13 / 48
12話
しおりを挟む
★アルベルト視点
ジーロが席を立って、俺は彼にこれからどうするのかと尋ねた。
出来る事ならば、この街に移住し定住して欲しい。彼がまた流浪の民として旅に出るとしたら、俺にそれを止める権限などどこにも無い。
そう思うと胸の奥がジリジリと焦げる様に痛む。
「そうですね、新しい身分証も欲しいので、こちらの街に移住しようかと思います。街の外れにでも小さな家が買えるなら…」
まだ俺にはチャンスがある…。
彼がこの街に落ち着くというのであれば、彼と交友を深めつつ時間をかけ口説いて俺へと気持ちが向くように仕向ける事も出来る。
「そうか…じゃ、この街に残るのか…では」
先ずは友にならないか…と最後まで言えず唇を噛み締める。
ジーロが戻って来たからだ、ジーロに非は無いのだが少し恨めしい。
テーブルに置かれた2枚のアデリア古金貨。
見比べるようにジーロに言われ、身を乗り出して俺は見た。
1つはアデリア聖殿。もう1つは美しい横顔の人物。
「あっ」
俺は思わず声を漏らしてしまう。
横にいる彼に似ていた…肩までの不揃いな髪の長さも同じだった。
「あぁ、確かに似ているな…と言うか瓜二つではないか?」
俺の発した言葉に、彼は穏やかではあるが強く否定した。
その強い否定で俺は確信した。彼は間違いなく英雄ドーンの血脈を継ぐ者だと。ジーロも同様に確信したようだった。
しかし、当の本人が頑なにまで否定し、詮索される事を嫌がっている。何か理由があるのだろう。
もしかしたら、村を焼き討ちにされたのはそれが原因なのかもしれない。野盗ではなかった可能性は否めない。
そう思うと気の毒という同情より、頭の芯まで熱くなる怒りが込み上げてくる。
英雄ドーンの末裔となればアデリア王国の貴族としての地位を約束されているようなものだが、彼は自分には関係ないと言い切り、更にジーロから提案されたオークションに対しても必要以上の金は要らないと断りを入れた。
彼ぐらいの年齢の若い男だと普通は地位や金に対するギラギラとした強い欲があってもいい筈なのだが、彼にはそれが無い。欲が無さ過ぎると言っていい。
ジーロに対する言葉と口調は、辺境から流れて来た流浪の民とは思えないぐらい饒舌で商人であるジーロを黙らせた。
彼が20歳そこそこの若者に見えないこの不思議な違和感は何なのだろう。
そんな違和感を感じていると、今度は可愛らしい子供っぽい仕草を見せる。
あまりにもちぐはぐな彼に俺はますます惹かれてしまう。
彼は口先だけでなく本当に俺を信用していてくれていた。
素直に嬉しいという気持ちが込み上がる。
俺が最初に怪しんでいたのは、彼にはわかっていたらしい。それは潔く認めよう。
だが、今は違う。俺もちゃんと信用している。
信用を得たなら、友になって欲しいと言っても引かれる事はないだろう。
ただの親切な人から段階を上げて、信用出来る友という立ち位置から始めなくてならないのはもどかしいが、下手にすっ飛ばして言い寄ってしまうと間違いなく逃げられてしまう。そんな気がする。
あぁ、彼に触れて抱き締めたい。
あの形のいい唇にキスして、俺の名前を呼ばせたい…。
あの澄んだ湖の様な青い瞳で、俺だけを見て欲しい…。
彼を甘やかして可愛がってグズグズにさせて俺に縋りつかせたい…。
横に座る俺がまさかこんな思いを抱いているとは、彼は全く想像もしてないだろうな。
彼は失われたアイテムボックスの所持者だった。
ジーロからの説明で初めて俺はアイテムボックスの存在を知ったが、単に便利で重宝する物だけではないと俺は思った。
軍事利用すればどれだけ役立つ事か、現在の状況からすれば目に見えてわかる。
