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12話
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★アルベルト視点
ジーロが席を立って、俺は彼にこれからどうするのかと尋ねた。
出来る事ならば、この街に移住し定住して欲しい。彼がまた流浪の民として旅に出るとしたら、俺にそれを止める権限などどこにも無い。
そう思うと胸の奥がジリジリと焦げる様に痛む。
「そうですね、新しい身分証も欲しいので、こちらの街に移住しようかと思います。街の外れにでも小さな家が買えるなら…」
まだ俺にはチャンスがある…。
彼がこの街に落ち着くというのであれば、彼と交友を深めつつ時間をかけ口説いて俺へと気持ちが向くように仕向ける事も出来る。
「そうか…じゃ、この街に残るのか…では」
先ずは友にならないか…と最後まで言えず唇を噛み締める。
ジーロが戻って来たからだ、ジーロに非は無いのだが少し恨めしい。
テーブルに置かれた2枚のアデリア古金貨。
見比べるようにジーロに言われ、身を乗り出して俺は見た。
1つはアデリア聖殿。もう1つは美しい横顔の人物。
「あっ」
俺は思わず声を漏らしてしまう。
横にいる彼に似ていた…肩までの不揃いな髪の長さも同じだった。
「あぁ、確かに似ているな…と言うか瓜二つではないか?」
俺の発した言葉に、彼は穏やかではあるが強く否定した。
その強い否定で俺は確信した。彼は間違いなく英雄ドーンの血脈を継ぐ者だと。ジーロも同様に確信したようだった。
しかし、当の本人が頑なにまで否定し、詮索される事を嫌がっている。何か理由があるのだろう。
もしかしたら、村を焼き討ちにされたのはそれが原因なのかもしれない。野盗ではなかった可能性は否めない。
そう思うと気の毒という同情より、頭の芯まで熱くなる怒りが込み上げてくる。
英雄ドーンの末裔となればアデリア王国の貴族としての地位を約束されているようなものだが、彼は自分には関係ないと言い切り、更にジーロから提案されたオークションに対しても必要以上の金は要らないと断りを入れた。
彼ぐらいの年齢の若い男だと普通は地位や金に対するギラギラとした強い欲があってもいい筈なのだが、彼にはそれが無い。欲が無さ過ぎると言っていい。
ジーロに対する言葉と口調は、辺境から流れて来た流浪の民とは思えないぐらい饒舌で商人であるジーロを黙らせた。
彼が20歳そこそこの若者に見えないこの不思議な違和感は何なのだろう。
そんな違和感を感じていると、今度は可愛らしい子供っぽい仕草を見せる。
あまりにもちぐはぐな彼に俺はますます惹かれてしまう。
彼は口先だけでなく本当に俺を信用していてくれていた。
素直に嬉しいという気持ちが込み上がる。
俺が最初に怪しんでいたのは、彼にはわかっていたらしい。それは潔く認めよう。
だが、今は違う。俺もちゃんと信用している。
信用を得たなら、友になって欲しいと言っても引かれる事はないだろう。
ただの親切な人から段階を上げて、信用出来る友という立ち位置から始めなくてならないのはもどかしいが、下手にすっ飛ばして言い寄ってしまうと間違いなく逃げられてしまう。そんな気がする。
あぁ、彼に触れて抱き締めたい。
あの形のいい唇にキスして、俺の名前を呼ばせたい…。
あの澄んだ湖の様な青い瞳で、俺だけを見て欲しい…。
彼を甘やかして可愛がってグズグズにさせて俺に縋りつかせたい…。
横に座る俺がまさかこんな思いを抱いているとは、彼は全く想像もしてないだろうな。
彼は失われたアイテムボックスの所持者だった。
ジーロからの説明で初めて俺はアイテムボックスの存在を知ったが、単に便利で重宝する物だけではないと俺は思った。
軍事利用すればどれだけ役立つ事か、現在の状況からすれば目に見えてわかる。
他国への軍事侵攻する時に要になるのは兵力ではない。兵糧だ。いかな大軍勢であっても食糧が無くては兵は飢える。大量の食糧を現地調達など到底無理だ。
もし軍にアイテムボックス所持者が多数いれば、兵糧は常に確保され兵糧運搬ルートを狙われる事が無くなる。
一介の騎士である俺でも思いつく事だ。軍職に就く者なら誰でもそう思う筈だ。
彼が所持者と知られてしまえば捕らえられ、アイテムボックスを手にする術を聞き出すに違いない。
俺は危機感に背中が粟立つ。
だが、彼は易々と俺とジーロに所持出来るヒントを話した。
何故それを知っているのかと疑問に思ったが、彼が英雄ドーンの末裔なら知っていてもおかしくはない気がした。
他言無用と口止めをしたが、どうやら特定の条件とアイテムが揃わなくては誰もが所持出来るものではないらしい。
皆所持出来るものではないと知ると俺は少し安心したが、やはりそれを知る彼は危険過ぎる。
俺は心に決めた。
世間を知っているようで知らない彼を一切の危険から切り離す為に俺のテリトリー内に保護し隠す。
