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第18話 婚約解消でスッキリ(前編) ~シュザンナ目線~
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いつもの部屋と違うベットで今朝は目が覚めました。
よく晴れたすがすがしい朝です。
晴れやかなのはお天気だけではないようです。
無事に彼との婚約が解消となり、長年心にあった重しのようなものがなくなった感じなのです。
子供の頃に父に命じられて以降、婚約者としてバルドリックが存在するのが当たり前でした。しかし、解消して初めて、彼との婚約がいかに私の心に影を落としていたか、思い知りました。
母は私が幼いころに亡くなり、カペル家の子どもは長女である私だけでした。
ゆえに私は婿養子を取って家を継がねばならぬ立場です。その相手として父の学生時代からの親友の息子ヴィンクラー家の三男、ヴァルドリックが同い年ということもあり、選ばれたのです。
お互いに子供が出来たら結婚させようなんて約束、物語ではありがちだけど、幸せなのは約束している親たちだけです。
初顔合わせの時に思ったのは身体の大きな子だな、と、いうことでした。
年の割に発育の良い子が子供同士の付き合いの中で大きな顔をすることはありがちなこと。相手を威嚇しさえすれば思い通りにできるのが習い性となっていた彼は、私に対しても同じような態度で接してきました。
私はその態度に恐怖を覚え、何度か彼と結婚するのは無理と父に訴えたことがありました。しかし父は、
「少々ヤンチャが過ぎるきらいがあるが、男はあれくらいの方が頼もしいぞ」
そう言って、私の頼みを軽くいなすだけでした。
「まだ子供なので、女の子の扱いに不器用なところがあるのです。長い目で見てやってください」
バルドリックの両親もそう言って息子のバルドリックをかばいました。
それに父はウンウンとうなづいて、まるで嫌がっている私だけがわがままを言っているような場の空気で押し切られるのが常でした。
少々ヤンチャ?
女の子の扱いに不器用?
腹が立ったと言って突き飛ばされることも何度かありました。
十代半ば頃からはお互いの意思や考えがはっきりしてくるけど、彼は私が違う意見を言うと、それだけで生意気だというし、理路整然と説明してもそれで自分が言葉につまると大声を出してきます。
私の自己主張は制圧されてしまい、自分を出さないことが日々穏やかに過ごす方便となったのですが、そうしたらそうしたで彼は私のことを「面白みのない女」と揶揄してくるのでした
私自身もすっかり洗脳されていました。
自分の言葉を否定されたり脅されたりする、それが当たり前である環境。
それが当たり前でないと気付いたのは。二歳年上の従姉のアデリーとハイディの家に泊まりに行きおしゃべりをし、のびのびとした解放感を感じたからでした。
学園に入学すると、彼女たちが役員を務めている生徒会に私も参加させていただけるようになり、今まで以上に一緒に話す機会が増えました。そして、バルドリックの態度に疑問を持つようになりました。
サラ会長やペルティナのようにはっきりと自分の意見を言うことのできる女子を、バルドリックは私といるときにだけ「でしゃばり」「ずうずうしい」と、非難し、あんなふうになるな、と、言いました。
「本人に直接言う根性はないわけね」
「図体でかい割にはけっこう小心者なのかも」
従妹たちの歯に衣着せぬ指摘のおかげで、私が彼の言動で引っかかっている部分が、具体的に言語化されて理解できました。
「私たちだけだと、こんなにいろいろおしゃべりできるのに、生徒会室にいるあなたはまるで借りてきた猫のよう」
「正直に言わせてもらえば、あいつには、あなたの本当の可愛らしさも賢さもわかっているとは思えない、そんなやつのものになってしまうなんて、もったいないにもほどがあるわ」
アデリーとハイディが私たちの婚約について言ったことです。
ただ、そんなことを言われても、決定権は私ではなく父にあり、父は私が何を訴えても、バルドリックの横暴で傲慢なところはすべて、まだ年若いが故の未熟さで片付けられました。
私がそれを『大きな心』で見守らないといけない、と、いうことで、済まされてしまうのです。
そんなある日のこと、事件が起こりました。
正確にいうと、バルドリックがとんでもないやらかしをする現場に、私と双子の片割れハイディは偶然居合わせたのです。
「ふざけるな! それでも婚約者か!」
バルドリックの罵声と、そして、あれは……?