他国への軍事侵攻する時に要になるのは兵力ではない。兵糧だ。いかな大軍勢であっても食糧が無くては兵は飢える。大量の食糧を現地調達など到底無理だ。
もし軍にアイテムボックス所持者が多数いれば、兵糧は常に確保され兵糧運搬ルートを狙われる事が無くなる。
一介の騎士である俺でも思いつく事だ。軍職に就く者なら誰でもそう思う筈だ。
彼が所持者と知られてしまえば捕らえられ、アイテムボックスを手にする術を聞き出すに違いない。
俺は危機感に背中が粟立つ。
だが、彼は易々と俺とジーロに所持出来るヒントを話した。
何故それを知っているのかと疑問に思ったが、彼が英雄ドーンの末裔なら知っていてもおかしくはない気がした。
他言無用と口止めをしたが、どうやら特定の条件とアイテムが揃わなくては誰もが所持出来るものではないらしい。
皆所持出来るものではないと知ると俺は少し安心したが、やはりそれを知る彼は危険過ぎる。
俺は心に決めた。
世間を知っているようで知らない彼を一切の危険から切り離す為に俺のテリトリー内に保護し隠す。
彼に知られてはならない。知られてしまえば、きっと彼は俺の前から何処かへ消えてしまう…それは絶対駄目だ。
ジーロが席を立って、俺は彼にこれからどうするのかと尋ねた。
出来る事ならば、この街に移住し定住して欲しい。彼がまた流浪の民として旅に出るとしたら、俺にそれを止める権限などどこにも無い。
そう思うと胸の奥がジリジリと焦げる様に痛む。
「そうですね、新しい身分証も欲しいので、こちらの街に移住しようかと思います。街の外れにでも小さな家が買えるなら…」
まだ俺にはチャンスがある…。
彼がこの街に落ち着くというのであれば、彼と交友を深めつつ時間をかけ口説いて俺へと気持ちが向くように仕向ける事も出来る。
「そうか…じゃ、この街に残るのか…では」
先ずは友にならないか…と最後まで言えず唇を噛み締める。
ジーロが戻って来たからだ、ジーロに非は無いのだが少し恨めしい。
テーブルに置かれた2枚のアデリア古金貨。
見比べるようにジーロに言われ、身を乗り出して俺は見た。
1つはアデリア聖殿。もう1つは美しい横顔の人物。
「あっ」
俺は思わず声を漏らしてしまう。
横にいる彼に似ていた…肩までの不揃いな髪の長さも同じだった。
「あぁ、確かに似ているな…と言うか瓜二つではないか?」
俺の発した言葉に、彼は穏やかではあるが強く否定した。
その強い否定で俺は確信した。彼は間違いなく英雄ドーンの血脈を継ぐ者だと。ジーロも同様に確信したようだった。
しかし、当の本人が頑なにまで否定し、詮索される事を嫌がっている。何か理由があるのだろう。
もしかしたら、村を焼き討ちにされたのはそれが原因なのかもしれない。野盗ではなかった可能性は否めない。
そう思うと気の毒という同情より、頭の芯まで熱くなる怒りが込み上げてくる。
英雄ドーンの末裔となればアデリア王国の貴族としての地位を約束されているようなものだが、彼は自分には関係ないと言い切り、更にジーロから提案されたオークションに対しても必要以上の金は要らないと断りを入れた。
彼ぐらいの年齢の若い男だと普通は地位や金に対するギラギラとした強い欲があってもいい筈なのだが、彼にはそれが無い。欲が無さ過ぎると言っていい。
ジーロに対する言葉と口調は、辺境から流れて来た流浪の民とは思えないぐらい饒舌で商人であるジーロを黙らせた。
彼が20歳そこそこの若者に見えないこの不思議な違和感は何なのだろう。
そんな違和感を感じていると、今度は可愛らしい子供っぽい仕草を見せる。
あまりにもちぐはぐな彼に俺はますます惹かれてしまう。
彼は口先だけでなく本当に俺を信用していてくれていた。
