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第52話 任命式2

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「着替えは、そちらのスペースでお願いします」
「あ、はい」

 スタッフの人に言われて、指差された方を見る。そこに、大きな壁のようなものがあった。中が完全に見れないような高さ。

「スーツは、これを着なさい」
「ありがとう、チーさん。それじゃあ、着替えてくるね」

 ヘアメイクが完了して、智恵子さんに用意してもらったスーツを受け取ってから、用意してもらった着替えスペースに移動して、服を着替える。その間、他の人たちはスペースの外で待機してくれていた。

 着替えが覗かれないように配慮してくれたみたいだけど、ここまで厳重にする必要はないと思うんだけどなぁ。なんだか、少し申し訳ない気持ち。さっさと着替えて、外に出よう。

 ネクタイを締めるのは久しぶりだったので少し手間取ったけど、それなりに格好がついたと思う。

 鏡で確認してみたところ、なかなかいい感じになっていた。さすが、智恵子さんの選んでくれた服だ。間違いがない。

 自分で言うのもなんだけど、かなり似合っているんじゃないかな?

 自画自賛しながら、皆の反応も気になったので確認してみよう。着替えスペースの外へ出てみると、皆の視線が一気に集まる。僕のスーツ姿を見た皆は、驚いた表情。

「ネクタイが、ちょっと曲がってるわね」

 そう言って、智恵子さんが近寄ってくると僕の首元に手を伸ばしてきた。そして、ネクタイを直してくれた。その動作が自然すぎて、思わず見惚れてしまう。

「これで完璧ね。とっても似合っているわよ」
「ありがとう、チーさん!」

 智恵子さんが似合っていると言ってくれた姿なら、きっと式でも好印象だろうな。そう思った僕は、笑みがこぼれた。智恵子さん以外の皆にも褒めてもらった。

「とてもお似合いです、七沢さん」
「久遠さん、ありがとうございます」
「今回も失敗しなくて良かった! とっても素敵です、七沢さん!」
「いつも僕の髪を完璧に仕上げくてれて、ありがとうございます」

 久遠さんや小川さんにも褒めてもらい、ますます自信が持てた。

「本当に似合ってますよ!」
「この仕事をやってて、本当に良かった」
「男性の、こんな素敵で素晴らしいお姿を見られるなんて……」
「やばい、やばすぎる」
「はぁ……、尊い……」
「ありがとうございます、皆さん」

 スタッフ達からも好評のようだった。皆さんが、僕の姿を見て目を潤ませていた。そこまで感動されると、何だか気恥ずかしくなってしまう。

 とにかく、皆が喜んでくれているみたいで安心した。これなら任命式も大丈夫そうだ。

 準備も完了して、任命式が始まる時間まで余裕がある。

 ホッと一息ついたところで誰かが来た。それはなんと、総理大臣だった。着物姿の和風美人な彼女を見て、つい見とれてしまった。

 テレビでも見たことがある、国のトップ。そんな彼女は僕の前に立つと、いきなり頭を下げた。

「宣伝大使のお仕事、引き受けてくれてありがとうございます」
「そんな、顔を上げてください! 僕はただ、やってみたいと思ったから引き受けただけです。だから、そんなに感謝されるようなことは何もしていませんよ」

 慌てて僕がそう言うと、彼女は顔を上げた。その表情には、安堵の色が見えた気がした。

「貴方のような人が引き受けてくれて、本当に良かった。これから、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、精一杯やらせていただきます」

 挨拶を済ませたところで、総理は部屋から出て行った。間近で見ると凄い迫力だった。今日の任命式に参加すると聞いていたけれど、わざわざ挨拶に来てくれるなんて驚きだ。ちゃんと失礼のないように対応できただろうか。

 その後、予定の時間になったので、久遠さんの案内で会場へ移動した。

 控室はかなりの大きさだったけれど、この会場も非常に大きい。そんな広い会場に大勢の人達が集まっていた。

 こんなに多くの人が集まるとは思っていなくて、正直驚いてしまった。ざっと見た感じ、200人くらいはいるんじゃないだろうか? 多すぎじゃないか。この人数を見て、また緊張してきた。

 カメラも沢山あるし、テレビ局の人も来ているみたい。すごい熱気だった。

 任命式が始まって、僕は袖で待機していた。司会者が、今回の任命式の説明をしている。それを聞きながら、緊張をほぐすため深呼吸をする。かなり緊張してきたな。大丈夫だろうか。こんな大勢の人たちの前に立つ経験は、前世も含めて初めてのことだから。失敗してしまいそうだ。

 すると、隣にいる久遠さんが話しかけてきた。

「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「もし何かあれば、私がサポートしますから安心してくださいね」
「ありがとう、助かるよ」

 いつも仕事でサポートしてくれている久遠さん。今日も彼女の気遣いのおかげで、落ち着くことが出来た。ありがたいことだ。

 壇上へ上がる首相。その姿を見た人々が、一斉に拍手をする。僕もそれに合わせて手を叩いた。

「本日は、多くの方々にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。それでは早速、ご紹介いたします」

 スタッフの指示に従って、僕は袖から出ていく。いよいよ出番だ。心臓がバクバク鳴っている。上手くやれるかな? 

 多くの人に準備してもらって、久遠さんも一緒に居てくれる。だから、大丈夫だ。僕は一歩ずつ、踏み出していく。

 スポットライトを浴びている僕は今、ステージの上に立った。
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