墓暴きの女。

宮塚恵一

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第6話 幻想と現実

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 國彦が眼を覚ますと、目の前にラチカが居た。

「お前もか」

 ポツリと呟くラチカに、國彦は頷いた。
 かつての戦いの夢。

 それを國彦とラチカはよく、同じタイミングで見る。

「本当に、オルムだとか怪人とか、そういうものが存在したんだろうか、と今でも思う」

 國彦もラチカも、かつての戦いの記憶を持つが、その証拠はどこにもない。
 あるのは、共通の記憶。

 オルムという存在が居たこと。

「グレイヴマンが、オルムを倒したから」

 オルムが過去に幾度となく触手を伸ばしたことで、オルムの地球侵略を喰い止めることは困難であった。

 ならば、と。
 グレイヴマンが選んだのは、オルムという存在を

 過去に戻り、まだ侵略を開始する前のオルムを消し去ることで、怪人と人類の戦いそのものを、この世界からなかったことにする。

 ドンナーから受けた使命を、グレイヴマンとして剣持大河は全うした。

 果たして世界から怪人は消え去り、地球には平和が戻った。

 だが、その記憶を國彦とラチカは未だ保持している。
 ドンナーが人類に介入したのはオルムを倒すまでで、そのアフターケアまで興味はなかったのだろう。

 だから世界は書き換えられても、高次元生命体と直接繋がりのあった二人の記憶はそのまま残ったのだ、と國彦は推測している。

 國彦は覚えている。
 怪人オルムチルドレンだったエルラチカと、それを倒す使命を帯びた國彦とが、敵でありながらも互いに愛し合ったこと。

 そして結局そのラチカは、別の怪人オルムチルドレンに殺されたこと。

「あんたと出逢ったことであたしがオルムの子供としての使命を忘れたことに激怒したオルムは、その時の記憶を、エルラチカという個体からは完全に抹消して転生させ直した」

 だから、今のラチカは、國彦のことをアダムとしてしか知らない。自身の婚約者だったこともあるなんて、そんな覚えは、今のラチカにはない。

 それでもラチカのどこかには残ったのか、再びオルムを裏切ることになったのだが。

「俺とお前とで、共通の夢を見ているだけかもしれない」
「その可能性は否定できない」
「俺はただ頭のおかしくなった人間で、お前という存在も俺が勝手に解釈しているだけかもしれない」
「それはお互い様だ。あたしは自分の中にある、エルラチカとしての記憶を良いように思いたいだけかもしれない。狂っているのはあたしかもしれない」
「それとも」

 お互いに狂っているだけなのかもしれない。

 ありもしない過去を幻視して。
 今を生きることのできない二人が、勝手な妄想を膨らませて、ここに居るだけなのかもしれない。

 そう思うと、國彦もラチカも途方もない恐怖に襲われた。
 怪人やグレイヴマン、オルムやドンナー。

 そんなものが実在していた記録なんて、世界のどこにも存在しない。
 戦いは終わったからだ。否、その戦いすら、本当はなかったことかもしれない。

 ラチカは面倒臭そうに服を脱いだ。國彦も裸になり、ラチカを背中から抱く。
 信じられるのは、お互いの存在だけ。

 お互いが今ここに生きているという証だけだった。
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