百夜の秘書

No.26

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駆引は内密に

二、

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「今回は将棋にするよ。天藍さん相手に運試しで勝負を決めるのはつまらないし」
 そう言って瑪瑙は、卓に将棋のコマを並べた。通常目にするような木製ではなくカジノ用の特注で、カラフルなガラスに役が掘られてでできている。
 天藍は座ったまま、蝶の顔を覗き込んだ。
「蝶は将棋をしたことはある?」
「いえ、遊び方も知りません」
「それなら、やりながらルールを教えるよ。わかってきたら僕に助言をして」
 二人のやりとりを見て、瑪瑙は笑った。
「えー、二対一?まあ、おもしろいならなんでもいいけどさ」
 そうして、ゲームが始まった。


 相手の王の駒を取れば勝ち、自分の玉の駒が取られたら負け。それぞれの駒は決まった動きしかできない。
 そう天藍が蝶にルールを教えながら、瑪瑙と将棋をさして三十分が経過した。
「次、蝶はどこがいいと思う?」
「っ……!」
 テーブルの下、瑪瑙の視界からは見えない位置で、天藍の指が蝶の腹部を圧迫した。
 蝶は必死に冷静を装うが、天藍には身体が密着しているため、微かな身体の震えもよく伝わる。
「聞いているかい?」
「わ、わかりませ、ん……っ」
 ……そんなことより、お手洗いに行きたい。
 飲食店巡りを付き合わされたせいで、蝶の膀胱は限界寸前だった。
 もう今日は諦めてトイレに行ってしまおうか。けれど定時まであと二時間、ただでさえ出張で割り増しになる給料が二倍になる機会を逃すのは惜しい……。そんな考えが、頭の中をぐるぐる回る。
 天藍は、不意にまた蝶の膀胱を押し込んだ。
「ひ…っ」
 じわりと、出口が熱くなる感覚。蝶は思わず変な声を上げてしまい、慌てて咳払いをして誤魔化す。
 天藍は、蝶が限界だということに気づいているのだろう。だからわざとこうして反応を見ているのだとわかって、蝶は切羽詰まっているながらも腹立たしくなる。
 黙り込む蝶を見て、天藍は自分で将棋の駒を一つ進める。
「じゃあ、ここかな」
「うーん、そう来たか……」
 瑪瑙は盤を見つめ、考え込む。
 しかし、この静寂も今の蝶には苦しかった。
 三人しか人のいないこの部屋では、布の擦れる音もよく響く。それに座ったままでは身動きも取れないし、変に動くと瑪瑙に不審に思われるだろう。
 そうしている間に、先ほど摂取した水分はどんどん膀胱の中に溜まっていく。
 ……もう、無理だ。これ以上耐えられそうにない。
 蝶はついにそう思い、テーブルの下にある天藍の手をトントンと叩いた。
「旦那様……その……」
 蝶が言い終える前に、天藍は察して、その耳に小声で囁いた。
「いいよ。ここでして」
「……っ……!?」
 その言葉の意味に気づいて、蝶はかあっと顔が熱くなる。
 確かに、そのためにはかされたおむつなのだろう。
 けれど……こんな部屋の真ん中で? しかも取引先の目の前で?!
 無理だと言う意思を込めて首を横に振るが、天藍は口角を上げ、蝶の腰を逃がさないように抑えた。
「っ~…!」
 衝撃でまた、その出口がじわりと熱くなる。
 けれど蝶は、もうこれ以上我慢ができないことを感じ、天藍に言われた通り活躍筋をゆるめた。
(……う……変な感覚……)
 じわじわと少しずつ、おむつの中に出していく。中は熱くなるが、服が濡れる気配はない。
 目の前で次の一手に悩む取引相手は、まさか向かい側にいる男が今おむつに排泄をさせられているなんて、思ってもいないだろう。蝶は羞恥でおかしくなりそうだった。
 しかし、しばらくそうしていた頃、つうっと太ももに熱い液体が流れるのを感じた。
(……え……?!)
 確かにおむつを履かされているはずなのだが、その隙間から液体が漏れ出している。夏用の薄い着物はあっという間に染みを作った。
「だ、旦那様……」
 履かせた張本人がわざとそうなるように仕向けたのだと思い、蝶は顔を上げる。
 しかし天藍も驚いていて、彼にも予想外の自体なのだとわかり、一層焦る。
「蝶、体調がすぐれないの?吐きそう?」
 天藍はすぐに機転を利かせて、瑪瑙にも聞こえるようにそう言う。
 蝶はそれに便乗し、口を抑えてコクコクと頷いた。
 瑪瑙は顔を上げ、
「あれ? 大丈夫? さっき食べすぎちゃったかな」
「かもしれない。少し抜けるね」
 天藍は蝶の腰を抱え、部屋の外に出た。


