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第50話 優雅な暮らし
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「実は、ちょっと仕事で子作り政策の宣伝大使というのを引き受けることになってさ」
「宣伝大使? なんだか、大変そうだな」
やっぱりちゃんと話は聞いて反応してくれる父さんに、僕は説明を続けた。
「たしかに大変かもしれない。でも、楽しそうだから」
「そうか。まぁ、良かったんじゃないか」
「うん。それでさ、ちょっとプライベート周りとか騒がしくなるかもしれないから。父さんにも事前に話しておいたほうが良いかと思って」
「それは面倒そうだな。なるべく、僕のことは巻き込まないようにしてくれよ」
「わかった。気をつける」
ということで、報告したいことは全て伝え終えた。巻き込まないように気をつけてくれと言われたので、気をつけないといけない。
せっかく父さんに会いに来たので、このまま帰るのも勿体ない。少しだけ雑談していこうと思った。
「ご飯、ちゃんと食べてるの?」
「食べてるぞ」
僕が質問して、父さんが答える。よくある親子の会話とは逆だった。だけど、父が心配なので確かめてしまう。
このマンションの入居者向けに、一流シェフが食事を用意してくれるというようなサービスが用意されいてる。それを利用すると、美味しいご飯がいつでも食べられるそうだ。とても羨ましい。
父さんも、そのサービスを利用していると聞いている。だけど、満腹になるほどは食べない。空腹を感じなくなる程度の量しか食べていないらしい。それだけで十分、とのこと。僕だったら、満足するまで食べ尽くしてしまいそうだけどな。
実際に食事の量は十分らしいようで、父さんの体は細くて薄いけれど肌艶は良い。顔色も良くて、とても健康的な印象だった。栄養バランスが完璧に整っている食事が用意されているんだろうな。
食事のサービス以外にも、いつでも運動できるように様々な設備が整ったスポーツジムがマンション内に用意されている。入居者であれば無料で施設を利用することができるのだそうだ。至れり尽くせりである。
そんな快適なマンションで暮らしている父さんは、毎日部屋に籠もってボーっとしているだけ。テレビを見たり、本を読んだりもしない。ただ座って、一日を過ごしているそうだ。
「最近、何やってるの?」
「いつも通り。特に何も」
「そっか」
父さんは精神的な病気なんじゃないのかと疑った時期もある。心配になって色々と調べてみたら、どうやらよくあることのようだった。そういう男性は、この世界では珍しくないみたい。何もしなくても、生きているだけで大丈夫なんだとか。欲求が薄いから、こういうことになるらしい。
むしろ体の衰えが遅くなったり、ストレスを全く抱え込まなくて長生きしたりするようだ。父さんには何の問題もなく、長生きしそうだと分かって安心したけれど。
仕事をしなくても国からの給付金で生活できて、住んでいる家も快適。ストレスも無いというのだから、憧れの暮らしだと思う。だけど僕には父さんのような暮らしは耐えられそうにない。
毎日、部屋の中で一人になってボーッとするだけの生活。そんなの退屈すぎて気が狂いそうだと思う。そんな状態で長く生きていくなんて、絶対に嫌だな。
やっぱり僕は、女性とイチャイチャして生きていきたい。多くの女性と出会って、仲良くなって、楽しい時間を過ごしたい。父さんを見ると、いつもそう思っていた。
「出かけたりは、しないの?」
「外か? 面倒だな」
「家にずっと居ても、暇じゃないの?」
「暇ではないな。こうしているのが一番ラクだ」
そう言って、父さんは空中に視線を向けたままボーッとし続ける。それが、いつも家でやっていること。
しばらくの間、盛り上がりにかける会話を続けた。父さんの様子は相変わらずだということを確認できたので、そろそろ帰ろうかと僕はソファーから立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「そうか。気をつけて帰るんだぞ」
「うん。また、来るね」
「あぁ」
ソファーに座ったままの父さんが、手を振って見送ってくれる。ここでお別れだ。玄関まで来てくれないのは、いつもの事だった。
