墓暴きの女。

宮塚恵一

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第7話 罪滅ぼしと希望

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 この世界で目覚めたラチカが最初にやろうとしたことは、罪滅ぼしだった。

 人類の敵として、怪人オルムチルドレンとして数々の人を殺め、仲間に引き入れ、絶望を与えた。

 世界は書き換えられ、平和になったが、それでも出来ることはある筈だと、ラチカは思った。

 この世界でラチカが目覚めたのは、2017年12月24日。

 世界は書き換えられたが、オルムの魔の手が伸びるのは、死に瀕した人間だ。
 エルラチカが転生するのは、決まって日本人の女であったが、その死に向かう運命までもが書き換えられたわけではない。

 だからラチカは、その数が途方もないものになろうとも、たとえ一生をかけることになろうとも、自身の記憶を元に、その女達の死を救うことを決めたのだ。

 ラチカの記憶通り、彼女が転生した筈だった女性達の人生は、どれも幸せとは言い難いもので、そのうち幾つかをラチカは救ってきた。
 死を救うことは出来ても、その人生をまで救うことは出来ない。
 ラチカはそう弁え、自分の罪滅ぼしは、彼女達の死を回避するところまでと決めた。

 國彦と出逢ったのは、その旅の道中だ。

 それまで独り、孤独に罪滅ぼしをしていたラチカを見るなり國彦は目を丸くして「俺のことを知っているか?」と興奮気味に訊いてきた。

 彼もまた、この世界において、孤独であったから。

 この世界で、牙城國彦は政府に拾われることもなく、暴力と犯罪を繰り返すチンピラとして生きていた。
 そんな人生とは違う別世界の自分。自身の脳裏を過ぎる怪人との戦いの記憶が彼を苛んでいた。

「彼女のことも、剣持大河のことも、俺は俺自身、できる限りの手段で探したんだ」

 だが、剣持大河という男も、怪人オルムチルドレンと戦っていた世界では彼の婚約者であった女性も、見つけることは出来なかった。

「だが、エルラチカ。お前が存在しているなら、大河も彼女も、存在しているかもしれない。俺はお前に協力する。代わりにお前も俺に協力しろ」

 そうして國彦はラチカと二人で、旅を始めたのだ。
 なくしてしまった世界を、取り戻す旅を。

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