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蝶の秘密
二、
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午後五時半になり、旅館は学生たちを迎え入れた。
中居である柳は接待の仕事へ向かい、蝶と寧は、浴室の確認をすることになった。
シャアアア……
辺りには、浴室にお湯を入れる水音が響いている。
「それから、洗面器は二十用意していますが、個数は合っていますか?」
「……あ。はい、それで間違いありません」
ここは脱衣所。寧が見守る中、浴室の担当者と蝶はやりとりしている。
しかし、蝶の様子が先程から何かおかしいと、昔から蝶を近くでよく見ていた寧は気づいていた。
会話中たまに上の空になり、ときたま足を擦り合わせたり、手で太腿をさすったりと、どこかそわそわと落ち着きがない。
「蝶、疲れてるのか?」
浴室から離れ廊下に出て、小さく息をつく蝶に、寧は意地悪をするという決意はどこへ行ったのか、心配してそう声をかける。
「いや、当たり前だよな、朝から動きっぱなしだし。もう大きな仕事はないし、少し休憩したらどうだ?」
「いえ、結構です」
蝶はそう断るが、またふうっとため息をつき、寧から視線を逸らす。
その腰は何故か落ち着きなく揺れて、手は服をギュッと掴んでいる。
寧は、その視線の先に従業員用の男性トイレがあることに気がついた。
ふと、寧は思う。
そういえば今日、朝十時からこの五時半まで、蝶がトイレへ向かっている姿を一度だって見ていない。
「蝶、もしかしてトイレに行きたいんじゃないか?」
そう聞くと、蝶は驚いたように寧を振り返った。
そして、少し目を泳がせ、気まずそうに顔を逸らす。
「……いえ、別に」
しかしそう答えている間も、蝶はその場で小さな足踏みをしていた。
「本当かよ? だって、朝から一度も行ってないみたいだし……」
そう寧にじっと見られて、蝶は参ったようにため息をつき、彼に書類を預けた。
「では、先に事務所へ戻っていてください」
蝶は、その従業員用の手洗い場のドアを開けた。
ここは蝶が秘書に昇格する前によく使用していた、見慣れた便所であった。
中は広く、沢山の小便器と個室がある。
「……ッ……」
それを見た途端、蝶は一層強い尿意を感じ、キュッと内股になった。
実際、寧の指摘通り、蝶は朝九時から一度も用を足していない。
昼時に飲んだ緑茶が影響し、先程調理場へ向かった時点で、蝶の膀胱には既にかなりの量のおしっこが溜まっていた。
つまり、本当は今すぐにでもトイレへ向かいたいぐらいだったのだが、それでも蝶は冷静を装って仕事を続けていた。
ところが、そこでコップ一杯の麦茶を飲んでしまった。
そのせいで膀胱をさらに圧迫され、気を抜けば今にももらしてしまいそうな程パンパンになっていた。
しかも運悪く、担当した場所が水場。
蝶はその強い尿意に耐えきれず、近くにいた寧に察される程、日頃の冷静さをなくしていた。
しかし蝶は、天藍に貞操帯をつけられている。
例えすぐ目の前に便器があったとしても、放尿してしまえば盛大に服を汚してしまうため、したくても今ここでは用を済ませるわけにはいかなかった。
この旅館では、色々な従業員の服の構造を配慮して、男性用トイレにも個室が多くある。
蝶は、心配する寧の前でトイレに行ったフリだけでもしようと思ったのだが、便所に来て何もせずに立っているのは周囲から見ておかしいと感じ、とりあえず近くの個室に入った。
そして、その和式の便器を直に見て……蝶の貞操帯の中にある排泄器官は、反射的にたらりと、一雫の熱い液体を溢してしまった。
「っ、ん、んっ……!!」
蝶は慌ててもじもじと足をすり合わせ、便器に背を向け、個室に鍵をかけた。
ショロロロ……
ジャーッ
しかし、周囲から止めどなく聞こえる、誰かが用を足す水の音。
そのせいで蝶は、もう一つのことしか考えることができなくなった。
私も、今すぐお小水がしたい……!
