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三章

10、名前を呼べ【1】

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「あっ、あぁ……やっ、んっ」

 体が激しく揺さぶられるごとに、わたしの唇からははしたない声が洩れてしまいます。
 しかも蒼一郎さんは、抱いている間もわたしの様子をじっと見ているから。
 とても恥ずかしいのに、彼の前では体も反応も何一つ隠すことができなくて。

「あっ、だめ……そこ、いやぁ」
「成程。確かに絲さんはここが好きやな」
「や、あぁ……ん」

 さっきまでとても激しかったのに。今の蒼一郎さんの動きは、じれったい程に緩慢で。でもそのせいで、より強烈に甘美な刺激を与えられて。

 わたしは唇を閉じることすらできずに、彼が与えてくれる悦楽の中を漂うしかなかったの。
 もう口から零れるのは、ちゃんとした言葉にはならず。喘ぎ声すらも、かすれた吐息と混じり合って。

「ああ、ええな。もっと啼いてええで」なんて、耳元で囁かれるものだから。
 わたしは、何を読ませてほしかったのか。彼に何を求めていたのかすら、考えられなくなっていたの。

 今日の蒼一郎さんは、これまでよりもずっと時間をかけてわたしを抱くから。
 何度も達して、少し眠りに落ちたと思ったら、また彼のくちづけで目を覚まし。
 確か午後には三條邸に戻って来たはずなのに。
 辺りはすでにとっぷりと日が暮れていました。

 夏は日暮れが遅いはずなのに。開けられた障子の向こうの空は、西日の余韻すら残っていません。
 蛍かしら。池の辺りをふよふよと明滅する緑の光が飛んでいます。

「まだ終わってへんで」

 ぼんやりと蛍を眺めていたわたしの顔を、蒼一郎さんがご自分の方へと向けさせます。
 深いくちづけを与えられ、彼の舌がわたしの舌を翻弄するの。

「ほんまは朝まで抱きたいとこやけど。絲さんの体が心配やからな。そろそろ風呂に入って、晩飯にしよか」
「お風呂、入りたい、です」

 体はべたべたで、しかも夏とはいえ全裸だから、蒼一郎さんと重なっていない部分は少し冷えています。
 
「せやなぁ。あと一回したら、一緒に入ろな」
「え? まだなの?」
「ん? さっきまだ終わってへんって言うたよな」

 言いましたよ。聞きました。でも、もう何度も達して、しかも蒼一郎さんもですよね。
 
 文句を言いたいのに、彼の指で舌で翻弄されて。まだ快感の余韻が引いていない体は、すぐに落ちていきます。

 彼の手を肌に、指を中に感じ。「しんどいやろから、もう挿れへんわ」なんて、まるで親切なように聞こえる言葉を囁かれながら、わたしは高みに押し上げられます。

「も、だめ……苦しい、の」
「『蒼一郎さん、好き』って言いながら達したら、やめたろ。けど、達する時に言わんと無効やで」
「な、なに、それ」
「ほな、約束な」

 室内は暗くて、明かりもついていないけれど。暗闇に慣れた目には、蒼一郎さんの笑みがはっきりと見えました。
 でも、冷静でいられたのは其処まで。
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