百夜の秘書

No.26

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蝶の秘密

三、

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「それで風呂場の…うっ……!」
「蝶? どうかしたか?」
「……いえ。すみません。それで、風呂場の時間帯の件ですが……」

 突然肩をビクつかせた蝶に、寧が不審そうに首を傾げたが、蝶は何ともなかったようにまた話を続けた。
 しかし。

 ……ひくッ

「んっ……!」

 また、蝶のその『出口』が震えだし、息が詰まった。

 蝶は寧のいる事務室に戻って、表向きは平然と仕事を続けていた。
 ところが、その貞操帯の中で、排泄器官の出口にある括約筋の痙攣が止まらないのだ。
 理由は明確で、強烈な尿意を無理やり我慢しているせいだった。

 ひくッ、ひくひくッ

「っ、ッ……!」

 また出口が震え出し、蝶は落ち着きなく足踏みをしながら、自分の腰をさする。
 手で直接抑えることができない状況なのが、もどかしくてしょうがなかった。
 蝶は事務所の時計をちらりと見て、自分に言い聞かせる。
 あと五十分。
 あと五十分だけ待てば、この苦しみから解放される。
 蝶は、今にももれそうなおしっこを、括約筋を痙攣させながら必死に堰き止め、周囲の従業員に指示を続けていた。

 ところが、その時計が二十分進んだ時、とうとう蝶の限界が訪れた。

 ショロッ……ショロッ、ショロッ……

「ッ!?」

 ついにその括約筋が、蝶の意に反して液体の通行を許し始めてしまったのだ。
 しかも、ここはトイレじゃない、周りに人も多い事務室。
 蝶は大きく身体を震わせ、反射的にバッと足をクロスさせた。
 不審な動きに、寧や周囲がそろって蝶の顔を伺う。

「蝶様?」

 そして熱い液体がたらりと脛を流れる感覚に、蝶はサーっと血の気が引いた。
 ……だめだ、もう、もう我慢できない……!!

「……っ、すみません、急用を思い出しました」

 そう震えた声で周囲に断るなり、書類を放り出して、蝶は廊下へ駆け出した。




 廊下の突き当たり、最上階へ上がるエレベーターのボタンを、蝶は連打する。

「早く、早く……!」

 中々来ないエレベーターに、蝶は切羽詰まって、そう譫言のように呟く。
 蝶の排泄器官はもう我慢の限界だった。その出口はまだヒクヒクと痙攣しているのに、ぴったりと閉じた足には絶えずたらたらと液体が伝わっているのがわかる。
 早く旦那様のところへ行って、貞操帯を外してもらって、そして……!

「蝶! 待てよ、一体どうしたんだ!」

 エレベーターが到着したと同時に、寧が追いついた。
 蝶は驚いたが、必死に冷静を装い、エレベーターに乗りながら答える。

「寧には関係ないことです。少し場を離れます」
「いやお前、どう見ても困ってるし、顔色悪いし! 何か重要なことなんだろ?! 助けになれるならオレが、」

 しかし構わずエレベーターに乗り込んでくる寧に、余裕をなくした蝶は、とうとう叫んでしまった。

「関係ないと言っているでしょう!」

 エレベーターの扉が閉まった。
 嫌な沈黙と共に、エレベーターの上昇が始まる。
 蝶は強く言い過ぎたと思い、ハッと口を手で押さえる。
 寧は、蝶に強く言われたことに一瞬呆然としたが、負けじと反論し返した。

「なっ、何だよその態度! お前やっぱり、偉くなって、昔のことなんて忘れちまったのかよ……?!」
「わ、忘れて、なんか……」

 おしっこのことで頭がいっぱいで、蝶はうまく良い言い訳が出ない。
 ぽた、ぽたぽたっ
 床に水滴が落ちた感覚に、蝶は一層青ざめるが、寧は足元に気付いていなかった。

「じゃあ、何の用事で行くんだよ?」
「……寧には、関係ありません」

 ぽたぽたっ
 さらに床に落ちる水滴に、蝶は足をガクガク震わせながら、必死に括約筋に力を込めた。

「どうして!」
「本当に私用なのです、気にしないでください」

 エレベーターが、二十階に到着した。
 扉が開くなり、蝶は廊下に飛び出して、天藍の部屋へ急ぐ。

「おい、待て!」

 寧も、慌てて追いかける。
 そして、天藍の部屋の扉の目の前で、寧は蝶に追いつき、その腰紐を掴んだ。

「蝶!!」

 グッと、蝶の腹部が強く圧迫され、

「!!!」

 蝶は、完全に決壊した。
「……蝶?」
「あ、あ……!」

 目を見開き固まっている蝶に、寧は近づく。
 そして、寧は気がついた。
 蝶の服が派手に濡れ、足元に水溜りができている。
 ……失禁、している?

「蝶……?!」

 唖然とする寧の前で、蝶は膝から床に崩れ落ちた。
 寧はハッと我に帰り、屈んで蝶の肩をさすった。

「だ、大丈夫か?! 一体どうしたんだ!」
「ち、違、私、ご、ごめんなさい……!」
「あ、謝るなよ! 何か病気なのか?!」

 寧がそう問い詰めても、蝶は真っ赤にした頭を横に振るばかりだ。

 シュイイイイイイーーー……

 足元の水たまりはどんどん広がっていく。
 寧は、その水量が異様に多いことに驚いた。
 こんな大量の水が、蝶の体内に?
 それにさっき、蝶はトイレに行ったんじゃなかったのか?

「はーっ、はーっ、はああ……」

 シュイイイイイイーーー……

 そして未だ床に排尿を続ける蝶の表情は、どこか恍惚としていて、寧はその支えている肩がびくびくと微かに震えているのを感じた。
 それもそのはずだ、蝶にとって、我慢の限界を超えての九時間半ぶりの排泄なのだから。蝶は、服が温かく濡れていく感触を感じながら、快感のあまり頭が真っ白になっていた。
 状況がわからず寧が混乱していると、目の前の扉が開いた。

「こんなところで何をしているんだい?」

 それは、社長・天藍の姿だった。
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