そして僕は、父さんが一人で暮らしているマンションを後にした。
「宣伝大使? なんだか、大変そうだな」
やっぱりちゃんと話は聞いて反応してくれる父さんに、僕は説明を続けた。
「たしかに大変かもしれない。でも、楽しそうだから」
「そうか。まぁ、良かったんじゃないか」
「うん。それでさ、ちょっとプライベート周りとか騒がしくなるかもしれないから。父さんにも事前に話しておいたほうが良いかと思って」
「それは面倒そうだな。なるべく、僕のことは巻き込まないようにしてくれよ」
「わかった。気をつける」
ということで、報告したいことは全て伝え終えた。巻き込まないように気をつけてくれと言われたので、気をつけないといけない。
せっかく父さんに会いに来たので、このまま帰るのも勿体ない。少しだけ雑談していこうと思った。
「ご飯、ちゃんと食べてるの?」
「食べてるぞ」
僕が質問して、父さんが答える。よくある親子の会話とは逆だった。だけど、父が心配なので確かめてしまう。
このマンションの入居者向けに、一流シェフが食事を用意してくれるというようなサービスが用意されいてる。それを利用すると、美味しいご飯がいつでも食べられるそうだ。とても羨ましい。
父さんも、そのサービスを利用していると聞いている。だけど、満腹になるほどは食べない。空腹を感じなくなる程度の量しか食べていないらしい。それだけで十分、とのこと。僕だったら、満足するまで食べ尽くしてしまいそうだけどな。
実際に食事の量は十分らしいようで、父さんの体は細くて薄いけれど肌艶は良い。顔色も良くて、とても健康的な印象だった。栄養バランスが完璧に整っている食事が用意されているんだろうな。
食事のサービス以外にも、いつでも運動できるように様々な設備が整ったスポーツジムがマンション内に用意されている。入居者であれば無料で施設を利用することができるのだそうだ。至れり尽くせりである。
そんな快適なマンションで暮らしている父さんは、毎日部屋に籠もってボーっとしているだけ。テレビを見たり、本を読んだりもしない。ただ座って、一日を過ごしているそうだ。
「最近、何やってるの?」
「いつも通り。特に何も」
「そっか」
父さんは精神的な病気なんじゃないのかと疑った時期もある。心配になって色々と調べてみたら、どうやらよくあることのようだった。そういう男性は、この世界では珍しくないみたい。何もしなくても、生きているだけで大丈夫なんだとか。欲求が薄いから、こういうことになるらしい。
むしろ体の衰えが遅くなったり、ストレスを全く抱え込まなくて長生きしたりするようだ。父さんには何の問題もなく、長生きしそうだと分かって安心したけれど。
仕事をしなくても国からの給付金で生活できて、住んでいる家も快適。ストレスも無いというのだから、憧れの暮らしだと思う。だけど僕には父さんのような暮らしは耐えられそうにない。
毎日、部屋の中で一人になってボーッとするだけの生活。そんなの退屈すぎて気が狂いそうだと思う。そんな状態で長く生きていくなんて、絶対に嫌だな。
やっぱり僕は、女性とイチャイチャして生きていきたい。多くの女性と出会って、仲良くなって、楽しい時間を過ごしたい。父さんを見ると、いつもそう思っていた。
「出かけたりは、しないの?」
「外か? 面倒だな」
「家にずっと居ても、暇じゃないの?」
「暇ではないな。こうしているのが一番ラクだ」
そう言って、父さんは空中に視線を向けたままボーッとし続ける。それが、いつも家でやっていること。
しばらくの間、盛り上がりにかける会話を続けた。父さんの様子は相変わらずだということを確認できたので、そろそろ帰ろうかと僕はソファーから立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「そうか。気をつけて帰るんだぞ」
「うん。また、来るね」
「あぁ」
ソファーに座ったままの父さんが、手を振って見送ってくれる。ここでお別れだ。玄関まで来てくれないのは、いつもの事だった。
そして僕は、父さんが一人で暮らしているマンションを後にした。
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