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男の子としての見栄

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拓海は最近、カラオケでバイトを始めた。
きっかけは皐月と付き合い出し、雪斗と恋愛感について話した事だった。

「たっくんはさ。皐月ちゃんと放課後デートとかしないの?いつも何処にも寄らずに帰ってるよね。」

「なんで知ってんだよ……。」

「まあまあ。で、カフェとかショッピングしたりとかしないの?」

「……今までそんなんした事無かったから思い付かなかった…。」

拓海は皐月が初めての彼女であり、今まで雪菜によって女子と気軽に話せなかった。
その弊害がこんな形でも出ている事に雪斗は責任を感じた。
もちろん拓海自身も音楽にばかりかまけてたので全て雪菜のせいでは無いのだが、雪菜は意外に責任感が強かった。

鞄の中から一冊の雑誌を取り出した雪斗は、それを拓海に押し付けた。

「今晩、隅から隅まで読むように!」

「俺、今日はギ「読むように!」タ…わ、わかった。」

雪斗の圧に負けて雑誌を受け取った拓海は家に帰ると、鞄から雪斗に渡された雑誌を取り出した。
雑誌の表紙をみると、デカデカとデートスポット特集と書かれている。
半分義務感で読み始めると、そこには今まで拓海が知らなかった世界が広がっていた。

「皆こんなとこ行ってんの…スゲェな。」

新しいページを開く度に仲良さげなモデルが満喫している場面が段々と自分へと置き換わってくる。
拓海はいつの間にか皐月とのデートを想像しながら雑誌を読んでいた。

そしてスポット情報のページが終わると今度はプレゼントについてのページになり、拓海の眼は見開いた。

「え…何これ高っ!てか誕生日とXmasは分かるが記念日…コイツらなんてセレブなんだ……。」

拓海は絶望した。
世の中の高校生達の付き合いに。
自分の考えの甘さとお金の無さに。

そして次の日、雪斗に雑誌を返した。

「その顔はきちんと読んだようだね。」

「あ、ああ……。」

雪斗は少し暗い表情の拓海に次なる雑誌を差し出す。
その雑誌の表紙にある文字を読むと拓海はバッと顔を上げ雪斗をみた。

「今、君に必要な物はコレだろう。大丈夫だ、まだ慌てるような時期じゃない。」

「し、師匠……。」


そうして拓海はバイトを始めた。
デートやプレゼント代の為のバイトなんてカッコ悪い気がして皐月と要に内緒にしたのだが、それが今仇となり最悪のかたちで皐月にバレた。
平然と嘘をつける雪斗ならば完璧な誤魔化し方を即座に浮かんだかもしれなかったが、拓海にはハードルが高かった。
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