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いらぬ心配

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「あと5分か……。」

「ん?日高君この後急ぎの用でもあるの?」

「い、いや。そんなこと無いですよ~。」

苦笑いで同僚を誤魔化しながらも拓海の心の中は焦りでいっぱいだった。
クラスメイトに嵌められポテトを持って行った時、皐月は驚いた顔をして何も言ってこなかったので、拓海はバイト終わりに近くのファミレスで落ち合おうとだけ言って返事も聞かずに逃げてきた。

皐月がきちんと待っているのか、怒っているのか気にしていないのかすら分からないので拓海の心はバイトどころではなかった。

「あ、お先です!!」

定時になり拓海はダッシュで更衣室に向かった。
素早く着替え荷物を持ち走ってファミレスに行くと皐月は一人でドリンクを飲みながら待っていた。
拓海は少しホッとしながら皐月に近寄った。

「ごめん!待たせた。」

「バイトお疲れ~。さっきまで皆居たしそんなにだよ。」

「そっか。バイトの事黙っててごめん!…怒ってる?」

「別に怒っては無いよ。言ってくれてもいいのにとは思ったけど……。別にバイトくらい普通でしょ。」

少し視線をそらし頬を膨らませる皐月の姿が可愛いくて拓海は抱きつきたい衝動を抑えながら話を続ける。

「初めてで怒られてばっかだし…。」

「最初は皆そんなものでしょ。」

「彼女と遊ぶ金ほしさとか動機が不純すぎるし…。」

「そ、それは……むしろ嬉しいでしょ。」

皐月はカバンから雑誌を取り出して拓海に開いてみせた。開かれたページはギターショーの特集ページで約1000本のギターの展示やプロのギタリストのステージなど様々な催しが紹介されていた。

「へ~こんなイベントやるんだ!面白そうだな。」

「興味あるかなって思って……一緒に行かない?」

「行く!行こうぜ!!」

「バイトっていつが休みなの?」

拓海はスマホを取り出して予定を確認した。
バイトは基本的に学校帰りに入れているので土日は別の用事が無い限りは空いている。
ちょうど次の土曜が拓海と皐月二人とも予定が空いていたのでその日に行くことにした。

「めっちゃ楽しみだな!」

「そうだね…。」

すでに時刻が9時をまわった為、二人はファミレスを出た。流石に心配になり拓海は皐月を家まで送る事にしたが、途中で皐月の電話が鳴る。
相手は皐月のははおや母親で帰りが遅いので心配の電話だった。

「大丈夫だよ。拓海に送ってもらってるから!え……あ、分かった。」

電話を切った皐月はバツが悪そうな顔を拓海に向けた。
初めて見る表情に拓海の中ではクエスチョンがとぶ。

「パパが帰ってきてるみたいで~拓海に会いたいって。」

「パ!お父さん?……マジで……。」
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