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24 猫
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「花雨さん」
「ん?なに?」
居間で天と花札をして遊んでいると国に呼ばれたので振り返る。目の前にあるのは毛むくじゃらの…
「え、猫?」
三毛猫がいた。国が抱っこしている。猫は大きな欠伸をすると国の腕からするりと抜けて娘の側まで擦り寄ってくる。尻尾が長く先っぽがくるんと曲がっていた。鍵尻尾らしい。鍵尻尾と言うと幸運をもたらすという噂があるがそれがはたして本当なのかは分からない。猫の背中を優しく撫でているとあることに気づく。
尻尾が…………2本?
娘が目を見開き驚いていると国が娘の様子を見て説明してくれる。
「猫又です。前の当主様が珍しいからと現世から連れて帰ってきた猫です。ただ、寿命がきてしまい亡くなってしまったのですが根気強くここにとどまろうとするもんですから猫又に化けて出てきてしまい……」
「屋敷の中でも癒しの存在だったから愛着湧いちゃって成仏するにもできなくて困ってるんだって」
国の説明に天が付け足す。現世から連れて帰ってくるあたり、前の当主様は変わり者らしい。というか水神という時点でもはや人間がどうこうできる人物ではない。けれど確かに猫は可愛い。娘の家は愛玩動物を飼える程裕福ではなかったため野良猫を撫でるぐらいだったが猫は癒しの存在だった。
国も随分と可愛がっていたらしい。成仏できずにここにとどまっている猫の感情までは読み取れないが、なんとなく猫も猫でここが好きなんだろうなと思う。そしてふと思い出した。そういえば、沼から救出されたとき目覚めてすぐ目の前が暗いと感じたのは顔面に猫が乗っていたせいだったような…。
猫は花札の上で寝っ転がると札をぐしゃぐしゃにする。天が「あーあ」と言って猫のお腹を撫でていた。やはり可愛い。
「これは確かに手放せないかも……」
「この猫がどんな思いでここにいるのか気になるんです。前の当主様はもういないのに……」
「でももしかしたらこの子にも家族がいたのかもよ。それが心残りでここにいるのかも」
そんなことをぽつりと呟くと国が驚いた目でこちらを見た。そして微笑むと口を開く。
「奥方様も同じことを言っておられました。そうですね……もしかしたらそうなのかも知れませんね…」
この猫は現世から攫ってきたようなものだ。もしかしたら自分の我が子がいたかもしれない。兄弟猫や大好きな母猫だって現世にいて、ある日突然変なところに連れてこられた。その衝撃はきっと強いだろう。
「気になったんだけど…この猫に名前は付いてるの?」
国と天は2人揃って首を横に振った。なるほど、つけていないと……
「な、なんで⁉︎⁉︎」
「前の当主様が、猫は猫だと言って付けていなかったので……」
猫は猫。確かにそうだ。
前の当主様の姿がだんだんと垣間見えてきている感じがするのは気のせいだろうか。この猫に名前がないとなると私たちも猫と呼ぶしかなくなる。それでもいいなと思ってしまう。国は猫を拾い上げると縁側の外へと猫を逃し、こちらを振り返った。
「猫、どうでした?少しだけ花雨さんに紹介したかっただけなんですけども…」
「どうでしたって言われても………か、可愛かった…です?」
国は満足げに微笑むと娘の隣に座り花札を手に取り並べ始める。天は「げっ、国とやると負けるからやだなぁ」と愚痴っている。
最近、この光景を見ると懐かしさを覚えてしまうのは何故なのだろうか。原因は不明のまま。きっと娘は名前のほかに記憶の一部もどこかなくしていると薄々感じている。戻ってくればいいと、思っているがいつになるかはわからない。
娘は目を閉じて先に想いを馳せた。
思い出せますように。
娘の思いに答えるように庭の方で猫の「にゃあ」という鳴き声が聞こえた。
「ん?なに?」
居間で天と花札をして遊んでいると国に呼ばれたので振り返る。目の前にあるのは毛むくじゃらの…
「え、猫?」
三毛猫がいた。国が抱っこしている。猫は大きな欠伸をすると国の腕からするりと抜けて娘の側まで擦り寄ってくる。尻尾が長く先っぽがくるんと曲がっていた。鍵尻尾らしい。鍵尻尾と言うと幸運をもたらすという噂があるがそれがはたして本当なのかは分からない。猫の背中を優しく撫でているとあることに気づく。
尻尾が…………2本?
娘が目を見開き驚いていると国が娘の様子を見て説明してくれる。
「猫又です。前の当主様が珍しいからと現世から連れて帰ってきた猫です。ただ、寿命がきてしまい亡くなってしまったのですが根気強くここにとどまろうとするもんですから猫又に化けて出てきてしまい……」
「屋敷の中でも癒しの存在だったから愛着湧いちゃって成仏するにもできなくて困ってるんだって」
国の説明に天が付け足す。現世から連れて帰ってくるあたり、前の当主様は変わり者らしい。というか水神という時点でもはや人間がどうこうできる人物ではない。けれど確かに猫は可愛い。娘の家は愛玩動物を飼える程裕福ではなかったため野良猫を撫でるぐらいだったが猫は癒しの存在だった。
国も随分と可愛がっていたらしい。成仏できずにここにとどまっている猫の感情までは読み取れないが、なんとなく猫も猫でここが好きなんだろうなと思う。そしてふと思い出した。そういえば、沼から救出されたとき目覚めてすぐ目の前が暗いと感じたのは顔面に猫が乗っていたせいだったような…。
猫は花札の上で寝っ転がると札をぐしゃぐしゃにする。天が「あーあ」と言って猫のお腹を撫でていた。やはり可愛い。
「これは確かに手放せないかも……」
「この猫がどんな思いでここにいるのか気になるんです。前の当主様はもういないのに……」
「でももしかしたらこの子にも家族がいたのかもよ。それが心残りでここにいるのかも」
そんなことをぽつりと呟くと国が驚いた目でこちらを見た。そして微笑むと口を開く。
「奥方様も同じことを言っておられました。そうですね……もしかしたらそうなのかも知れませんね…」
この猫は現世から攫ってきたようなものだ。もしかしたら自分の我が子がいたかもしれない。兄弟猫や大好きな母猫だって現世にいて、ある日突然変なところに連れてこられた。その衝撃はきっと強いだろう。
「気になったんだけど…この猫に名前は付いてるの?」
国と天は2人揃って首を横に振った。なるほど、つけていないと……
「な、なんで⁉︎⁉︎」
「前の当主様が、猫は猫だと言って付けていなかったので……」
猫は猫。確かにそうだ。
前の当主様の姿がだんだんと垣間見えてきている感じがするのは気のせいだろうか。この猫に名前がないとなると私たちも猫と呼ぶしかなくなる。それでもいいなと思ってしまう。国は猫を拾い上げると縁側の外へと猫を逃し、こちらを振り返った。
「猫、どうでした?少しだけ花雨さんに紹介したかっただけなんですけども…」
「どうでしたって言われても………か、可愛かった…です?」
国は満足げに微笑むと娘の隣に座り花札を手に取り並べ始める。天は「げっ、国とやると負けるからやだなぁ」と愚痴っている。
最近、この光景を見ると懐かしさを覚えてしまうのは何故なのだろうか。原因は不明のまま。きっと娘は名前のほかに記憶の一部もどこかなくしていると薄々感じている。戻ってくればいいと、思っているがいつになるかはわからない。
娘は目を閉じて先に想いを馳せた。
思い出せますように。
娘の思いに答えるように庭の方で猫の「にゃあ」という鳴き声が聞こえた。
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