彼に知られてはならない。知られてしまえば、きっと彼は俺の前から何処かへ消えてしまう…それは絶対駄目だ。
ジーロが席を立って、俺は彼にこれからどうするのかと尋ねた。
出来る事ならば、この街に移住し定住して欲しい。彼がまた流浪の民として旅に出るとしたら、俺にそれを止める権限などどこにも無い。
そう思うと胸の奥がジリジリと焦げる様に痛む。
「そうですね、新しい身分証も欲しいので、こちらの街に移住しようかと思います。街の外れにでも小さな家が買えるなら…」
まだ俺にはチャンスがある…。
彼がこの街に落ち着くというのであれば、彼と交友を深めつつ時間をかけ口説いて俺へと気持ちが向くように仕向ける事も出来る。
「そうか…じゃ、この街に残るのか…では」
先ずは友にならないか…と最後まで言えず唇を噛み締める。
ジーロが戻って来たからだ、ジーロに非は無いのだが少し恨めしい。
テーブルに置かれた2枚のアデリア古金貨。
見比べるようにジーロに言われ、身を乗り出して俺は見た。
1つはアデリア聖殿。もう1つは美しい横顔の人物。
「あっ」
俺は思わず声を漏らしてしまう。
横にいる彼に似ていた…肩までの不揃いな髪の長さも同じだった。
「あぁ、確かに似ているな…と言うか瓜二つではないか?」
俺の発した言葉に、彼は穏やかではあるが強く否定した。
その強い否定で俺は確信した。彼は間違いなく英雄ドーンの血脈を継ぐ者だと。ジーロも同様に確信したようだった。
しかし、当の本人が頑なにまで否定し、詮索される事を嫌がっている。何か理由があるのだろう。
もしかしたら、村を焼き討ちにされたのはそれが原因なのかもしれない。野盗ではなかった可能性は否めない。
そう思うと気の毒という同情より、頭の芯まで熱くなる怒りが込み上げてくる。
英雄ドーンの末裔となればアデリア王国の貴族としての地位を約束されているようなものだが、彼は自分には関係ないと言い切り、更にジーロから提案されたオークションに対しても必要以上の金は要らないと断りを入れた。
彼ぐらいの年齢の若い男だと普通は地位や金に対するギラギラとした強い欲があってもいい筈なのだが、彼にはそれが無い。欲が無さ過ぎると言っていい。
ジーロに対する言葉と口調は、辺境から流れて来た流浪の民とは思えないぐらい饒舌で商人であるジーロを黙らせた。
彼が20歳そこそこの若者に見えないこの不思議な違和感は何なのだろう。
そんな違和感を感じていると、今度は可愛らしい子供っぽい仕草を見せる。
あまりにもちぐはぐな彼に俺はますます惹かれてしまう。
彼は口先だけでなく本当に俺を信用していてくれていた。
素直に嬉しいという気持ちが込み上がる。
俺が最初に怪しんでいたのは、彼にはわかっていたらしい。それは潔く認めよう。
だが、今は違う。俺もちゃんと信用している。
信用を得たなら、友になって欲しいと言っても引かれる事はないだろう。
ただの親切な人から段階を上げて、信用出来る友という立ち位置から始めなくてならないのはもどかしいが、下手にすっ飛ばして言い寄ってしまうと間違いなく逃げられてしまう。そんな気がする。
あぁ、彼に触れて抱き締めたい。
あの形のいい唇にキスして、俺の名前を呼ばせたい…。
あの澄んだ湖の様な青い瞳で、俺だけを見て欲しい…。
彼を甘やかして可愛がってグズグズにさせて俺に縋りつかせたい…。
横に座る俺がまさかこんな思いを抱いているとは、彼は全く想像もしてないだろうな。
彼は失われたアイテムボックスの所持者だった。
ジーロからの説明で初めて俺はアイテムボックスの存在を知ったが、単に便利で重宝する物だけではないと俺は思った。
軍事利用すればどれだけ役立つ事か、現在の状況からすれば目に見えてわかる。
他国への軍事侵攻する時に要になるのは兵力ではない。兵糧だ。いかな大軍勢であっても食糧が無くては兵は飢える。大量の食糧を現地調達など到底無理だ。
もし軍にアイテムボックス所持者が多数いれば、兵糧は常に確保され兵糧運搬ルートを狙われる事が無くなる。
一介の騎士である俺でも思いつく事だ。軍職に就く者なら誰でもそう思う筈だ。
彼が所持者と知られてしまえば捕らえられ、アイテムボックスを手にする術を聞き出すに違いない。
俺は危機感に背中が粟立つ。
だが、彼は易々と俺とジーロに所持出来るヒントを話した。
何故それを知っているのかと疑問に思ったが、彼が英雄ドーンの末裔なら知っていてもおかしくはない気がした。
他言無用と口止めをしたが、どうやら特定の条件とアイテムが揃わなくては誰もが所持出来るものではないらしい。
皆所持出来るものではないと知ると俺は少し安心したが、やはりそれを知る彼は危険過ぎる。
俺は心に決めた。
世間を知っているようで知らない彼を一切の危険から切り離す為に俺のテリトリー内に保護し隠す。
彼に知られてはならない。知られてしまえば、きっと彼は俺の前から何処かへ消えてしまう…それは絶対駄目だ。
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