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13話

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 団長様に連れて行きて貰った食堂は、俗にいわゆる大衆食堂ではなかった。ちょっとお洒落なレストランというかカフェに近い。オープンスペースもある。
 そしてお客さんで人がいっぱいだった。


 いやいやいやいや。
 こんなお洒落なレストランとか、俺無理だから!人多過ぎ!!
 ハードル高いって…。
 ほら、俺こんな顔だよ?火傷痕シール貼っ付けてるだけなんだけどさ!流石に店側も嫌がるって!
 てか、俺が1番嫌なんだけど…あぁ、もう…セーフハウスに帰りたい。


 完全に逃げ腰になっている俺が店内に入らず立ち尽くしていると、先に入っていた団長様がついて来ていない事に気がついて戻ってきた。
 

「中に入らないのか?」

「グティエレス様、本日は色々とお世話になりありがとうございました。急用を思い出しましたので私はこれで失礼致します。銀貨5枚は門番兵さんの詰所にお届けしておきますので…それでは…」


 口早に告げ頭を思っ切り下げて回れ右をする。走って逃げ出したいのを堪えて足早に歩き始める。
 急用なんてある筈もない。俺が見え透いた嘘を言っているのは団長様もわかる筈だ。気を悪くするだろう。だけど、そんなのはもうどうでもいい。


「ドーン君っ、待ってくれっ!」


 俺の腕を掴んで引き止められた。掴んだ手に引っ張られて俺はバランスを崩す。が、団長様に抱き止められて転ばずに済んだ。流石騎士団長なだけに力が強いなと、呑気なことを考えてしまうのが俺なんだよな。
 抱き止められて、顔を上げると団長様と目がばっちり合う。その真っ黒な目が「お願い、行かないで」と必死に訴えている気がした。前世で子供の頃飼ってたワンコもよくこんな目をして俺を見てたよな…。


「はな…して、頂け…ません…か?」

「あっ、すまない」

「受け止めて頂きありがとうございました。では、私はこれで…」

「いや、だから待ってくれ!逃げないでくれ…。頼むからとりあえず俺の話を聞いてくれ。あんなに客がいるとは思わなかったんだ。ちゃんと個室を頼むつもりでいたが、俺の配慮が足りなかった…すまん。あの店がどうしても嫌ならやめる。その代わり俺の屋敷で飯を食おう!あぁ、そうだ…それがいいドーン君、そうしよう」


 おい、一方的に話を進めるんじゃねぇよ、おっさん!と叫びたい気持ちを堪えた。
 だが、不意に何故か団長様のお屋敷に行ってみたくなった。美人な奥方様や可愛い子供さんを見てみたい。
 暖かい家庭なんて前世でも子供の頃ぐらいしか味わった事がない。俺はそれならと頷いて承諾した。

 そしてどういう訳か俺が逃げないようにと左手首を握られたまま歩く羽目にもなった。すれ違う人に変な目で見られて、視線が痛かったのは言うまでもない…。

 団長様のお屋敷に行くなら、手ぶらは流石にまずい。ふと目に入った高級なそうな菓子店を見た。お客さんがいないのを確認して、そこで美人な奥方様と可愛い子供さんへの手土産を買うことにした。店員に嫌がられても手土産は必須だ。


「グティエレス様、お願いがあります。あの菓子店に入りたいので手を離して頂けませんか?」


 俺の向けた視線の先にある菓子店を見ると、手を離すどころか逆に離すものかとばかりに握り直された。


「一緒に行こう」


 何が嬉しくて男2人で菓子店に入らないといかんのだと、拒否する間もなく菓子屋へ連行された。
 流石に店内に入ると手を離してはくれたが、入口のドアの前にやはり逃すものかと言わんばかりに立たれる。
 俺はショーケースにある焼き菓子を適当に頼んで贈答用にラッピングして貰い、支払いに金貨を使った。これで銀貨5枚は直ぐにでも団長様にお返し出来る。


「お待たせしました」

「甘いものが好きなのか?」

「いえ、特に好きという訳でもありませんが、お土産にはこれが良いかと思いまして」

「そうか…では行くぞ」


 何故か微妙な顔をされたが、焼き菓子を詰め合わた箱を取り上げられると、また左手首を掴まれてしまった。


 はぁ…マジ勘弁して欲しい。



 それから程なくして、団長様のお屋敷に到着した。
 思ったより豪華なお屋敷ではなかったけど、庭園とかあってきれいに手入れされてきちんと管理されている。だけど庭園の緑が妙に元気がない様に見える気がした。
 団長様を出迎えに、見るからこれぞまさに執事的な初老の執事さんと年配のふくよかなメイドさんの2人が出てきた。
 団長様は、メイドさんに2人分の食事を言いつけると菓子箱は執事さんに渡した。


「こちらのドーン君からの手土産だそうだ」

「こんにちは。初めまして、スルジュ・ドーンです。いきなりの訪問で申し訳ありません」


 やっと手首を解放されて俺は執事さんとメイドさんに頭を下げて挨拶した。
 俺の挨拶に2人は驚き言葉を失っていたが、俺の顔を見ても嫌な顔をするどころか笑顔を見せて歓迎してくれた。
 メイドさんに至っては、俺に食べ物で好きな物や嫌いな物があるかと愛嬌のある笑顔で聞いてくれた。
 

「先程のお土産は焼き菓子なので、グティエレス様の奥方様とお子様にお渡し頂けますか?」


 俺の言葉に執事さんとメイドさんが2人して顔を見合わせると、主人である団長様の顔を明らかに呆れた顔で見ている。
 団長様はワザとらしく咳払いを1つした。


「ドーン君、いないんだ…」

「外出中ですか?」

「あ、いや。そうでなくて…。俺は独身で未だかつて結婚はした事はないし、子供もいない」

 えーっ!
 団長様…独身だったのか…。


 団長様と美人な奥方様と可愛い子供が居間で楽しく団欒しているイメージがガラガラと崩れ去った。
 暖かい家庭を期待していた俺は少しがっかりする。


「これは失礼致しました。それではどうぞ皆様でお食べ下さい」


 執事さんとメイドさんは笑顔で礼を言ってくれた。
 この感じからするとどうやら団長様は使用人の人たちを家族の様に接しているのかもしれない。





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