ショロロッ
「っ……!!!」
誘惑に負けて、蝶はタイルの床に、我慢していたはずのおしっこを少しだけもらしてしまった。
蝶は放尿の快感に意識を持っていかれそうになったが、ハッと我に帰り、慌てて括約筋をギューッとしめる。誰の目もないことを良いことに前屈みになり、はしたなくゆらゆらと腰を揺らした。
「んッ…ふっ、はーっ…ふーっ」
これ以上出してはいけないという理性と、もっと出したいという欲求の葛藤に、蝶の頭はクラクラする。
その完全に落ち着きを欠いた様子は、普段の冷静な蝶とは似ても似つかない物であった。
そうして蝶は、どうにか理性を取り戻し、おもらしを完全に止めることができた。
息を整え、ペーパーを取り、濡れた自身の足と床の小さな小さな水たまりを拭く。そして、汚れた紙を便器に流した。
ジャーッ……
「……っ」
目の前で流れていく便器の水に、蝶のその大量の小水を堰き止めている出口がひくッと痙攣する。意味もなく、服をギュッと握った。
蝶の下腹は、服の下で未だぽっこりと膨らんでいる。
……目の前に、トイレがあるのに。
周りは皆用を足してるのに、何故自分は解放できないのか。
蝶は、今すぐこの大量の小水を出してしまいたくて、気が狂いそうだった。
「んっ、っ……!」
括約筋がまたひくッひくッと震え出し、蝶は誤魔化すために落ち着きなく太腿をさする。
その震えている出口を、抑えるなり揉むなりしたいのに、股にはしっかりと貞操帯がつけられているため、どうにもできない。
ああ、もう、早くおしっこしたい!
蝶は心の中で本音を叫ぶ。
けれど、勤務時間もあと一時間だ。これも全て天藍に金を貰うためと、蝶はなんとか気持ちを立て直して、個室を出た。
……しかし、トイレへ行ったにも関わらず、極少量しか用を足さないという妙な行動をとったせいで、蝶の身体がおかしくなってしまった。
中居である柳は接待の仕事へ向かい、蝶と寧は、浴室の確認をすることになった。
シャアアア……
辺りには、浴室にお湯を入れる水音が響いている。
「それから、洗面器は二十用意していますが、個数は合っていますか?」
「……あ。はい、それで間違いありません」
ここは脱衣所。寧が見守る中、浴室の担当者と蝶はやりとりしている。
しかし、蝶の様子が先程から何かおかしいと、昔から蝶を近くでよく見ていた寧は気づいていた。
会話中たまに上の空になり、ときたま足を擦り合わせたり、手で太腿をさすったりと、どこかそわそわと落ち着きがない。
「蝶、疲れてるのか?」
浴室から離れ廊下に出て、小さく息をつく蝶に、寧は意地悪をするという決意はどこへ行ったのか、心配してそう声をかける。
「いや、当たり前だよな、朝から動きっぱなしだし。もう大きな仕事はないし、少し休憩したらどうだ?」
「いえ、結構です」
蝶はそう断るが、またふうっとため息をつき、寧から視線を逸らす。
その腰は何故か落ち着きなく揺れて、手は服をギュッと掴んでいる。
寧は、その視線の先に従業員用の男性トイレがあることに気がついた。
ふと、寧は思う。
そういえば今日、朝十時からこの五時半まで、蝶がトイレへ向かっている姿を一度だって見ていない。
「蝶、もしかしてトイレに行きたいんじゃないか?」
そう聞くと、蝶は驚いたように寧を振り返った。
そして、少し目を泳がせ、気まずそうに顔を逸らす。
「……いえ、別に」
しかしそう答えている間も、蝶はその場で小さな足踏みをしていた。
「本当かよ? だって、朝から一度も行ってないみたいだし……」
そう寧にじっと見られて、蝶は参ったようにため息をつき、彼に書類を預けた。
「では、先に事務所へ戻っていてください」
蝶は、その従業員用の手洗い場のドアを開けた。