素直に嬉しいという気持ちが込み上がる。
俺が最初に怪しんでいたのは、彼にはわかっていたらしい。それは潔く認めよう。
だが、今は違う。俺もちゃんと信用している。
信用を得たなら、友になって欲しいと言っても引かれる事はないだろう。
ただの親切な人から段階を上げて、信用出来る友という立ち位置から始めなくてならないのはもどかしいが、下手にすっ飛ばして言い寄ってしまうと間違いなく逃げられてしまう。そんな気がする。
あぁ、彼に触れて抱き締めたい。
あの形のいい唇にキスして、俺の名前を呼ばせたい…。
あの澄んだ湖の様な青い瞳で、俺だけを見て欲しい…。
彼を甘やかして可愛がってグズグズにさせて俺に縋りつかせたい…。
横に座る俺がまさかこんな思いを抱いているとは、彼は全く想像もしてないだろうな。
彼は失われたアイテムボックスの所持者だった。
ジーロからの説明で初めて俺はアイテムボックスの存在を知ったが、単に便利で重宝する物だけではないと俺は思った。
軍事利用すればどれだけ役立つ事か、現在の状況からすれば目に見えてわかる。
他国への軍事侵攻する時に要になるのは兵力ではない。兵糧だ。いかな大軍勢であっても食糧が無くては兵は飢える。大量の食糧を現地調達など到底無理だ。
もし軍にアイテムボックス所持者が多数いれば、兵糧は常に確保され兵糧運搬ルートを狙われる事が無くなる。
一介の騎士である俺でも思いつく事だ。軍職に就く者なら誰でもそう思う筈だ。
彼が所持者と知られてしまえば捕らえられ、アイテムボックスを手にする術を聞き出すに違いない。
俺は危機感に背中が粟立つ。
だが、彼は易々と俺とジーロに所持出来るヒントを話した。
何故それを知っているのかと疑問に思ったが、彼が英雄ドーンの末裔なら知っていてもおかしくはない気がした。
他言無用と口止めをしたが、どうやら特定の条件とアイテムが揃わなくては誰もが所持出来るものではないらしい。
皆所持出来るものではないと知ると俺は少し安心したが、やはりそれを知る彼は危険過ぎる。
俺は心に決めた。
世間を知っているようで知らない彼を一切の危険から切り離す為に俺のテリトリー内に保護し隠す。
彼に知られてはならない。知られてしまえば、きっと彼は俺の前から何処かへ消えてしまう…それは絶対駄目だ。
17
お気に入りに追加
3,751
あなたにおすすめの小説
少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
悪役令嬢の義弟に転生した俺は虐げられる
西楓
BL
悪役令嬢の義弟になったときに俺はゲームの世界に転生したことを知る。ゲームの中で俺は悪役令嬢に虐待される悪役令嬢の義弟で、攻略対象だった。悪役令嬢が断罪するその日まで俺は…
整いすぎた人形のような美貌の義父は…
Rシーンには※をつけてます。
※完結としていたのですが、その後を数話追加しますので連載中に戻しました。
転生して羽根が生えた僕の異世界生活
いんげん
BL
まったり転生ものです。階段落ちした主人公が、卵の中に、転生します。
本来なら番が迎えにくるはずなのに…どうなる主人公。
天人という羽の生えた種族の番に転生。
番のお迎えが間に合わず、ちっこい羽の出来損ないに…。主人公はアホ可愛い系です。
ちょいちょい変態っぽいエロが入ります。
当て馬が出て来ます。
かなりふざけたラブコメになりつつあります…そして、ツッコミ役は貴方ですwww
読みたいものを、書いてみようと思いチャレンジ!
色々未定です。タグはそのたびに増やします
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる