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監禁前夜

六話・回帰、そして始まったモノ③

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 後背位をとらされた挙句、なぜか暴れたくとも体が動かぬアイネは与えられる刺激と快楽に女人のように喘ぐほかない。握りしめたシーツは大小入り乱れた皺を作って、縋りついた枕は唾液と涙に濡れそぼる。

(きもちぃ。きもちいい。ちがう。駄目だ。違う。なんで、メアが、ちがう。だって、こんなことシたくない。抱かれたい気分だったけど、本当だけど、メアを穢すのは違う。ちがう、穢すなんて幻想だ。だって、こんなにも、コイツは、愛撫が上手い。ちがう、なんで、どうして、)

 飢えた体に流し込まれる濁流に戸惑いながらも思考を紡ぐ。何度も何度も同じところを通りながら、乱れた思考はそれでも現実を否定したがった。「どれだけ否定しようとも現実は変わらない」と絶望する自身の声を聞きながら。
 けれど、そんな現実逃避も長くは続かなかった。

「はぁ……ごめんね、ちょっと焦らしすぎちゃった。挿れるね」
「ひぁぁっ……え、な……挿れる、って……」

 ちゅぽっと水音を伴ってメアの指がアイネの体内から抜けて、代わりに、秘部に、ソレが当てられて……。アイネに備わった女性の象徴に熱源を当てられ、ぞわりと背筋が粟立った。本気だ。本気なのだ、この男は。

 おそるおそる振り返った。
 視界に映ったのは高揚したように舌なめずりをするメアと、雄々しく天を向くメアの男性器と、煌々とつけられたままの白色の照明。照明を真っすぐに見つめてしまったせいでまた目がチカチカくらくらしてくる……が、今度は本当にそれが灯りのせいなのかは分からなかった。
 それでも、声を震わせながらアイネはメアに懇願をする。

「ま、待って。待てって!! なあ!」
「大丈夫。ちゃんと俺が満たしてあげる。愛してあげる。だって、それがアイネのしたかったことでしょ?」
「ちが、そうじゃなくて…っ、な、なぁ! メア、聞いて……うぁっ、」


 その言葉は、ついぞ聞き入れられなかったけれど。




「ひ、やっ、あぁぁっ、やめ、抜け、抜けってば、…あぁっ」
「ぐっ、あっつ…………あは、あははっ、アイネのナカ、あったかいねぇ……」

 うっそりと笑うその顔は、どうしてもメアには見えなくて。
 がっしりと掴むその腕が、どうしても彼の物には思えなくて。

(ちがう、ちがう、これはちがう……)

 信じてもない神に願わずにはいられない。これは夢だと言ってほしかった。けれど、アイネの切実な願いを叶えてくれる者は居らず、喘ぎを押し殺す為に抱き寄せた枕は歪に茹んだ。
 ほろほろと涙が頬を伝って枕やシーツに染みを増やす。濡れた部位をさらりと撫でて、後背位で緩やかに責め立てるメアは一人勝手な睦言を囁く。

「大丈夫だよ。アイネ」
「俺はもうずーっと一緒だから」
「これからはもう誰にも近付けさせない。触れさせない」
「アイネは何も心配いらないんだよ」
「だから、」

 言葉は途切れ、ぎゅっと強くメアがアイネを抱きしめた。そうしてそのまま、彼の掌はアイネの腹部をゆっくりと撫で始める。大切で愛おしいものを慈しむが如く、肌に触れる指先は優しく柔らかい。同意のない性交を、強姦をしているとは思えない。
 それでも、その背に口付けてから紡がれた言葉はやはりどこか狂気を含んでいて、

「大丈夫、俺がずっと愛して孕ませてあげる」

 流しこまれた言ノ葉が、もう戻れないと告げていた。
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