている訳じゃない。
互いに信頼し気を許し合っているからこその言い合いだ。
その証拠にフリオさんがにこにことして、それを眺めている。
ホント、この2人…仲いいよなぁ。
で、俺はというとフリオさんと並んで壁際に立ってはいるんだけど…立ってはいるけど…オロフが後ろに立って抱きつかれている…。ご丁寧に腕を俺の腹に回してクロスして逃げないようにしている。
俺の髪に顔埋めてスンスンと匂いを嗅いだり、頬擦りしたりし続けている。
米神に青筋が立ってピクピクしているのが自分でもわかるが、されるがままに我慢している。
それもこれも、あのエリート眼鏡の指示によるものだ。
理由はわかっている。わかっているからこそこうして我慢してる訳なんだが…正直…ウザい。
もし、これがオロフの膝に座って…とかだったら何が何でも拒否だ。
親が子の膝に座るとか嫌過ぎる。
「スルジェ…グティエレス卿、嫌な臭いが消えました」
小さな声でオロフが耳元で囁いてきた。
「臭い?それ、どういう意味です?教えて下さい」
その名で呼ぶなと窘めようとしたけど、「嫌な臭い」が気になってそのまま話すよう促す。
「以前会った時は、嫌な臭いはしなかったのですが…ここ暫くずっと嫌な臭いがしてました。それが不快で仕方なかったんですが、今日は全くしません。あの嫌な臭いは呪いの影響だったのかと思って…」
臭い…俺や他の人には全くそんなもの感じることはなかった。多分、エンリケさんも感じてはいなかった筈。
オロフだけが感じていたのか?
「どんな臭いでした?」
「簡単に例えと言うと腐敗臭です。スルジェに再会した日がとても酷くて…貴方を彼の側に置きたくなかった…」
それでいきなり連れて帰るとか言い出したのか…。
「オロフ、その臭いのことをあの2人に説明出来ますか?」
「それは構いませんが…後でご褒美下さい」
は?ご褒美?
もう子供じゃないだろ。
頭、撫でときゃいいのか?あぁ、そうだ。蜜の結晶でもいいな。
「考えておきます」
「お話中申し訳ありませんが、レーヴ様のお話をお聞きになって頂いてもよろしいでしょうか?」
「おや、私たちが話をしている間、いちゃついてるだけじゃなかったのかい?」
「いちゃついていません。サーラス様の目は節穴ですか?」
「レーヴ卿は嬉しそうに見えるんだがね」
お前の指示だろうが…。こんにゃろ。
「で、話とは?何か気がついたことがあるなら、是非お教え願いたい」
「はい、レーヴ様。さっさとソファーにお座り下さい。それで先程の話をして下さい」
腕を外してくるりとオロフの後ろに回って背中をぐいぐい押してエリート眼鏡の隣に座らせ、また壁際に戻って立つ。
「スルジュ君。君、レーヴ卿には扱いが割と雑だね」
「そうですか?アデリアの立派な騎士であるレーヴ様に雑な扱いなどする筈がございません。サーラス様、眼鏡を新調される方がよろしいのでは?」
「どうやらスルジュ君はご機嫌斜めらしいね」
「いえ、スル…ジュはいつも優しいです。サーラス卿にはおわかりではないでしょうが、これがいいんです」
おーい。顔を赤くして、誤解を招くようなことを言うなよ…。
俺がまるでドSみたいに聞こえるぞ。
「冗談はその位にして、レーヴ様が感じたことをお話下さい」
オロフは頷くと、俺に話した「臭い」について話をした。
やはりエンリケさんもフリオさんも気がついて…と言うよりは全くわからなかったみたいだった。
俺すらわからなかったことだから、当たり前なんだろうけど。
何故オロフにだけがわかったのかは後回しにして、これは極めて重大な手掛かりの1つにはなる。
それはエンリケさんにもわかったらしく、俺に視線を送って同意を求めてきた。勿論、俺は頷いて肯定した。
「レーヴ卿。卿はレクス公国に滞在して1年になるが、その間に何度もアルベルトと会っているだろ?その臭いとやらはいつ頃からしていたのかわかるかい?」
「そうですね…半年ぐらい前に…いえ、もう少し後か…漠然とした感じで申し訳ないですが、その位前からだとしか」
俺が脱ヒッキー目指してこの街に来た頃か…。
「半年以内と想定出来るだけでも大きな手掛かりだね。どうだいアルベルト、半年以内での任務等で何か思い当たる事はなかったかい?」
腕組みしてずっと黙り込んでいるアルベルトさん。
多分色々と恨みを買うことが多いから、思い当たり過ぎるんだろう。
呪いを受けた時期が大まかでもわかれば大きな手掛かりになるとは思ったけど、甘かったか…。
なら、別の方法を取ればいいだけだ。
「あると言えば…あるが…だが、それがそうであれば呪いの標的は俺ではない…」
「では、何故……半年前…あぁ、なるほど。そうか…それであれば、アルベルトが呪いを受けた理由がわかる。だが…それだと事は大事になる…」
神妙な顔つきで、眼鏡のブリッジを押し上げて独り言のように言うエンリケさんには確証はないものの呪いの真相に辿り着いたぽい。
そして、アルベルトさんも…。
エリート眼鏡の言から、俺も大体の真相らしきものが察することが出来る。
アルベルトさんが標的でないにも関わらず何故呪いを受ける羽目になったのか…本来の標的の身代わり。
アルベルトさんの立場的に考えれば、アルベルトさん自身が恨みを買うこともあるだろうけど、あそこまで陰湿で大掛かりな呪いを仕掛けるのはやはり変だ。
アルベルトさんが身代わりになってもおかしくはない本来の標的はレクス公国大公。
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