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三章

11、名前を呼べ【2】

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 決して大きくはないわたしの胸に、蒼一郎さんの唇が触れ。その乾いた感触が、胸の尖りをかすめるように撫で、しかも指は敏感すぎる部分を弄り、わたしは首を振って身悶えるしかなかったの。

 息が徐々に上がり、胸が激しく上下します。あと少し……というところで蒼一郎さんは指の動きを止めて、わたしを眺めています。

「ちゃんと言うんやで」
「……はい」
「ええ子や」

 それが合図であるかのように、わたしは追い上げられました。

「あ、あぁ、や……そ、いちろ……さん」
「まだ足りへんなぁ」

 彼の背中に爪を立て、わたしは背中をのけぞらせました。

「そう、いちろ、さん。す、き……あぁ、あっ」

 自分の指から力が抜けるのが分かります。目の前でちかちかと光が弾け、頭の中は真っ白になって。
 畳に崩れるわたしの背を、蒼一郎さんが抱きとめてくださったの。
 でも、彼のてのひらの感触すらも感じてしまって。

「や、ぁ……だめぇ、あぁ……ん」
「よう出来たな。まだしばらく感じとき。綺麗な絲さんを俺によう見せて」

 びくびくと体が跳ねて、痙攣が止まりません。

「わたし……ちゃんと、言えた?」
「言えたで。頑張ったな」

 乱れた髪にくちづけを落とされて、まだ余韻から抜けきれないわたしの体を抱きしめて、蒼一郎さんは褒めてくださいました。
 それが嬉しくて。わたしは微笑んだの。

◇◇◇

 達する時に、俺の名前を呼んで「好き」と言うように命じたら、絲さんは必死にそれに応じた。
 しかも「ちゃんと言えた?」なんて健気にも問うてくるもんやから……あかん、また抱きたくなってしまう。

 今日は何度抱いたか分からへん。これ以上の無理はさせられへんのや。
 自分に言い聞かせ、俺は絲さんの裸身をブラウスで覆った。
 絲さんは疲れて眠っとうから、ほんまは朝まで寝かせてやりたいんやけど。風呂と晩飯抜きにしたら、また具合が悪なりそうやしなぁ。
 
 俺の腕の中で、何故か絲さんは微笑みを浮かべたまま熟睡しとう。

 ああ、可愛いなぁ。
 せやのに、俺の名前を必死で呼んで、極まる絲さんの姿はあまりにも妖艶で。
 息を呑んで見とれるほどやった。

 ほんまはあんたを遠野の家に帰して、もう忘れるつもりやったのに。
 どんなに頑張っても無理やった。無理なんやなぁ、好きな人を忘れるっちゅうのは……俺にはできへん。

 風呂はもう沸かしてあるから、そのまま絲さんを抱き上げて連れていく。
 長い廊下は暗く、足元を照らす行灯が等間隔で並べられとう。さすがに裸というわけにはいかんから、俺は紬の着物を羽織っとうけど。帯も適当や。

カシラ。もう夕食は部屋に運んでもええですか」
「ああ、頼む」

 小さく声を掛けてくる波多野の姿は見えない。きっと絲さんに遠慮しとんやろ。

「せや。あの可愛い野菜、作ったってくれへんか?」
「可愛い野菜? ああ、飾り切りのことですね」

 すぐに納得した波多野は、気配を消した。忍者みたいな奴や。
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