ここは蝶が秘書に昇格する前によく使用していた、見慣れた便所であった。
中は広く、沢山の小便器と個室がある。
「……ッ……」
それを見た途端、蝶は一層強い尿意を感じ、キュッと内股になった。
実際、寧の指摘通り、蝶は朝九時から一度も用を足していない。
昼時に飲んだ緑茶が影響し、先程調理場へ向かった時点で、蝶の膀胱には既にかなりの量のおしっこが溜まっていた。
つまり、本当は今すぐにでもトイレへ向かいたいぐらいだったのだが、それでも蝶は冷静を装って仕事を続けていた。
ところが、そこでコップ一杯の麦茶を飲んでしまった。
そのせいで膀胱をさらに圧迫され、気を抜けば今にももらしてしまいそうな程パンパンになっていた。
しかも運悪く、担当した場所が水場。
蝶はその強い尿意に耐えきれず、近くにいた寧に察される程、日頃の冷静さをなくしていた。
しかし蝶は、天藍に貞操帯をつけられている。
例えすぐ目の前に便器があったとしても、放尿してしまえば盛大に服を汚してしまうため、したくても今ここでは用を済ませるわけにはいかなかった。
この旅館では、色々な従業員の服の構造を配慮して、男性用トイレにも個室が多くある。
蝶は、心配する寧の前でトイレに行ったフリだけでもしようと思ったのだが、便所に来て何もせずに立っているのは周囲から見ておかしいと感じ、とりあえず近くの個室に入った。
そして、その和式の便器を直に見て……蝶の貞操帯の中にある排泄器官は、反射的にたらりと、一雫の熱い液体を溢してしまった。
「っ、ん、んっ……!!」
蝶は慌ててもじもじと足をすり合わせ、便器に背を向け、個室に鍵をかけた。
ショロロロ……
ジャーッ
しかし、周囲から止めどなく聞こえる、誰かが用を足す水の音。
そのせいで蝶は、もう一つのことしか考えることができなくなった。
私も、今すぐお小水がしたい……!
ショロロッ
「っ……!!!」
誘惑に負けて、蝶はタイルの床に、我慢していたはずのおしっこを少しだけもらしてしまった。
蝶は放尿の快感に意識を持っていかれそうになったが、ハッと我に帰り、慌てて括約筋をギューッとしめる。誰の目もないことを良いことに前屈みになり、はしたなくゆらゆらと腰を揺らした。
「んッ…ふっ、はーっ…ふーっ」
これ以上出してはいけないという理性と、もっと出したいという欲求の葛藤に、蝶の頭はクラクラする。
その完全に落ち着きを欠いた様子は、普段の冷静な蝶とは似ても似つかない物であった。
そうして蝶は、どうにか理性を取り戻し、おもらしを完全に止めることができた。
息を整え、ペーパーを取り、濡れた自身の足と床の小さな小さな水たまりを拭く。そして、汚れた紙を便器に流した。
ジャーッ……
「……っ」
目の前で流れていく便器の水に、蝶のその大量の小水を堰き止めている出口がひくッと痙攣する。意味もなく、服をギュッと握った。
蝶の下腹は、服の下で未だぽっこりと膨らんでいる。
……目の前に、トイレがあるのに。
周りは皆用を足してるのに、何故自分は解放できないのか。
蝶は、今すぐこの大量の小水を出してしまいたくて、気が狂いそうだった。
「んっ、っ……!」
括約筋がまたひくッひくッと震え出し、蝶は誤魔化すために落ち着きなく太腿をさする。
その震えている出口を、抑えるなり揉むなりしたいのに、股にはしっかりと貞操帯がつけられているため、どうにもできない。
ああ、もう、早くおしっこしたい!
蝶は心の中で本音を叫ぶ。
けれど、勤務時間もあと一時間だ。これも全て天藍に金を貰うためと、蝶はなんとか気持ちを立て直して、個室を出た。
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