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監禁生活

七話・とば口の日②

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 監禁された日。その日は入浴後に行為を再び求められることも無く、穏やかに眠りにつけた。
 といっても、精神よりも先に体の方が限界を迎え、気絶するように眠ってしまっただけなのだが。十分な睡眠を取れたという点だけは好ましく思っておくべきなのだろう。


 されども、翌日この部屋で目を覚ました時の絶望感は言うまでも無い。悪夢であって欲しかったと昨夜幾度となく考えた言葉が脳を埋めた。それでも現実はやはり現実で、思考の逃げ道を幾ら探そうと何処にもありはしなかった。過度な行為で疲弊した身体は重たく怠い。

 ぽつりと一人取り残された部屋の中、依然としてベッドに寝転んで天井を見つめる。大きなベッドすらすんなりと収めてしまえるこの部屋は、独りきりだと異様に広く寒々しく感じた。
 メアは朝から大学にでも行ってしまったようで、目覚めた時にはもう何処にも気配は無かった。誰かが居た痕跡は、せいぜい朝食を食したのだろう皿が洗って残されていたくらいだ。

(……腹減ったな。……でも、……別に食べたい訳じゃない…)

 何かを食す気にならない。飲む気にもならない。けれど、幸か不幸か腹の虫は元気に声をあげて「飯を寄越せ」と要求してくる。身体の主は食欲が無いのに。
 腹の虫を放っておくことは簡単だった。もう一度、瞼を閉じて、暗闇に逃避すれば良い。そうすれば何時の間にか時は経って、腹の虫もどうでも良くなる。


 逃げなくては、そう考える自分は居た。
 逃げられない、そう考える自分も居た。

 知っているのだ。加虐を行う人間がどういう人間か。逃げようと思って逃げられるものでは無い。抗ってどうにかなる物では無い。だって、どうにかなるなら自分はとっくの昔に『どうにか』出来ていた筈なのだ。義父の時も、その他の時も。
 だから、今回もきっと同じだ。逃げようと思って逃げられる訳がない。相手がメアだからと言って、何かが変わる訳では――無い。

「……メア、……藍那…なんで?」

 きっと最初に裏切ったのは自分の筈なのに、アイネは瞳から流れて出る雫を一滴たりとて止められることは無かった。
 肌を伝いシーツに飲み込まれていった水滴は、静かに存在の跡だけを残して消えていった。
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