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七章
23、寝てくれへん
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それからは少しでもわたしが抱っこをやめると、琥太郎さんはしくしくと泣きだすんです。
ああ、大変。また悲しませてしまったわ。何がそんなに悲しいの? それとも寂しいの?
でもなぜかしら。目の前がくらくらするの。
「琥太郎は俺が抱っこしといたるから。絲さんは、その間に寝とき」
「……はい」
「大丈夫やで。安心し」
蒼一郎さんの言葉を聞きながら、わたしも瞼が重くなっていきました。
泣かないでね、琥太郎さん。わたしはちゃんとここにいるのですから。
◇◇◇
いやー、赤子って大変やな。
俺は琥太郎を抱っこして、廊下をうろうろした。
なんでかというと。絲さんの抱っこはそこまで要求されへんみたいやけど。琥太郎は、俺が抱っこした時にはゆーらゆらと揺らしたり、部屋の中や廊下を歩くことを要求するからや。
「うーん。琥太郎は意外と我儘やなぁ。お父さんは心配やで」
腕の中の息子は、おとなしくしとう。それはもちろん、俺が足を止めへんからや。
「あら、三條さん。大変ですね」
階段を上がってきた看護婦(いつも俺の邪魔をしてた看護婦や)が声をかけてきた。
「この子は抱っこせんと寝ぇへんみたいで」
「あらあら。じゃあ少し抱っこを代わってあげましょうね」
「あ、あかん」
慣れた手つきで琥太郎を攫うと、看護婦は笑顔を浮かべながら抱っこした。
その時やった。
「びゃー」とけたたましい声が廊下に響いたんや。
あーあ。言わんこっちゃない。
俺は赤ん坊のことは詳しないけど。この子は多分育てにくい子やで。
「大丈夫ですか? どうなさったの」
慌てた様子で、絲さんが廊下に走り出てきた。しかもまだ完全に傷が癒えとうわけやないから、腹を押さえつつ、よろけつつという散々な様子や。
ああ、もう寝間着が乱れてしもたやないか。
琥太郎はというと、まだよう目も見えてへんと思うのに、絲さんに向かって小さい手を必死に伸ばしとう。
しかも今度は、しくしくと寂しそうな泣き方に変更や。
君なぁ、生まれてあんまり経ってへんのに。そういう芸当をどこで身に着けたん? いやー、将来有望やわ。
「三條さん。どうしてにやにやしてるんですか?」
「ん? してへんで」
おっと危ない危ない。親馬鹿なんが、ばれるとこやった。
看護婦から琥太郎を受け取って、俺は絲さんと部屋に戻った。
「大丈夫かしら。赤ちゃんって、よく眠るものだと思っていたのに」
「ん? 個人差があるんとちゃうかな」
「そうかしら」
俺の腕の中の琥太郎は、すでに泣き止んでいていい子にしとう。
問題は琥太郎が寝るかどうかよりも、絲さんがちゃんと睡眠をとれるかどうかやんなぁ。
病院に居る間はまだしも、家に帰ってからが心配やなぁ。
絲さんが横になっとう側に、琥太郎の小さい寝台を並べる。
ようやく安心したんか、二人してすぐに眠りに落ちた。
起きたら泣くし、絲さんから離されても泣くし、俺が抱っこを真剣にせぇへんかったら泣くし。
俺もこんなんやったんやろか? 記憶にないけど、多分ちゃうと思うんやけど。
夕暮れの光が、松林の向こうで海を煌めかせとう。
金の粒を撒いたような、黄金や琥珀色に染まる凪いだ海面。
晩ご飯までゆっくり寝とき。
俺は右手で絲さんの手を、左手で琥太郎の小さい手を握りしめた。
ああ、大変。また悲しませてしまったわ。何がそんなに悲しいの? それとも寂しいの?
でもなぜかしら。目の前がくらくらするの。
「琥太郎は俺が抱っこしといたるから。絲さんは、その間に寝とき」
「……はい」
「大丈夫やで。安心し」
蒼一郎さんの言葉を聞きながら、わたしも瞼が重くなっていきました。
泣かないでね、琥太郎さん。わたしはちゃんとここにいるのですから。
◇◇◇
いやー、赤子って大変やな。
俺は琥太郎を抱っこして、廊下をうろうろした。
なんでかというと。絲さんの抱っこはそこまで要求されへんみたいやけど。琥太郎は、俺が抱っこした時にはゆーらゆらと揺らしたり、部屋の中や廊下を歩くことを要求するからや。
「うーん。琥太郎は意外と我儘やなぁ。お父さんは心配やで」
腕の中の息子は、おとなしくしとう。それはもちろん、俺が足を止めへんからや。
「あら、三條さん。大変ですね」
階段を上がってきた看護婦(いつも俺の邪魔をしてた看護婦や)が声をかけてきた。
「この子は抱っこせんと寝ぇへんみたいで」
「あらあら。じゃあ少し抱っこを代わってあげましょうね」
「あ、あかん」
慣れた手つきで琥太郎を攫うと、看護婦は笑顔を浮かべながら抱っこした。
その時やった。
「びゃー」とけたたましい声が廊下に響いたんや。
あーあ。言わんこっちゃない。
俺は赤ん坊のことは詳しないけど。この子は多分育てにくい子やで。
「大丈夫ですか? どうなさったの」
慌てた様子で、絲さんが廊下に走り出てきた。しかもまだ完全に傷が癒えとうわけやないから、腹を押さえつつ、よろけつつという散々な様子や。
ああ、もう寝間着が乱れてしもたやないか。
琥太郎はというと、まだよう目も見えてへんと思うのに、絲さんに向かって小さい手を必死に伸ばしとう。
しかも今度は、しくしくと寂しそうな泣き方に変更や。
君なぁ、生まれてあんまり経ってへんのに。そういう芸当をどこで身に着けたん? いやー、将来有望やわ。
「三條さん。どうしてにやにやしてるんですか?」
「ん? してへんで」
おっと危ない危ない。親馬鹿なんが、ばれるとこやった。
看護婦から琥太郎を受け取って、俺は絲さんと部屋に戻った。
「大丈夫かしら。赤ちゃんって、よく眠るものだと思っていたのに」
「ん? 個人差があるんとちゃうかな」
「そうかしら」
俺の腕の中の琥太郎は、すでに泣き止んでいていい子にしとう。
問題は琥太郎が寝るかどうかよりも、絲さんがちゃんと睡眠をとれるかどうかやんなぁ。
病院に居る間はまだしも、家に帰ってからが心配やなぁ。
絲さんが横になっとう側に、琥太郎の小さい寝台を並べる。
ようやく安心したんか、二人してすぐに眠りに落ちた。
起きたら泣くし、絲さんから離されても泣くし、俺が抱っこを真剣にせぇへんかったら泣くし。
俺もこんなんやったんやろか? 記憶にないけど、多分ちゃうと思うんやけど。
夕暮れの光が、松林の向こうで海を煌めかせとう。
金の粒を撒いたような、黄金や琥珀色に染まる凪いだ海面。
晩ご飯までゆっくり寝とき。
俺は右手で絲さんの手を、左手で琥太郎の小さい手を握りしめた。
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