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第51話 任命式1

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 学校が夏休みに入ったけれど、僕は忙しい日々を送っていた。宣伝大使を引き受けるにあたって、知り合いの人達に説明したり協力してもらうため会って話をしたり、メールで連絡したりしていたから。

 それから、宣伝大使の件について提案してくれた久遠さんに正式に引き受ける旨を伝えると、彼女はとても喜んでくれた。すぐに任命するにあたって必要な手続きや、詳細な打ち合わせなどが何度も行われた。

 そして、宣伝大使の任命式は8月に入ってすぐ行われることになった。

 場所は、市内のホテルにある多目的ホールで行われることに。国の偉い人が来て、任命書を渡されるらしい。その様子が、テレビでも放送されるそうだ。

 そんな仰々しい任命式になるなんて、思ってもみなかった。もっと、小規模なものだと思っていたのに。僕が想像している以上に、宣伝大使という立場は重要なものなのかもしれない。前もって、皆に伝えておいてよかった。

 任命式の当日の朝、家の前に黒塗りの車が止まった。車の中からスーツを着た女性が降りてきた。その人は、僕の前まで来ると深々と頭を下げた。

「おはようございます、七沢さん」
「久遠さん、おはようございます」

 いつもの通り、クールな表情で挨拶をする彼女。今日もスーツをびしっと着こなしている。

「本日は、私が七沢さんをご案内させていただきます」
「すみません、わざわざ家まで迎えに来ていただいて」
「問題ありません。仕事ですから」
「ありがとうございます」

 久遠さんは、車の後部座席のドアを開けてくれる。車に乗り込む前に、僕は後ろを振り返る。

「それじゃあ行ってくるね、母さん」
「ええ、行ってらっしゃい。頑張って」

 母親に見送られながら、僕は車に乗り込んだ。久遠さんも乗ってドアを閉めると、すぐに車は動き出した。

「本日行われる任命式のスケジュールについて、簡単に説明させていただきます」
「はい、お願いします」

 目的地へ向かう車の中で、久遠さんから資料を受け取って任命式についての説明をしてもらった。その都度、指示してくれるそうなので全て覚える必要はないとのことらしいけれど、念のために集中して聞いておく。



 まず最初に多目的ホールで、国の重鎮たちの前で挨拶をして任命書を受け取る。

 それが終わると、今度はテレビ局の取材があるそうだ。内容はインタビューと写真撮影だそう。その後、昼食を挟んでから記者会見を行うことになっている。

 もちろん、マスコミ関係者以外にも多くの人たちが出席するみたい。その中には、総理大臣も含まれているらしい。

「以上になります。何か質問などはありますか?」
「……いえ、特には」

 久遠さんの話を聞き終えた僕は、渡された資料に何度も目を通した。細かいところまで色々と書いてある。こんなにたくさんのことをやるんだな。

 それに、総理大臣が来るなんて。まだ、あんまり実感がわかない。けれど、これは凄いことなんだろうなと思う。前の人生だと、一切関わりのなかった国の偉い人達と顔を合わせる。これからのことを思うと、すごく緊張してきた。

「到着しました」

 車が停まって、久遠さんがそう言った。窓の外を見てみると、とても大きな建物が見えた。あれが、今日これから任命式を行う場所。

「七沢さん、こちらです」

 久遠さんの他に、僕はボディーガードらしき女性達に周りを囲まれて一緒に歩く。建物の中に入ると、中はとても広々としていた。高級そうな家具が置かれているし、床もピカピカで綺麗だ。天井も高いし、シャンデリアのようなものもある。まるで、どこかのお城みたい。

 高級ホテルだな、ここ。一泊するのに何十万もかかりそう。そんな感想を抱いた。

「こちらが控室です」

 そう言って通されたのは、宴会場みたいな広い部屋だった。真ん中にはテーブルが置かれていて、その上には化粧道具が大量に置いてあった。他にはソファーや椅子もある。壁際には、スーツや洋服が何十着も用意されている。その横に、アクセサリーなどが入ったケースが置かれていた。その他にも、何に使うのかわからないような物がたくさん置いてある。

「来たね。待っていたよ」
「おはよう、チーさん。来てくれてありがとう」
「これぐらい、お安い御用さ」

 先に来て待っていた智恵子さんに挨拶する。いつも僕が着ている服を選んでくれたり、ファッションについて相談に乗ってくれる頼りになるお姉さん。今日の任命式は、彼女に厳選してもらった衣装で参加する。そのために、わざわざ来てもらった。

「小川さんも、おはようございます。そして、今日はよろしくおねがいしますね」
「は、ハイッ! 一生懸命、頑張りますッ!」

 いつもヘアカットを任せている、美容師の小川さんにも来てもらった。ヘアセットをお願いするため、智恵子さんと一緒に来てもらったのだ。

 彼女はガチガチに緊張しながら、返事をした。いつも以上に声が上ずっている気がする。そんな彼女の様子に、僕と智恵子さんは苦笑するしかなかった。だけど、腕は確かなので安心して任せられる。ちゃんと仕上げてくれるはずだと、信頼していた。

 他にも、何人かスタッフさん達がいるみたいだ。皆忙しそうに動いている。そんな中、僕は用意されていた椅子に座った。早速、任命式に出るための準備が始まる。

 されるがまま、僕はメイクやら髪形を整えてもらった。
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