 幸い、トイレはVIPルームを出てすぐ隣にあった。
 広い個室に入った途端、蝶の意に反し、ポタポタと液体が床に零れる。
「あ……あっ、だめ……!」
 しかし一旦出し始めてしまったそれはもう、止めることなどできなかった。
 蝶の下履が濡れ、液体が足を伝い、床のタイルに小さな水溜りが出来ていく。
「量が多くて、紙に吸いきれなかったのかな……」
 天藍はそう呟くように言って、蝶の服を後ろから脱がせていく。
 例のおむつが見えるように前を開けられ、蝶は慌てた。
「だ、旦那様、手が濡れてしまいますよ」
「それにしても、さすが高級カジノだよね。トイレも広くて」
 しかし天藍は構わず、蝶のおむつを脱がせる。
 まだ液体が流れ落ちているのもかかわらず、天藍の手はその性器でもある排泄器官を弄り始めた。
「っあ、まだ出てるのに……っ!」
「ふふ、可愛いね。最高だよ」
 蝶が我慢できずに服を濡らす様子は、どうやら天藍の変なスイッチを入れてしまったらしい。
 前を触られ続け、蝶もおかしな気分になっていく。
「っ…だ、旦那様…っ、これ以上は……」
「声、抑えられる?」
 そう言って後ろから腰を抑えられ、蝶は残った理性で聞いた。
「こ、ここでするんですか?」
「だめ?」
「取引先の社内ですし、こんな場所は……」
「じゃあ、帰ってからならいい?」
 その言葉に、混乱していた蝶は思わず頷いた。


「秘書さん、具合は大丈夫?」
「お騒がせしました。体調は問題ありません。……ですが」
 蝶は瑪瑙に尋ねられ、浮かない顔で自分の服を見た。
「吐いて服が汚れたと言ったら、旦那様がなぜかこのような服を借りてきて……」
 着せられたのは、男性のディーラーが着ている制服。それも兎仕様のものだった。
「……耳としっぽはディーラーの仕事に不要では?」
「ディーラーは見た目も大事なんだよ」
 天藍はそう言って、蝶のおしりのポンポンを撫でる。
 瑪瑙は楽しそうに笑い、
「秘書さん、よく似合っているよ。天藍さんのとこじゃなくてうちで働かない?」
「……給料が今の倍になるなら考えます」
 そう素っ気なく答えた蝶の後ろで、天藍はくすくす笑い、 
「僕のとこの倍ってなると……このくらいかな」
 そう言って天藍が指で示した数字に、瑪瑙の顔が引き攣る。
「へ、へぇ、よっぽどお気に入りなんだね……ひょっとして、旅館の仕事外でも天藍さんの世話してるとか?」
「はい?違いますが」
 まるで蝶が業務ではなく媚を売って稼いでるとでも言いたげな瑪瑙に、蝶はかちんとくる。
 そもそも今日こんなことになってしまったのも、全ては瑪瑙が食べ歩きなどを提案して、この馬鹿げた取引に参加させられたせいだ。
 蝶は完全に腹が立ち、天藍を振り返って言った。
「旦那様、将棋のルールはわかりましたので、あとは私にやらてください」

 そうして、蝶は将棋で瑪瑙を負かせ、その後の取引も最安値で済ますことができたのだった。
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