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初めてのパパ

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「と…とりあえず家に送るわ。」

「うん。」

皐月の電話から二人の空気は一変した。
皐月の父親は現在、単身赴任をしている為ほとんど家には居ないのだがたまたま今日から数日帰ってきているらしく、ストーカー事件で皐月を助けた拓海にお礼を言いたいという話だった。

拓海としてはとてもハードルが高いので遠慮したいところだったが彼女の父親の好意を断るのは大変不味いと少しずつ近づく皐月の家に断頭台に向かうような気持ちで歩を進めた。

家が見える位置までくると、玄関の前で仁王立ちした長身の男性が一緒にみえた。

「あれが皐月のお父さん?」

「たぶんそうだと思う。」

更に家に近づくと仁王立ち下男性も二人に気づき近寄ってきた。

「お帰り。」

「ただいま……。」

「初めまして。日高 拓海です。む、娘さんを送るのが遅くなってすいません!」

拓海が勢いよく頭を下げるが皐月の父親は拓海を見つめるだけだった。

「パ、パパ?」

「ああ、そうだね。少し遅いからもう少しはやく帰してね。」

「はい!」

「皐月、パパはちょっと拓海君と話がしたいから先に家に入っててくれないか?」

「え、嫌だけど。」

「じゃあまた後でね。って今嫌だって?」

皐月のまさかの拒否に皐月の父親は皐月の顔を二度見するが皐月は譲る気は無い。真っ直ぐ見据える眼差しは拓海に何を言う気だと無言の圧力さえかけている。

「あのね、ちょっと男同士の話と言うものが「ない! 」…言うものが「ない!全くない!」…。」

親子のやり取りに緊張していた拓海の緊張はとけて吹き出すのを我慢していた。娘の譲らない姿勢に皐月の父親が折れそうになってきたところで、拓海は少し勇気を振り絞る。

「あの、俺娘さんとお付き合いさせてもらってます。あんなことが無いように守りますから…。」

拓海の言葉に皐月のは顔を真っ赤にして俯いた。
皐月の父親は驚きつつも皐月の様子を見て顔を緩めたが、拓海に近寄ると両肩をガッチリつかんだ。

「娘はやらん。」

「パ、パパ何言ってるの?!」

「娘はやらんが、また遊びに来るといい。今度は昼間にな。」

拓海がコクリと頷くと、皐月の父親は満足気に笑って皐月の背中を押しながら家に戻って行った。
皐月は無理やり背中を押す父親から逃れようとするが、無理な事がわかると拓海に「また明日!」とだけ言って家に入って行った。

「あ~焦った!!」

誰も居なくなった路上で拓海はしゃがみこみ開放感を味わった。
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