【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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カーニバル・クラッシュ

七月-2

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 赤城大吾は『七神衆しちしんしゅう』の1人だ。


   七神衆とは、糸遊の戦士の中でも武芸に長けた7人の精鋭(例により7人の神様にあやかっている。ちなみに赤城の称号は麒麟)で糸遊にとって最大の誉れであり、陽炎にとっては最大の脅威である。

   七神衆は、戦死や後遺症の残る様な大怪我や定年(現在の7人は20~40代。満50歳で引退し、若手育成へ回る)で欠員が出たら、『中央会』(曇天糸遊の取りまとめ組織)が総合的に判断し任命する。


   全てにおいて平々凡々な望には関係ない話だが…。


 10年前の1月、弱冠17歳の少女が七神衆:虎に任命された。
 御影明日香みかげあすか、真姫の姉だ。

   生まれつきの強い魔力、武術もそつなくこなし好戦的な事から、異例の若さでの就任だった。赤城もその時に20歳にして就任した。

 そして。

 これは噂好きなご近所さん情報だが、歳も近く武芸の講習などで距離が縮まったか…、2人は恋仲だったらしい。
   2人で出かけるのも目撃されていた。『任務』(主に陽炎の駆除。暗殺ではなく駆除)をこなしながら逢瀬を重ね、日々過ごしていた。

 あの時までは。


 奇襲で明日香は、1人で陽炎の部隊長クラスの猛者と戦った。左足首と肉片だけを残し、明日香はこの世から消え失せた。

   名誉の戦死と誰もが賞賛し、涙した。赤城は以来、人が変わったように恋人の仇である陽炎に対して、非常に好戦的かつ冷酷になった。

   陽炎の間では『赤城を見て、生きて帰った者は無い』と囁かれてるとか。

 …そして。


 今年の春から、妙な噂が流れた。

《赤城の愛車の助手席に真姫が乗っていた》

 見た人は複数、しかも何回も。在りし日の恋人の姿を、その妹である真姫に見出してるのか。

 世間の意に反して、望ら同級生達は感心や賞賛の眼差しを向けていた。


   遺伝なのか、真姫も能力の高さは学年イチ。頭も良いし(性格はあまり良くない)、一般の高校生や大学生にもナンパされる美貌(下手すりゃ若手の女優より美人。でも望的にはパス)の持ち主。
 色々揃ってるので『アイツすごいわ』『現役七神衆から目をかけられるなんて、ハンパねぇ』という感じなのだ。

 そりゃあ噂に眉をひそめたご近所さんも、内心面白く思わない連中もいるけど、誰も何も言わなかった。

   表立って強者の悪口は言わないもので、ね。



 今回の任務、赤城が主宰だから真姫も呼ばれたのか?とか思いつつ着席すると、小ぶりな黒板の前で赤城が口を開いた。

「さて集まり頂いた皆様。今日説明するのは他でもない、曇天夏祭りの係についてだ。そんな憂鬱な顔すんなよ、コレは大切な『任務』です」

 赤城は一呼吸置いて、こう言った。

「俺達は神様のボディーガードをします」

 望も含め、全員が目をぱちくりさせた。赤城は笑って言った。

「つまり『七子巡り』の連中のボディーガードです。それが『任務』」

 赤城は黒板にいびつな長方形を描き、適当な棒線で7つに区切った。超大雑把な曇天の地図だ。

「やる事は簡単。出番も4日間の内の1日だけ、時間も3,4時間。そして多分皆が心配してる事について…」

 赤城は向き直り、ニカッと笑った。

「『七子達と不用意に接触すると悪い事が起こる』とか。そんないわくは、この任務では心配無用」

「赤城さん、イマドキ気にする奴居ないって!」

 輝暁の言葉に赤城は悪戯っぽく笑う。

「そうか? もしあの新車に何かあったら『アレのせいだ!』って言ったりしねえ?」

 皆が吹き出すと、輝暁は頭を掻きつつ否定した。赤城は続けた。

「皆には『七子巡り』から少し離れた所から、周囲の住民、係の人にもバレないように移動と監視をする。だから、祟りとは無関係」

 まるで尾行だ、と望は思った。

「任務中、異常や不測の事態が起こったら、予め渡しておく無線で中央会へ通報。これを、俺が独断と偏見でペアにした2人でやってもらう」


 中央会は各集落の自治会長や七神衆OB、天番(陽炎絡みの案件処理が専門の各種公務員。開業医や役場職員など)で構成されている。
   政府との連絡や連携、七神衆など部隊の出動要請を判断する組織だ。

 七子巡りはただのお祭りだから、管轄は行事の実行委員のはず。

   望はそこが引っかかった。

「さて、組み合わせだ。初日13日は俺と未琴だ。よろしくな!」

「はい。よろしくでーす」

 未琴は体育座りで返事した。

「14日は皇介と龍哉、15日は望と真姫」

 望と真姫は、やや不服そうに顔を見合わせた。

「最終日は輝暁と光花子。…そして、守って欲しい事が1つ」

 赤城は間をおくと真剣な顔をした。

「俺らは『七子巡り』とは実質関係ないが、この任務は『極秘』任務だ。この場にいる人間以外には、一切口外しない事を遵守してくれ。
…コドモじゃないし、判るよな?」

 『戦士』の迫力を感じ、皆の表情も引き締まった。赤城は一人一人の目を見た後、いつもの『気のいい兄ちゃん』へ戻った。

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