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第22話 第三の転生者

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 この国有数の公爵家の令嬢、王太子の婚約者、学園の生徒会長、そのうえ、この『ダイネハーフェン相談所』の経営者。
 サラ様は一体どれだけの顔をお持ちなのでしょう?

 私はあっけにとられ、バカみたいに口をぽかんと開けておりました。

「『虹色コンチェルト』はね、前世で私の妹がね、はまっていたゲームで飽きるほどいろいろ聞かされていたんだ。ちなみにさっき名乗ったキムラーは前世の姓をもじったものなんだけどね」

 サラ会長は説明されました。

 前世ではおそらく『木村』さんだったのですね。
 キムラーも違和感なかったです。

「それで、物心がついてジーク王太子の婚約者にさせられた時に、ここがゲームの世界だと気づいたのだよ」
「そうだったんですか」
「ゲームスタートはジークの弟のエミール王子が学園に入学した時とわかっていた。で、私はエミールとヒロイン役の女生徒が入るであろう生徒会の長として待ち構えていたわけだ」
「最初から分かっていたと?」
「名前はうろ覚えだったけど、ピンク色の髪が特徴となっていたからすぐ君だってわかったよ。それで君たちがどう動くのか注視していたんだけど、ゲームストーリーにはない想定外の出来事が次から次へと起こり、こっちもいろいろ驚いている」
「ミリアもそんなことを言っていました。でも彼女はそれで頭を切り替えることをしないで……」
「う~ん、私の立ち位置は悪役令嬢だからさ、想定外の出来事の方が破滅フラグを回避できる可能性が広がるから大歓迎なんだけどね」

 でも、パート2ヒロインのミリアからすればゲームにないストーリー展開は、歓迎できない出来事ということですね。

 サラ会長が話を続けます。

「そもそも私が生徒会長をやっていること自体、ゲームストーリーにはなかったことだからさ」
「えっ! そうだったのですか、ではゲームでは一体だれが生徒会長を?」
「サージェスだよ。まだ二年だけど優秀すぎる彼が一年の時に、卒業する元生徒会長の王太子から、二年を差し置いて指名されたって設定だったんだ」
「なるほど。そういえば、副会長ってフェリシアが好きなんですよね。でも、一応婚約者のいる彼女にあれだけあからさまに好意を示すってどうなんでしょう?」
「サージェスがフェリシアを好き? 何を言ってるんだ、君は?」
「ミリアが説明してくれました。確かに副会長って、王子殿下らがフェリシアの悪口を言っていた時に露骨に不機嫌な様子を見せていたし、そのことで私たちに注意するときも、なにか、こう、熱量が……」

 私の説明にサラ会長はいきなり笑い出しました。

「あはは、いや、すまない。そうか、ゲームではそういう設定だったのか。でも現実は違うよ。彼がぞっこんなのはフェリシアじゃなく、彼自身の婚約者のエリーゼ・シュニーデルさ」
「あの、フェリシアの友達の?」

 私はフェリシアといつも一緒にいるプラチナブロンドの娘を思い出しました。

「ああ、生徒会室で友人のフェリシアの悪口が言われてるなんて、エリーゼが知ったら激怒されるだろうからね。サージェスも必死でたしなめるよ」
 
 フェリシアじゃなくエリーゼのためにだったのですね。

「考えてみると、ずいぶんゲームストーリーとは違うのですね」
「ここから先は私の仮説だけど、私たちが前世でいた世界とこの世界は違うが、どこかでつながっている。そしてその情報が何らかの形でゲームを作る人たちの頭に入り設定で活かされた」
「それで生まれたのがあのゲームだと?」
「ああ、それからゲームや小説には定番の筋立てがあるだろう」
「いわゆる『お約束』ってやつですね」
「それがあるから、どうしてもそれに即した展開になるけど、この世界においては、いくら名前や立場や能力が似ていてもそれぞれが意思を持つ人間だ。すべてにおいてゲームキャラのようにふるまうわけではないんだ」
「なんとなくわかります。でもミリアは戸惑っているみたいでした。あ、そうか! さっきの副会長の話みたいに、元のゲームとは違うところを説明していけば、私を含め皆がゲームストーリー通りに動かないことを理解してくれるかも」

 ほんのちょっとですが光明が見えた気がしました。

「まあ、それで彼女が納得してくれればだけどね」

 それしか方法はないでしょう、と、私が言おうとした時、部屋を誰かがノックする音が聞こえました。サラ会長が、どうぞ、と、いうと、先ほどの受付嬢が入ってきて会長に何か耳打ちをしました。

「すまない、別の客がきたようだ」
 サラ会長が私に断りを入れました。
「でしたら私はもう、一応ミリアへの対処の方向性はわかってきましたし……」
 私は立ち上がり、相談を終了して帰ろうとしました、しかし、
「良かったら君もその人物と会うかい? 君にも関係あるかもしれないし」
 サラ会長は私を引き留めました。

 私と会長が部屋を出ると受付前には見知った顔がありました。
 フォーゲル先生でした。

「リーニャ・クルージュ。どうしたんだい? 君のような生徒が学園外の相談施設を訪れるなんて」
 フォーゲル先生が心配そうな顔をされました。
「生徒会の相談がありましてね。私は今日一日ここにいるので彼女に足を運んでもらったんですよ」
 サラ会長が気を利かせてそうごまかしてくださいました。

「そうだったのか、それで例の調査の依頼は? 実は君から預かった壊れた杖のことをここで調べてもらっていたんだ」
 フォーゲル先生が私に説明しました。
「あの杖ですか?」
 私の質問に先生は、ああ、と、言ってうなづきました。

「うちの家門はね、魔法の研究を組織的に行う研究所をいくつか運営しているんだ。以前新入生たちに作業をしてもらった郵便大量発送に便利なインクもそこで研究され開発されたんだよ。提携して巷の様々な問題を解決すれば、相談者は助かる、うちは様々な実例を資料として得られる。互いにウインウインになるというわけさ。相談無料の破格のサービスもそれゆえなんだ」

 そうだったのですか。
 それにしてもご本人と言い、その家門と言い、とてつもなくハイスペックですね。
 ミリア、こんなすごい人をパート2で悪役令嬢として敵に回してどうするつもりだったのだろう?

「それで、結果はわかりましたか?」
 フォーゲル先生がサラ様に尋ねました。
「ええまあ、半分だけ。説明するのでこちらへどうぞ。リーニャ、問題の杖は君のものだったんだろう、良かったら一緒に聞くかい」
 サラ様が私も誘ってくれました。
 私はお二人とともにさっきの部屋にまた入ることとなりました。
 
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