エミール王子の婚約者フェリシア嬢の声です。
私とハイディは穏やかならぬこの状況を、角からこっそり聞き耳を立て、顔を出すべきかどうか判断できず困っていました。
「なぜあなたに、私とエミール殿下のことを口出しされなければいけないのですか?」
「ことが婚約の話のみならず、王子の学園生活にかかわる話になっているからだろう! 王子の生徒会活動の邪魔をして楽しいのか!」
「根も葉もない悪口雑言で私を貶めた王子殿下の言動は問題視せず、そのようなことをおっしゃるおつもりで?」
「うるさいっ! 婚約者のくせに夫となる王子の足を引っ張るとは何て女だ! 恥を知れ!」
体格の良さと声の大きさで他人を威圧するのが習い性となっているバルドリックは、他人に言い返され、相手の方が筋が通って自分が反論できなくなるとすぐ頭に血がのぼって、あのように暴言を吐きます。
私にとっては当たり前の景色だったので、黙ってみているだけで何の行動も起こせなかったのですが、ハイディは違いました。
「恥知らずはどっちよ、バルドリック!」
ハイディは飛び出してバルドリックに向かって叫びました。
「……っ!」
突然現れたハイディにバルドリックは顔をしかめました。
「誰にも見られてないと思ったの? それをいいことに女子学生を威圧し脅迫? 騎士であるあなたのお父上やお兄上が知ったらどう思われますかね?」
「これは忠義だ! 父上たちもわかってくださる。何も知らない部外者が口をはさむな!」
「あら、あなたはさっき、生徒会活動について言及してなかったかしら。私は生徒会の役員よ」
「……っ!」
バルドリックが言葉につまり顔を赤くしました。
よく晴れたすがすがしい朝です。
晴れやかなのはお天気だけではないようです。
無事に彼との婚約が解消となり、長年心にあった重しのようなものがなくなった感じなのです。
子供の頃に父に命じられて以降、婚約者としてバルドリックが存在するのが当たり前でした。しかし、解消して初めて、彼との婚約がいかに私の心に影を落としていたか、思い知りました。
母は私が幼いころに亡くなり、カペル家の子どもは長女である私だけでした。
ゆえに私は婿養子を取って家を継がねばならぬ立場です。その相手として父の学生時代からの親友の息子ヴィンクラー家の三男、ヴァルドリックが同い年ということもあり、選ばれたのです。
お互いに子供が出来たら結婚させようなんて約束、物語ではありがちだけど、幸せなのは約束している親たちだけです。
初顔合わせの時に思ったのは身体の大きな子だな、と、いうことでした。
年の割に発育の良い子が子供同士の付き合いの中で大きな顔をすることはありがちなこと。相手を威嚇しさえすれば思い通りにできるのが習い性となっていた彼は、私に対しても同じような態度で接してきました。
私はその態度に恐怖を覚え、何度か彼と結婚するのは無理と父に訴えたことがありました。しかし父は、
「少々ヤンチャが過ぎるきらいがあるが、男はあれくらいの方が頼もしいぞ」
そう言って、私の頼みを軽くいなすだけでした。
「まだ子供なので、女の子の扱いに不器用なところがあるのです。長い目で見てやってください」
バルドリックの両親もそう言って息子のバルドリックをかばいました。
それに父はウンウンとうなづいて、まるで嫌がっている私だけがわがままを言っているような場の空気で押し切られるのが常でした。
少々ヤンチャ?
女の子の扱いに不器用?
