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七章
6、今年の冬【1】
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年が明けて、寒さがひときわ厳しくなりました。
今年はどうやら雪がよく降るようです。
お庭の山茶花がまるで薔薇のように美しく咲いているのですが。
その薄紅の八重咲きの花びらが、雪で重たそうに見えます。
「池にも氷が張っとんなあ」
「わたし、霜柱の上を歩くのが好きなんです」
布団で上半身を起こして、わたしは雪見障子越しにお庭を眺めていました。
しゃくしゃくと小気味よい音を立てながら、足下で霜柱が崩れていくさまは心地よくて、大好きなの。
「まぁ、今は我慢しぃな。体を治してからや」
「治る頃には霜柱が溶けていないかしら」
「頑張ることやな、俺の為にも。せやないと寂しいから」
左右の手で編み針を器用に動かしながら、蒼一郎さんが微笑みます。
お部屋では火鉢が温かく、わたしの布団の足元には行火も入っていてとても暖かなの。
わたしを気遣っているのか、蒼一郎さんは日中も部屋にいてくださることが多いです。
「お、甘酒が温まったんとちゃうか?」
蒼一郎さんは、火鉢の上の網に載せてあるお湯呑みを、わたしに渡してくださいました。
「熱いから気ぃつけや。酒粕のんと違て、麹の甘酒やから。酔わへんやろ」
「ありがとうございます」
ふわっと香る甘い匂いに、生姜の匂いが混じっています。
これは……蒼一郎さんったら、生姜をたっぷり入れましたね。
「体が温まるっていうやろ?」
「そうですけど。味が崩れます」
「まぁまぁ。健康第一やで。はよ元気にならんとな」
「さぁどうぞ」と勧められて飲んだ甘酒は、舌が痺れるほどの生姜味でした。
「う、うう……っ」
「え? そんなに不味いか?」
わたしの手からお湯呑みを取り上げると、蒼一郎さんはひとくち含みました。
そして、うなだれて。やはり「ううっ、まずい」と呻いたんです。
「まぁ、我慢し。薬や思て。はよ治さんと、學校に行かれへんで」
そうなんです。もう冬休みは終わったというのに、わたしはまたほとんど學院に通うことができませんでした。
風邪なのでしょうか。でも咳は出ませんし、喉も痛くはありません。
ただ体がだるくて、熱っぽくて。以前にもまして食べられなくなっているんです。
ですから、こんな罰みたいなお味の甘酒になるんですけど。
「若先生に診てもろた方がええんかな」
「でも風邪じゃないですよ?」
「うーん。素人判断はあかんやろ。往診してもらおか」
編み目を数えながら、蒼一郎さんは唸ります。かなり大作のようですけれど、見た感じは一枚の布なんです。何なのでしょう。
でも、この分だとわたしは進級を諦めないといけないかもしれません。
お友だちよりも一年遅れてしまうのは、心苦しいです。
「學校に行かせてやりたいのは、やまやまなんやけどな。やっぱり不安やからな」
申し訳なさそうな蒼一郎さんに、わたしは「大丈夫ですよ」と微笑みます。
これまでの學年でも、補習はたっぷりとありましたし。追加の宿題や課題をたくさんこなして、ようやく進級できた年もありました。
でも今年は多分、無理でしょうね。
これまではお休みするのは夏場が多かったのですけれど。今年は冬になっても具合が良くないんですもの。
平気だと言ったはずなのに、わたしの脳裏には學友たちの笑顔が浮かんでいました。
御御堂の陰で、こっそりと町さんが見せてくれた絵。眠くて眠くてたまらない御ミサ。
些細なことが、今更大切に思えるんです。
今年はどうやら雪がよく降るようです。
お庭の山茶花がまるで薔薇のように美しく咲いているのですが。
その薄紅の八重咲きの花びらが、雪で重たそうに見えます。
「池にも氷が張っとんなあ」
「わたし、霜柱の上を歩くのが好きなんです」
布団で上半身を起こして、わたしは雪見障子越しにお庭を眺めていました。
しゃくしゃくと小気味よい音を立てながら、足下で霜柱が崩れていくさまは心地よくて、大好きなの。
「まぁ、今は我慢しぃな。体を治してからや」
「治る頃には霜柱が溶けていないかしら」
「頑張ることやな、俺の為にも。せやないと寂しいから」
左右の手で編み針を器用に動かしながら、蒼一郎さんが微笑みます。
お部屋では火鉢が温かく、わたしの布団の足元には行火も入っていてとても暖かなの。
わたしを気遣っているのか、蒼一郎さんは日中も部屋にいてくださることが多いです。
「お、甘酒が温まったんとちゃうか?」
蒼一郎さんは、火鉢の上の網に載せてあるお湯呑みを、わたしに渡してくださいました。
「熱いから気ぃつけや。酒粕のんと違て、麹の甘酒やから。酔わへんやろ」
「ありがとうございます」
ふわっと香る甘い匂いに、生姜の匂いが混じっています。
これは……蒼一郎さんったら、生姜をたっぷり入れましたね。
「体が温まるっていうやろ?」
「そうですけど。味が崩れます」
「まぁまぁ。健康第一やで。はよ元気にならんとな」
「さぁどうぞ」と勧められて飲んだ甘酒は、舌が痺れるほどの生姜味でした。
「う、うう……っ」
「え? そんなに不味いか?」
わたしの手からお湯呑みを取り上げると、蒼一郎さんはひとくち含みました。
そして、うなだれて。やはり「ううっ、まずい」と呻いたんです。
「まぁ、我慢し。薬や思て。はよ治さんと、學校に行かれへんで」
そうなんです。もう冬休みは終わったというのに、わたしはまたほとんど學院に通うことができませんでした。
風邪なのでしょうか。でも咳は出ませんし、喉も痛くはありません。
ただ体がだるくて、熱っぽくて。以前にもまして食べられなくなっているんです。
ですから、こんな罰みたいなお味の甘酒になるんですけど。
「若先生に診てもろた方がええんかな」
「でも風邪じゃないですよ?」
「うーん。素人判断はあかんやろ。往診してもらおか」
編み目を数えながら、蒼一郎さんは唸ります。かなり大作のようですけれど、見た感じは一枚の布なんです。何なのでしょう。
でも、この分だとわたしは進級を諦めないといけないかもしれません。
お友だちよりも一年遅れてしまうのは、心苦しいです。
「學校に行かせてやりたいのは、やまやまなんやけどな。やっぱり不安やからな」
申し訳なさそうな蒼一郎さんに、わたしは「大丈夫ですよ」と微笑みます。
これまでの學年でも、補習はたっぷりとありましたし。追加の宿題や課題をたくさんこなして、ようやく進級できた年もありました。
でも今年は多分、無理でしょうね。
これまではお休みするのは夏場が多かったのですけれど。今年は冬になっても具合が良くないんですもの。
平気だと言ったはずなのに、わたしの脳裏には學友たちの笑顔が浮かんでいました。
御御堂の陰で、こっそりと町さんが見せてくれた絵。眠くて眠くてたまらない御ミサ。
些細なことが、今更大切に思えるんです。
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