腹が立ったと言って突き飛ばされることも何度かありました。
十代半ば頃からはお互いの意思や考えがはっきりしてくるけど、彼は私が違う意見を言うと、それだけで生意気だというし、理路整然と説明してもそれで自分が言葉につまると大声を出してきます。
私の自己主張は制圧されてしまい、自分を出さないことが日々穏やかに過ごす方便となったのですが、そうしたらそうしたで彼は私のことを「面白みのない女」と揶揄してくるのでした
私自身もすっかり洗脳されていました。
自分の言葉を否定されたり脅されたりする、それが当たり前である環境。
それが当たり前でないと気付いたのは。二歳年上の従姉のアデリーとハイディの家に泊まりに行きおしゃべりをし、のびのびとした解放感を感じたからでした。
学園に入学すると、彼女たちが役員を務めている生徒会に私も参加させていただけるようになり、今まで以上に一緒に話す機会が増えました。そして、バルドリックの態度に疑問を持つようになりました。
サラ会長やペルティナのようにはっきりと自分の意見を言うことのできる女子を、バルドリックは私といるときにだけ「でしゃばり」「ずうずうしい」と、非難し、あんなふうになるな、と、言いました。
「本人に直接言う根性はないわけね」
「図体でかい割にはけっこう小心者なのかも」
従妹たちの歯に衣着せぬ指摘のおかげで、私が彼の言動で引っかかっている部分が、具体的に言語化されて理解できました。
「私たちだけだと、こんなにいろいろおしゃべりできるのに、生徒会室にいるあなたはまるで借りてきた猫のよう」
「正直に言わせてもらえば、あいつには、あなたの本当の可愛らしさも賢さもわかっているとは思えない、そんなやつのものになってしまうなんて、もったいないにもほどがあるわ」
アデリーとハイディが私たちの婚約について言ったことです。
ただ、そんなことを言われても、決定権は私ではなく父にあり、父は私が何を訴えても、バルドリックの横暴で傲慢なところはすべて、まだ年若いが故の未熟さで片付けられました。
私がそれを『大きな心』で見守らないといけない、と、いうことで、済まされてしまうのです。
そんなある日のこと、事件が起こりました。
正確にいうと、バルドリックがとんでもないやらかしをする現場に、私と双子の片割れハイディは偶然居合わせたのです。
「ふざけるな! それでも婚約者か!」
バルドリックの罵声と、そして、あれは……?
エミール王子の婚約者フェリシア嬢の声です。
私とハイディは穏やかならぬこの状況を、角からこっそり聞き耳を立て、顔を出すべきかどうか判断できず困っていました。
「なぜあなたに、私とエミール殿下のことを口出しされなければいけないのですか?」
「ことが婚約の話のみならず、王子の学園生活にかかわる話になっているからだろう! 王子の生徒会活動の邪魔をして楽しいのか!」
「根も葉もない悪口雑言で私を貶めた王子殿下の言動は問題視せず、そのようなことをおっしゃるおつもりで?」
「うるさいっ! 婚約者のくせに夫となる王子の足を引っ張るとは何て女だ! 恥を知れ!」
体格の良さと声の大きさで他人を威圧するのが習い性となっているバルドリックは、他人に言い返され、相手の方が筋が通って自分が反論できなくなるとすぐ頭に血がのぼって、あのように暴言を吐きます。
私にとっては当たり前の景色だったので、黙ってみているだけで何の行動も起こせなかったのですが、ハイディは違いました。
「恥知らずはどっちよ、バルドリック!」
ハイディは飛び出してバルドリックに向かって叫びました。
「……っ!」
突然現れたハイディにバルドリックは顔をしかめました。
「誰にも見られてないと思ったの? それをいいことに女子学生を威圧し脅迫? 騎士であるあなたのお父上やお兄上が知ったらどう思われますかね?」
「これは忠義だ! 父上たちもわかってくださる。何も知らない部外者が口をはさむな!」
「あら、あなたはさっき、生徒会活動について言及してなかったかしら。私は生徒会の役員よ」
「……っ!」
バルドリックが言葉につまり顔を赤くしました。
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